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公爵令嬢はお節介が過ぎる(過ぎる)

作者: なみみん
掲載日:2026/01/26

煌めくシャンデリアが、豪華なダンスホールを照らしている。

大勢の男女が美しく楽し気にダンスを踊る中、子爵令嬢コモリーナは一人で壁の花となって寂し気に佇んでいた。

(チュニー様…やっぱり私を誘ってくださらないのですね…)

彼女は自身の婚約者、伯爵家子息チュニーとの関係がうまくいっていないことを悩んでいた。


この婚約は、親同士の強い意向で結ばれたものである。

(思えば、婚約の際の顔合わせの時からあまり乗り気じゃなかったご様子でしたもの…目が合ったかと思うと逸らされてしまって…あまりお話も弾みませんでしたし…)

もともとコモリーナは内気な性格で、目の前の状況が悪くなると自分のせいかと思い込むタイプだった。

(私の顔があまりお好みではなかった…?でも…確かに私はパッとしない見た目ですもの…)

自分が婚約者であることに自信がなくなり、手紙のやり取りなども形式的なものばかり。踏み込んだ付き合いができない悪循環に陥っている。

(私からお誘いしても…気持ち悪いと思われるかしら…。好みでない異性に近寄られるのは嫌ですものね…)

何をするにも遠慮がちになってしまうコモリーナは、考えるうちにどんどん卑屈な思い込みが出てきて、ちょっと泣きそうになってきた。


「あら、ごきげんよう。可憐なコモリーナ様」


急に自分の名前を呼ばれ、ハッと見れば、非常に迫力のある美女がコモリーナに笑顔を向けている。

「ああああアンティーネ様!!!!ご、ごきげんよう…!」

アンティーネ公爵令嬢がそこに立っていた。彼女の魅力的なボディラインが紫の美しいドレスに包まれている。豪華に結い上げられた金色の髪にはアメジストの髪飾りがキラキラと輝いて眩しい。

(アンティーネ様…!今日もお美しい…!とても私と同い年とは思えませんわ…!)


彼女はその美しい優雅な微笑みでコモリーナに話しかける。

「なんだかお顔の色が優れないように見えましたの。ずっとこんなところで立っていらして、お疲れかしら?」

「い、いえ…私は皆様のダンスを眺めているのが好きなだけなのです。ご心配いただき、ありがとうございます」

(アンティーネ様、ずっと私なんかのことを見ていたの……!?)

コモリーナはさっと青ざめた。壁際に突っ立ってぼーっとしているなんて、貴族令嬢としての社交力が無いことが丸わかりだ。咎められてしまうのだろうか…。


公爵令嬢アンティーネは、じっとコモリーナを見つめる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(あらやだモゥ~!可愛いィ~~~!!!

子猫ちゃんみたいに震えちゃって!☆


女の子たちが『コモリーナ様は弱気が過ぎる』ってウワサしてたから気になってたケド!

可愛くて健気な子じゃないのよォ~~~!!!


オバちゃんから見ればね、弱気だって全然良いの!まだまだ若いんだものォ!今は強くなる途中なのよねェ〜〜~!!!


ここはオバちゃんが人肌脱いであげましょッ!これでも前世では親戚一同からその孫の友達まで、恋のキューピット役を担ってたんだからネッ!☆

やっぱり若い子は幸せでなくっちゃあね~♪)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…実はわたくし、コモリーナ様の婚約者の方をお見掛けしましたわ」

アンティーネは紫の羽根つき扇で、スッとパーティの一角を指し示す。


そこには、コモリーナの婚約者であるチュニー令息がいた。

「あ…チュニー様………」

チュニーはこちらをチラリと見ながら、ソワソワとしている。

その様子を見て、やはり私のことを快く思っていないのかとコモリーナはがっかりした。

「あ…ええ、彼は私の婚約者です。ですが、その…」

「彼、あなたのことが気になるようですわね」

「えっ?」

「噂になっておりますわ。チュニー令息は奥手…言い方を変えれば、気になる女子との接し方が分からないヘタレだと。」

「そんな…私が至らないだけですわ」

「いいえ。れっきとした証拠がここにあるのです。これをご覧になってくださいまし」

そう言って、アンティーネは数冊のノートをどこからともなく差し出した。


『カッコいい男になるためのアクション100』

『コモリーナとの愛の交換日記(未渡しなのでまだ真っ白)』

『愛の詩(コモリーナに捧ぐ)』

『デートプラン・アイデアノート』など…


それを見たコモリーナは、背景に稲妻が走ったかのごとく衝撃を受けた。

(これは…!見てはいけないものなのでは…!?)

