動き出す陰謀(第3章)
「敵の数は!?」
「わかりません!ぐっ!!」
銃声とともに地面に赤いシミができた。
パイリア市街地から離れたイメリア区のとある道路は今や銃声が響き、弾丸と爆弾の飛び交う戦場と化していた。
こうなったのはほんの少し前のこと。
今日は夕方にパイリア城の大広間の1つで行われる市民に向けたオードルト最高議長の演説会に向けて朝から大量の衛兵が駆り出されていた。
オードルト最高議長のスケジュールの都合上早朝に市内の端から端に大きく移動しなければならなかった。連日の襲撃事件のこともあり大掛かりな警備体制が組まれていた。オードルト最高議長を乗せた防弾の小型バスを取り囲むようにパイリア軍の装甲車が配置され、通過する道には衛兵が見張りに立っていた。
「いくらなんでも大げさ過ぎる気がするがな。話に聞くと例の襲撃犯は姿を消すとは言え武器は拳銃と軍刀らしいし装甲車の前にはどうしようもなさそうだぞ。」
「まあ念には念を……ってことじゃないですか?」
編隊の最前を走る装甲車の中の空気は割と穏やかなものだった。今回の警備に関わっている装甲車はパイリア軍の軍用車でも最新鋭のもので大型ライフルでも打ち抜けないものだ。報告書の通りならいくら相手がすばしこくてもこちらにダメージをあたえることすら出来ないはずなのだ。
「こちらC4を通過、そちらは?……どうした?」
「どうした?」
背後の座席で地上の見張りと定期的に交信していた兵士が何やら不穏な空気を放ち始めたので助手席の兵士が尋ねる。
「いえ、前方の見張りから返信がなくて……雑音が酷いため単に電波が悪いだけかも……」
車内に緊張が走る。
「早急に調べろ!」
助手席の兵士はそう怒鳴ると装甲車全車両につながる無線を手にした。
「こちら先導のゼレク少佐、前方C7の見張りからの交信が途絶えた、至急警戒体制を……」
「おい、なんだあれ……うあああぁ!」
ゼレク少佐が無線で話し終わるより前に運転手の悲鳴がそれをかき消した。
突如横道から大型のトラックが現れ、道を完全に塞いだのだ。
「くそっ!!止まれ!!」
「無理だ!距離が足りな……」
「みんな車から飛び降りろ!!!!」
ゼレク少佐が叫び声が響いた数秒後、装甲車はトラックの横腹に激突し火を上げていた。後ろからの装甲車も次々に急ブレーキをかけ止まっているが止まりきれずに横の電灯に激突している車もある。
「みんな無事か!?」
「リックが……」
「……くそっ!」
装甲車の前面は潰れ、火と真っ黒な煙を上げていた。
「総員警戒しろ!」
'''見張りを倒しトラックを突っ込ませた敵が必ずいるはずだ、どこだ?'''
その時、背後、いや周りから爆発音が立て続けに鳴り響いた。
見ると鉄壁と思われたパイリア軍の編成はいたるところから火を上げ、絶えることなく爆発が起こっていた。
「どういう……」
編隊が火に包まれてから僅か後、銃声が響き始めた。
「ガレン!オードルト最高議長が襲撃されたって本当!?」
「残念ながら本当だ、サプライズでも何でもない、早く乗れ!」
ガレンからの衝撃的な電話で叩き起こされてそのまま寮まで軍用車で迎えに来たガレンによれば先ほどの電話の内容はラザァを起こすための嘘でもなんでもなく本当の出来事らしい。そしてそれは今も現在進行形で起こっている出来事なのだ。
「これから現場に?」
「いや、増援は既に他の場所から複数出発している、俺らは敵の解明だ。」
そう言いつつガレンはすぐに車を出した。
「敵の解明?またあの黒い奴じゃないんだよね……」
「ああ、まだ詳細はわからないが大量の銃火器と大人数なのは確かだ、いきなりの力押しに出て来やがった。」
「敵は仲間がたくさんいたってこと?」
「ああ、だからまずは1番怪しいイワン バザロフの人間関係から洗い直す。奴が未だに動かせる大人数がいるかどうか、そしてパイリアにそいつらを招き入れることができるかどうかだ。」
「バザロフ……」
「なあラザァ。」
急にガレンがトーンを落とす。
「何?」
「お前はやっぱすごい奴だよ、ウェルキンが心配だろうに全く取り乱していないからな。」
「ああ……ウェルキンを信じているって言えば聞こえはいいけどね、でも上司としてどうなんだろ。」
「理性的に行動できるやつなんてそうはいないさ、誇っていい。さあ俺らは俺らの仕事をするぞ。」
ガレンが連れて来てくれたのは市内に点々とある軍の小型基地だ。軍用車や弾薬などのある倉庫を抜け、警備のある事務所部分へと入る。
「洗い直すって……うわっ!」
「驚いたか、昨晩俺なりに資料を集めたんだが自分のデスクではスペースが足りなくてここを借りたんだ。」
事務所の机という机には雑誌や新聞、文献が所狭しと置かれその数は到底1人で見るものではなかった。
「これ全部シヴァニア関係?」
「正確にはシヴァニアとパズームの戦争関係だ。戦時中に調べ上げられたシヴァニアの主要な軍人の記録もある。」
「バザロフは昔はシヴァニアの大佐?だったらしいからなるほどね。これでパイリアに恨みを持ってる人を探してみればいいんだね。」
「そういうことだ、ラザァはそっち端から頼む。」
「うん!」
'''これで少なくとも今回の犯人がシヴァニアかどうかまでははっきりする。'''
3ヶ月前の事件だけでなく、シヴァニアとパイリアの因縁の歴史を紐解く作業が始まった。




