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Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
107/109

転換と暗転

「ウェルキン!!」


襲撃犯を無事に撃退したオードルト最高議長護衛部隊が帰還したパイリア城のロビーは市場も真っ青の混雑ぶりだった。


ラザァは人混みを掻き分けながら目的の青年を見つけると駆け寄って名前を呼ぶ。


ウェルキンは所々に包帯を巻いてはいるが大きな怪我は無いようでひとまず安心した。


「ラザァさん……」


「良かった……無事で……」


周りを見るとウェルキンの怪我どころではない重傷のパイリア兵や白い布を被せられている者もいる。帰還した装甲車も大破しなかったのが不思議なくらい傷ついているものばかりだ。


「ラザァさん、自分が追い詰めた敵は……イワン バザロフだったのでしょうか……?」


ウェルキンがずばり本題に入る。


「わからない、でも僕は違うと思う、これはもっと複雑な……」


ついさっきバザロフは正式には軍に在籍している事が発覚してそしてこの襲撃犯がバザロフかもしれないという証拠。偶然にしては出来すぎている。


バザロフかもしれない死体は爆弾による損傷が激しく顔による判別は不可能だった。片手が初めからなかったという事と身長体格がほぼ同じ事、そしてバザロフの階級と同じシヴァニア陸軍大佐のバッジ、これは襲撃犯がバザロフであると示す証拠としては完璧でなくとも十分だった。


だが作り上げようと思えば出来ないこともない証拠だ。


そう'''誰かパイリアでもシヴァニアでもない第三者が両者を争わせようとするために仕込んだかのように。'''


襲撃犯の特徴については軍全体に既に知れ渡っていると聞いた。もし上層部が襲撃犯はバザロフだと判断したならば軍の意見は戦争になるだろう。最高議長であるオードルトはラザァの知る限り争いを好まず聡明だ。だが同時に厳格な一面も持ち合わせている。襲撃犯がバザロフであるということが仮に間違いだとしてもそれを示す証拠が無ければ軍と同じ意見を示すかもしれない。


この後の進展によっては国同士の大掛かりな戦争が起こるかもしれないのだ。これは三ヶ月前とは状況の規模が違う。


「そうですか、ラザァさんはこれからは……?」


傷を抑えながらウェルキンが尋ねる。


「僕にできることならなんでもやって、なんとしても事件を終わらせるよ。ウェルキンは今は休んで。」


「すみません、すぐに復帰します。」


「すまんラザァ、こっちにきてくれ……」


後ろからいつにも増してテンションが低い様子のガレンが声をかけてきた。


「何?」


ガレンの元にいくとエリダもその場にいた。


「ラザァ、私も敵の狙撃手が爆弾で自殺する場にいたんだけどどうもシヴァニア人には見えなかったのよね。」


エリダも片腕に包帯を巻いているがウェルキンよりは元気そうだ。


「つまりエリダも今回の事件はシヴァニアとパズームを争わせたい第三者によるものだと?」


「そこまで壮大な陰謀かどうかはわからないけれどもシヴァニアではないと思う、ということはラザァもシヴァニアではないと考えてるのね?」


「うん、やっぱり何かおかしいよ。」


「要するに敵がシヴァニア軍人でない証拠を上げつつ事件を収束させればいいんだよな?それならまだ手はあるぞ。」


後ろで腕を組んでいたガレンが口を開く。


「でもシヴァニア軍人ではないって証明するのは難しいんじゃない?敵もシヴァニア軍人の証明証みたいなのを見せつけるようにして爆死してる訳だし。」


肯定を証明するよりも否定を証明する方が難しいとはよく言ったものだ。


「パイリア城お抱えの病院には3ヶ月前の事件の時に回収されたバザロフの腕がまだ保管されているんだ。それと今回の敵の腕の切断面が一致するかどうか調べる手はずは整っている。」


ガレンはそう言ってニヤリと口角を上げる。


「あんたにしては準備がいいじゃない!それじゃあ後は私達が敵を全員捕まえれば事件解決ね。」


エリダが手をポンと叩く。


「そんな簡単に言って……」


口ではそう言いつつも心の中は幾分軽くなった、1番の難題に思えたバザロフかどうか調べる作業が片付きそうなのは大きい。エリダの言う通り襲撃犯の掃討に専念できる。


「まあ敵も全部で何人いるのかもわからないし喜ぶのは確かに早いわね。」


「ひとまず次に襲撃が起こりそうな場所を探してみよう。」


ラザァのその言葉を待っていたかのようにガレンがパイリアの地図を広げる。


「まず第一に今日の夕方に行われるパイリア城でのオードルト最高議長の演説だな、まあこれは城の中で行われるから言わずもがな厳重警備なんだが。後は高官の移動などは無いし施設警備を厳重にするくらいしか……引火物の多い武器庫とかか?」


ガレンはそう言って地図の上に何個かコインを置く。それは市内に点在する軍の施設の位置だ。


「こうして見ると結構散らばってるね、全部をカバーするのは難しそうだけど……」


「普段は無人の事務所とかは無視しても構わないだろう。人がある程度いて、なおかつ兵器や車両があるところを考えると……」


ガレンはそう言いながら地図の上のコインを何枚かどかす。そうすると地図上に残ったコインはほんの3枚だった。


「そのうち1つにはダルクの部隊が警備として常駐しているわ、警備体制としては万全な。」


エリダはそう言って1番大きな施設のコインをどかす。


「警戒すべきはあと2つか、俺らと……あの牛野郎はどこに行った?」


ガレンはキョロキョロといつもの喧嘩相手の姿を探すが城のロビーにはアズノフはおろか獣人の姿は見えなかった。


「ああ、あなた達仲良いのに知らなかったの?アズノフなら今朝から警備で部隊を率いているわよ。」


「誰が仲良しだって?それよりもどこを警備してるんだ?」


ガレンがむすっと尋ねる。


「ええと確か……」


その時パイリア城のロビー全体に乾いた破裂音が響き渡った。そしてその直後にもっと大きな爆発音も。


「なんだ!?」


ロビーにいた兵士達がパニックになる中、音のする方向へラザァは飛び出し窓を上げる。


城の窓から斜め下、市街地と城の間から火の手が上がり、破裂音、つまり銃声と爆発音が立て続けに響いてきていた。


「おい本当か……」


すぐ後ろに来ていたガレンが頭を抱える。


「ガレン!あの建物って……」


ラザァもこの街に来て3ヶ月やそこらで完璧に地形は把握していない。今燃えている建物がなんなのかわからない。


「さっき話した軍のお抱えの病院だ!3ヶ月前の片腕が保管されていて今さっき敵の死体が運び込まれた場所だ!奴ら証拠を完全に消し去るつもりだ!!」

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