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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
15/109

目的

車庫の外ではミラとレスフォードが凄まじい確執を1度置いて手を結ぶという一歩間違えば血を見そうな出来事があったのだがそれを知らないラザァは1人思案していたところだ。


金髪ボス風男は未だに車の陰で電話をしている、あの電話が終わるときには良くも悪くも、というかほとんど悪い方へだが事件は動き出す。

人間用出入り口と車庫の車用シャッターの前の男は自分の持ち場を警戒するのに集中しているのでなんとかなりそうだ。


問題はラザァとエリーの背後にいるリードともう1人だ。


2人は何やら話しているが異世界2日目のラザァには知らない単語が多くていまいち意味がわからない。もしかしたら仲間内の暗号のような物もあるかもしれない。


振り返る事はしないが話し声から2人の位置は大体わかる、後はラザァの知った情報を上手く外のミラ達に伝えて最も有効な突入作戦を練ってもらいたいところだ。


最もどうやれば正確に伝わるのかがわからなくて悩んでいるのだが。


ちらりと横を見るとエリーは震えているが目は依然として諦めていない。彼女のためにも、この世界に来て右も左も分からないラザァのためにあんなに親切にしてくれたエリーのためになんとしてもミラ達に敵の配置を教えなければ。


「成功だ、襲撃班から成功の連絡が入り次第ここを引き払う、それまでは今の体制を保つぞ。」

「「はっ!」」


金髪ボス風男が車の陰から現れ、リード達に告げた。


まずい


成功ということは恐らくエリーの父親はこのテロリスト達の要求を呑んだのだろう。要求の内容が恐ろしい。


そして何よりもここからはラザァもエリーも命の保証が無いということだ、エリーは要求の代わりに解放される目があるがラザァは完全にいらない存在だ。逃げる時の人質にされるとか聞いていたからわからないが逃げ切れたらいずれにしろ用済みで殺されるだろう。


「どう?自分のせいでお父さんが僕たちに屈服した気分は?」


金髪ボス風男はラザァに目もくれずエリーに近寄り、話せるように猿轡を外した。


「げほっ、げほっ、あんた!お父さんに何を言ったのよ!」


むせた後エリーはテロリストにも臆さずに刃向かった、金髪ボス風男は「おー怖い怖い」と手をひらひらさせながら言った。


「あなたの知っている、というよりあなたが立てた計画を教えていただけば娘さんは解放しますよーって言っただけだよ、渋ってたけど余程君が可愛かったんだね。」


金髪ボス風男の顔に不気味な笑いが浮かぶ。


「君のお父さんはパイリア市民よりも自分の娘1人を選んだんだ。」


「、、、あんたもしかして、、、今日の、、、」


エリーの顔がどんどん青ざめていく。猿轡をされていた時よりも明らかに足の震えが大きくなっていて今にもガタガタという効果音が聞こえそうだ。


「この様子ならそれなりに知っているんだね、駄目だなあ、こういう情報は娘でも話したりしちゃ駄目じゃないか、軍人失格だね。」


金髪ボス風男の顔の笑みがどんどんと恐ろしいものに見えてくる。


会話の内容からラザァの嫌な予感が最悪の形で当たりそうだ。


エリーの父親、彼はパイリア城の警備兵を束ねる責任者。そして今日の軍事的な何か大きなイベントの警備も担当している。町でのいざこざなんか軍も警察も見向きもしなくなるくらいに大きなイベント。


イベントと聞くと何やら楽しそうな響きだが軍事関係だ。そんな生温いものではない。一歩間違えば帯びたしい血が流れる類なのだろう。


そしてテロリスト達がその計画の情報を手に入れてしまった、何が起こるかわかったものじゃない。


聞きたくない!出来れば関わりたくない!


さっきまでエリーを助けると意気込んでいたラザァの内心は事の大きさにしっかり萎んで逃げ腰になっていた。


だが冷酷にも残酷にも男はにやにやしながら勝ち誇ったように口を開いた。


「その通り、君の父親が吐いたのは今日の警備の計画内容。具体的には今日遠くからパイリア軍に運ばれてくる大型兵器の輸送ルートと警備の配置図だよ。」


金髪ボス風男の勝ち誇った声はまだ続く。


「この大型兵器ってのが面白くてね、噴霧型焼夷爆弾とでも言うべきなのかな?これで軍人の一人娘で好奇心旺盛なお嬢さんはわかったよね?」


その物騒極まりない名前を聞いてエリーはこれ以上無いくらい震えていた。


「あんた達、それを奪って何をするつもりだ?」


いつ殺されてもおかしくない状況で逆に冷静になったラザァが問いかける。ここは少しでも長く喋らせてミラ達に時間を稼がなければ、あの鏡で中を上手く見渡せるかもしれない。


「あ?君まだいたの?まあいいや、お嬢さんは解放するって約束だけど君はすぐ殺すんだし話しても大丈夫だよね、それにお嬢さんが話す頃にはもう全てが終わってるだろうし。」


まだいたの?って解放してないんだからそりゃあいるよ という突っ込みを内心でしつつなんとか情報を引き出そうとする。


「決まってるだろ、パイリアへの報復だよ、僕たちの国からあれだけのことをしておいてのうのうと生きている奴らを許すわけにはいかないんだよ。」


さっきまでの遊んでるような口調とは明らかに異なる、憎しみのこもった声だ。


「今日運び込まれる爆弾は普通の爆薬と火龍の体液を調合してある特別製、爆発と同時に可燃性のガスを周囲に撒き散らし一帯を焼き尽くす代物だ。交差点で起爆すれば高い建物が密集した、そうだね、城のすぐそばの地区でも4ブロックは火の海にできる威力だ。」


