第1話 異世界、片道切符
ここは異世界。
魔族も獣人も精霊も、名前も知らない種族も、
とにかく「人間じゃない存在」が
当たり前みたいに暮らしてる世界。
で、うち?
うちは 愛羽きらり(あまあきらり)、17歳!
……え、人間っぽい?
うん、それ、よく言われる。
まぁそりゃそうだよね。
だって3ヶ月まで、普通に日本で生きてたし。
きっかけは本当にくだらなくて。
ある日いきなり、目の前に でっかい扉 が現れたの。
「え、なにこれ?
どこぞのアニメのなんとかドアじゃん!」
――とか言って、興味本位で開けたのが運の尽き。
一歩踏み出した瞬間、景色がひっくり返って、
気づいたらここ。
異世界。
しかも戻れない。
……あはは。
笑うしかなくない?
だから今、うちは各地を冒険中。
「異世界転生?あるあるじゃん、
今さらバズらないでしょ」
とか言われても知らない。
バズりたいんじゃない、帰りたいの!!
――あ、そうそう。
「きらり!」
低くて唸るような声と一緒に、
地面が微かに震えた。
「はいはい、ごめんごめん」
この子が、うちの相棒。
名前は 朔。
魔獣。
見た目は……正直よくわかんない。
角もあるし牙もあるし、尻尾もごつい。
でも雰囲気はサモエド。
たぶん。きっと。そういうことにしてる。
「朔、火はダメだからね?」
返事の代わりに、鼻先から小さな炎が
「ぼっ」て出た。
「うわっ!?
ちょ、だから派手なのはやめよって!」
……とは言うけど、内心ちょっと誇らしい。
だって口から炎だよ?かっこよくない?
ふっふっふー。
さすが、うちの相棒!
――その瞬間。
「……あ」
空気が変わった。
ざわざわとした視線。
ひそひそ声。
そして、飛んでくる硬い感触。
「いっ……!」
小石。
次の瞬間、また一つ、また一つ。
「やっぱ見つかったかぁ……」
朔が低く唸って、うちの前に立つ。
でも、それ以上はさせない。
だって知ってる。
うちが
天使と悪魔のハーフ だってだけで、
「異物」だの「キモい」だの言われるの。
ここでは、それが“普通”。
「よし、撤退撤退!」
朔の首元にしがみついて、路地裏へ全力ダッシュ。
「はぁ……はぁ……」
人気のない場所まで来て、ようやく一息。
「……今日の村、ハズレだったね」
朔が鼻を鳴らして、うちの頭に額を擦りつける。
「だいじょぶだいじょぶ!」
うちは笑って、拳をぐっと握った。
「泊まれる宿屋探して、
情報集めて、
帰る方法見つけて――」
ポジティブだいじ!!
折れたら終わり!!
「んなわけで、れっつらごー!」
夕暮れの異世界の街に向かって、
うちと朔は、また歩き出した。
とりあえず、次の大都市まで……なんキロだろ。
道の脇に落ちてた折れ木を椅子代わりにして、
どすっと腰を下ろす。
朔はというと、うちの足元で丸くなって、
もう休憩モード。
「日本にいたときはさぁ…
Googleマップ神だったよね」
誰に言うでもなく呟きながら、地図を広げる。
線、線、線。
意味はわかる、けど距離感がわかんない。
「えっと……ここがここで……」
指でなぞって、計算して。
「……400キロ?」
一瞬、思考が止まった。
「えっ、待って!?
大阪から東京までの直線距離じゃん!!」
無理無理無理。
歩いたら何日?何週間?
そもそも道ある?
参勤交代!?
「地理と体育だけは得意だったんだけどなぁ……」
あと、なぜか古文。
春はあげもの、とか。
……いや異世界来たら古文関係ないけどネ。
あはは。
「それより、どうしよ……」
野宿?
この世界で?
魔物出るよね?普通に。
そんなこと考えてたら――
ゴトゴト、と音がした。
顔を上げると、立派な 馬車 が目の前を通り過ぎようとしてた。
「……えらい人?」
反射で立ち上がって、45度のお辞儀。
日本に17年住んでたら、もう体が覚えちゃうよね。
異世界でも礼儀。
すると、馬車の窓が開いて――
ひげもじゃのおじさん が顔を出した。
「お嬢ちゃん、礼儀いいね。ありがとうな」
「い、いえっ!」
「どこへ向かおうとしてるんだ?」
「えっと……セブンテイルって都市に行きたいなと思ってて……」
そう言った瞬間、
おじさんがにっと笑った。
「お嬢ちゃん、気に入った。
よかったら、乗せてってやるよ」
一瞬、世界がきらきらした。
「いいんですか!!
ありがとうございます!!」
即答。
「朔〜、この前みたいにちっちゃくなれる?
うちの膝の上で寝てていいからさ!」
朔はちらっとこっちを見て、
「……ふん。しょうがない」
って顔で、もやっと縮んだ。
「よしっ」
「お願いいたしますー!」
馬車に乗り込んで、座席に腰を下ろす。
膝の上で丸くなった朔は、すぐに目を閉じた。
ゴト……ゴト……
馬車が動き出す。
窓の外、知らない景色。
知らない空。
知らない未来。
でも。
胸の奥が、少しだけ高鳴った。
「……始まるんだ」
うちは、ぎゅっと拳を握る。
異世界の生活が。




