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Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
103/109

前夜

暗い地下室、その1つから明かりが漏れている。


中には数人の男がお互いの体に包帯を巻きながらうごめいている。


その光景自体よりも目を引くのは男達のその肌だ。数人皆背丈や体型に差こそあれど全身に火傷の痕があり、顔では誰なのか判別がつかないほど酷い者もいる。


彼らは皆、全身を覆い隠すように包帯を巻きつけ、その上から毛皮で出来た服を着る。北国に生息する獣龍の表皮から作られるそれは薄く動きやすくも寒さや暑さから身を守り。小型ナイフや弓矢が掠った程度では貫通しない戦闘用の服にはもってこいだ。


全員が服を着終わると、壁際に寄せてあるたくさんの箱を開け、中身を点検し始める。箱の中身はパイリアではまず見かけない外国製の重火器だった。機関銃に榴弾、拳銃にライフルと軍一個小隊分はある。


この日を待ちわびていたかのように丁寧に磨き上げられたそれらを1つ1つ丁寧に持ち上げ、動作を確認しては戻していく。別の箱にある手榴弾は1人5発持ってもおつりがくる量だった。


重火器、爆弾を調べた後に開けた箱は刃物類だった。湾曲したサーベルのような軍刀から小型ナイフまでたくさんあるそれらも皆綺麗に磨き上げられている。


1つ1つ丁寧に点検し、それらの箱の蓋を閉じた後。最後に部屋の隅にある大きな箱の目の前に立つと、男達の中で1番背の高い者がおもむろに服を脱ぎ始めた。


男が服を脱ぎ終わると同時に最後の箱の蓋がギシリと音を立てて開けられた。


中にあったのは家畜の解体用に用いられる超大型の包丁だった。それだけは血の跡がこびりつきお世辞にも管理されているとは言い難い。


服を脱ぎ終わった男がゴクリと喉を鳴らし、その錆びついた刃物を手にした。


その時だ、地下室にマントを被った男が1人入って来たかと思うと息を荒げながら包帯の男達に近づく。


「決行が早まった、明日の明朝だ。」


包帯の男達に動揺が走る、もっとも大きく反応したのは大柄で裸で包丁を持っている男だ。


「すまない、だが急いでくれ。」


マントの男は伏し目がちにそう告げると再び地下室を出て行った。





「ガレンの奴もう少し言い方って物が……」


ガレンに強制的に追い出され寝ろと言われたラザァが自分の住まう独身寮に到着して玄関でブツブツと呟いていた言葉だ。


玄関の脇にあるろくに機能していない管理人室の横を通り抜ける時に身を低くしそうになって立ち止まった。


「そっか……今日はミラ、いないんだ……」


思えばここ3ヶ月程はほぼ毎日のようにミラが部屋に来ていたので、一応女性禁制のこの独身寮に入る際はいつも管理人室の窓から見えないようにしていたのだ。まあ管理人もかなりいい加減で見られても何も言われはしなかったのだが。


「どうしてあんなにおこっちゃったんだろ、僕そんなに悪かったのかな……」


ミラが面倒臭い性格なのは知っていたつもりだったが、それでもあそこまで激昂するなど今までなかった。


「あれっ?ラザァさん?」


二階に続く階段からやや間の抜けた声がしたと思えばもうしばらく会っていない気がする異民保護対策局専属護衛官ウェルキン ホービスだ。


「やあウェルキン、そっちはどう?」


「はい、現場の調査も終わって明日は一日中警護なので仮眠するようにと。」


「そっか、ご苦労様。」


「ラザァさんは?」


「僕も事件解決が行き詰まってて一度休めってガレンに追い出されちゃった。」


「どこの部署もそんか感じですね……犯人がシヴァニアに関係してるって事と例の黒い敵が不思議な力で姿を隠すということしかわかってないですし……」


ウェルキンはそう言って顔をしかめる。何を隠そうウェルキンこそこの一連の事件の最初の被害者なのだ。他の衛兵や護衛官達とは向き合い方が違うというか……


「そのことなんだけど……」


そう言ってウェルキンにさきほど会議で話した仮説を話した。黒い敵はカラスと人間の希少種なのではないかというあれだ。ラザァと同じく実際に奴と対峙したことがあるウェルキンの意見を聞きたかったからだ。


「なるほど……確かにそれならあの建物の屋上から姿を消したのも暗闇でカラスに変身したと考えると納得できます。」


一通り聞いた後にウェルキンは頷く。


「やっぱりカラスにも注意する方向でいった方が良さそうだね。」


ラザァもそう言って頷く。


「ラザァさん、何か悩んでます?事件の事以外で?」


ウェルキンがふと思い出したように告げた。


「え?」


「ミラさんと喧嘩でもしました?」


ラザァが何のことか対応もできていないうちにこの護衛官は悩みの種まで的確に指摘してしまった。


「あはは……やっぱりわかる?」


「事件以外で悩んでるって思ったらやっぱりミラさんとの事かなって思っただけですよ。」


ウェルキンは謙遜しているがやはり彼の人を見る目は正確だと思う。ヘレナといいパイリアの若者はしっかりしすぎではないか。


「自分でよければお力に……」


「これはミラと僕の問題だからウェルキンの手は煩わせないよ。」


そうだ、ことにミラに関しては安易に他人の介入は許されないのだから。


「そうですか。」


「ところで明日の護衛任務って?」


ここ最近事件にかかりきりでパイリア城の行事やら何やらが頭からごっそり抜け落ちているのだ。何かあったかなとウェルキンに尋ねる。


「はい、夕方から行われるオードルト最高議長の市民に向けた演説会とそこまでの最高議長の警護です。」





その後はウェルキンと他愛も無い話を少ししてガレンの忠告通り部屋で早く寝た。そして寮中の凄まじい足音と数えきれない電話の着信で目を覚ますことになった。


「ラザァ起きてるか!?オードルト最高議長を乗せた車両が襲撃を受けている!!黒い奴の単独犯じゃない!軍隊レベルの編成だ!!!」

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