さらば俺を焦がす日々よ
「…でさー、その芋みたいな名前の映画さ、すっげぇ面白かった訳よ!! 途中で寝ちまったけどな。でな、お前暇潰しは映画なんだろ?知らねーか?」
あぁ、もちろん知ってる。
この前の土曜の深夜だろ?
アイダホがやってたな。
……なんて教えねーけど。
「んな時間、寝てるわっ!!」
いつもと同じ、軽いツッコミで奴の肩に触れる。
あ…少し筋肉落ちたか?
そもそもんな映画見てんなよ。
それ男同士の恋愛モノだぞ?
……なんて言わねーけど。
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受験が近付いてきた中学のその時期。
奴への感情を自覚したのは、クラスの喋ったこともねー女子からの告白だった。
「好きです!」
……いきなり言われても。
それが率直な感想だった。
で、次に浮かんだのは奴の顔。
……意味も分からずただ赤面してその女子を少し勘違いさせたが、即座に「ちっ、違う!!好きな奴がいるんだっ」と断った。
それから暫くは自分の感情に付いていけなかった。
奴の一挙手一投足……
それに一喜一憂……
自分自身がバカらしかった。
でも……
思春期ってのは存外欲望に素直らしい。
夢に見ちゃ認めざる得なかった。
好き、ってな。
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で認めたは良い。
奴に惚れさせてやるっ!!
……なんて夢物語を言えるほど俺の頭は終わってなかった。
何せ、奴には彼女がいる、とびきり可愛い、な。
…そう、俺の初恋は始まる前から終わってたんだ。
でも、良かった。
もうすぐ卒業だから…
奴と同じ高校を受験する前だったから…
行くのは奴と違う高校にする…
奴を見て、嫉妬、自己嫌悪、歓喜……そんなものに身を焦がす日々はもうすぐ終わりだ。
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「おーい、なにしてんだよ、遅刻するぞ?」
新学期、つまり高校に上がって初めての日…なぜお前がその制服を着ている?
都内屈指の全寮制の男子校、つまり俺が通う高校。
「ったく、水くさいよなっ。親友の俺に内緒で進学先変えるなんてさ。おばさんに聞いてなきゃ、俺、高校でぼっちになるとこだったろ?」
……彼女と同じとこにすりゃあ良いじゃねぇか、思わず呟けば、「親友が大事だっ、て言ったらフられちった。」とあっけらかんと笑った。
………あぁ、つまり俺を焦がす日々はまだまだ続く、と。