もう冷静さなど失い興奮して捲したてる、このままだと少し怒らせただけでもラザァの首が飛びかねない。


「あんた達、シバァニア国民ね?あれはあんた達が勝手にパズームに戦争しかけて、勝手に負けて賠償金払わされただけじゃない!それにもう20年くらい前の話でしょ!それを今更、、、」


「うるさいだまれ!俺の祖父はパズーム、それもパイリア兵に殺されたんだ、このときを待って何年もこの街に住み着いていたんだ、今更復讐を諦められるか!」


そう言うと男はエリーの頬を叩いた、それで思わず立ち上がろうとしたラザァにすかさず蹴りを入れラザァを吹き飛ばす。


「爆弾の強奪が成功したらお前はすぐにあの世に送ってやる、それまでそこで寝ていろ。」


金髪ボス風男はそう言うと机の引き出しから拳銃や弾丸、それに手榴弾のようなものまで取り出しチェックを始めた。


そこでラザァはまずいことに気がついた、蹴られて吹き飛ばされた事が原因でミラ達の鏡と反対向きになってしまった。これではメッセージを送れない。全く持って使い方が異なるが男は背中で語るってやつをやりたい心境だ。


「復讐で罪のない市民を巻き込むのか?」


わざと煽るような声で金髪ボス風男に問いかける。


案の定「あ?」とか言いながら顔を上げた、というか最初の物腰だけは柔らかいキャラはどこへ行った?


「あんたの祖父が何をしていて殺されたのかは知らない、でも復讐で街中を焼き尽くしたら罪のない人々が大勢死ぬ、そしてあんた達の国に復讐を企てる奴がきっと出てくるぞ!復讐の連鎖は何も生まないぞ!」


どこかで聞いたようなセリフだがここは怒らせるしかない、やり過ぎて殺されないのを祈るばかりだ。


「それにあんた達は、、、」


「知ったような口を聞くんじゃねえ!」


男は机に持っていた拳銃を叩きつけるとラザァへと怒鳴った、見張りの兵がビクッとする。


「てめえみたいな甘ったれなガキに何がわかる!?俺はこの時をずっと待ちわびていたんだ、今更説得なんて効果あると思うなよ!」


ガンッ という音が響く。男が机を思い切り蹴飛ばしたのだ。


「いいか?爆弾の強奪が成功したらすぐに殺す、それまではおとなしくしていろ。」


男はそう言い残すとまた奥に行こうとしている、ここでなんとか引き止めなければ。


「僕を襲ったあんたの部下」


引き止めようと必死に考えて口から出た言葉はそんなものだった。


男がぴたっと足を止め振り返る。


「この場所を吐けって痛めつけたらな、泣き喚きながら吐いたよ。」


口から出まかせだ、拷問なんてしていない、ミラが清々しいくらいに瞬殺したのだから。


だがこいつを怒らせて、そしてまた自分を蹴り飛ばさせるにはこういうしか思いつかなかった。たとえそばのエリーに驚きの表情が浮かんでも。


「ぎゃーぎゃー泣きながら許しを請うてきたよ、、、それに、、、」


それにこれは賭けだ、もしかしたらラザァの宿を襲撃し、路地でミラに葬り去られたあの5人はただ雇われたゴロツキで金髪ボス風男にはなんの情もないかもしれない。それならラザァのこの嘘は失敗に終わり、エリーに軽蔑されて終わる。


「人間って追い詰められるとあんなにも情けない声出すんだなあ、、、あんたにも聞かせたかったよ、、、」


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」


ラザァが次々と心無い言葉を吐きすてるのに見かねて金髪ボス風男が寄ってきた。


いいぞ、そして怒りのあまり僕を蹴るんだ、わざとらしく吹き飛んでまたミラのいる窓側を向いてやる。


カチャッ


ラザァのそんな目論見はあっけなく潰えた、男は蹴るでも殴るでもなくラザァの額に拳銃を向けた。


「気が変わった、この場であの世に送ってやる。」


まずい! 煽りすぎた!


ラザァが死の恐怖に目を固く閉じた時、リードが電話を持ちながら出てきた。


「ダニから連絡です、想像以上に野次馬がいたため、襲撃地点を変更するとのことです。しばらく待つようにと。」


その声を聞くと金髪ボス風男はぎりっと音が聞こえるように歯ぎしりをしてラザァのこめかみを思いっきり蹴飛ばした。


ラザァは若干予想とは違う形だが待っていた蹴りを受けて窓側を向くように吹き飛ぶ。


上手く向けた。怪しまれるような吹き飛び方をしていないだろうか?


ラザァは横目で金髪ボス風男を見るが特に気がついた様子は無い。拳銃を腰のホルスターに戻していたところだった。


「命拾いしたな。」


そう言い残してリードとともに机に向かって何やらひそひそ話し出す。


さて、ようやく、エリーから誤解とテロリストからの蹴りまでいただいた末にミラにメッセージを送れる位置にたどり着いたのだ。


もうどう伝えようかは考えていた、ミラが分かるのが前提、となればミラが使っていた方法を使うのが1番効果的だろう。


もう時間が無い、ラザァは最後に見張りの配置を確認し、位置関係を頭に叩き込むと、目の前の窓側、そこにある小さな鏡の欠片に向き合った。

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