というか、彼の机の引き出しの奥底から外界へ引っ張り出してはいけないものである。※本人の名誉のために注記:これらの内容はごくごくピュアなもので、女性が見ても問題(?)はない。


コモリーナは顔を赤くした。

(彼が、私のことを想っている…?)

「いかがかしら、コモリーナ様。チュニー様は大変な夢想家でいらっしゃるようですわね。あれこれ考えるのは得意のようですが、いざそれらを実践しようとすると、ご友人たち総出で止められるらしいですわ」

(えぇ………)

「ほら、もう一度チュニー様を見てごらんなさい。」

コモリーナが再度彼を見ると、彼はこちらを見て顔を赤くしながら今にも駆け出しそうである。友人たちに肩や腕をつかまれ、なんとか抑えられている。

(チュニー様…このノートをアンティーネ様に盗られてしまったのかしら…)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


オバチャン精神の前には、プライバシーなど皆無である。

これらのノートは公爵令嬢の権力や伝手、あらゆる人脈を使い倒して手に入れたものだった。


(あらやだモゥ~!!!顔真っ赤にしちゃって!青春よねェ~!!!)

アンティーネはフフフと扇の下に笑みを浮かべる。

(お互いのホントの気持ちに気づいたようね!こういうのは簡単なのよ!素直にお互いさらけ出しちゃえば良いのよね!☆)


上級貴族の間では「アンティーネ様が笑顔で話しかけてきたら、裸足で逃げろ」と言われている。

不幸にもコモリーナは社交があまり得意ではなく、アンティーネのその評判を知らなかった。


彼女の強烈な善意のお手伝いは、若者のピュアな恋心を、それはもうめちゃくちゃにかき回すのである。

持ち前の一方的なコミュ力でぐいぐいと相手の家に上がり込み、家族や関係者の証言を取り、あらゆる物的証拠を押さえ、そして問答無用の力業で二人をくっつける。

公爵令嬢の権力(今世)とオバちゃん精神(前世)が絶妙にマッチして、とんでもない化け物が生まれていたのだった。


なお、彼女に世話を焼かれて結婚したカップルは、実際とてもうまくいっている。

ただ「男としての尊厳が失われた」「もう他にはお嫁に行けない」というのが当事者(被害者)の本心である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これを見て、いかがなさる?コモリーナ様?」

アンティーネがずい、とコモリーナに迫った。

「あ、あの…その………」

(あらやだモゥ~!!!彼への意識が変わったみたいねッ☆あと一押しだワッ!)

「ちなみに、コモリーナ様の想いも、それとなく彼に伝えましてよ」

「!?!?え!?!?」

「いつも物憂げに彼のことを見つめてらっしゃるのですもの。そのご様子や日々の努力、コモリーナ様の過去の可愛らしい魅力などをしっかりお伝えしましたわ」

「え!?ええ~~~!!!!!」

コモリーナは貴族令嬢としてはあるまじきほどに顔を真っ赤にして叫んでしまった。

(アンティーネ様!いったい何を彼に伝えたの…!!!)

おそらく目の前のノートと相応なものが彼に伝えられている。コモリーナが慌ててチュニーの方を見ると、彼と目がばっちり合った。


その時、コモリーナは初めてちゃんと彼の顔を見たような気がした。

それまで相手にどう思われているかを気にしてばかりで彼の顔をちゃんと見れていなかったのだろうか。それとも、外面を剝ぎ取られて素の表情になった彼を見ることができたからなのか。

彼はコモリーナにとって、とても話しやすそうな人物に見えた。


(と、ともかく!!!彼と話をしなくちゃ!!!)

一体自分の今までのどの行いが、どのように彼に伝えられたのか、気が気ではなかったコモリーナは決心する。

「あ、あの、彼と少し話したいと思います…!」

それを聞いたアンティーネは、美しく微笑んだ。

「ええ、行ってらして」

(オバちゃんは応援しているわヨ!頑張ってね!☆)

アンティーネは優雅な仕草で、どこから取り出したのか、コモリーナに飴ちゃんを渡した。

「健闘を祈りますわ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結果的には、アンティーネの恋のキューピットとしての活躍は大成功だった。

コモリーナ嬢とチュニー令息はお互い引っ込み思案の夢想家同士だったようで、建前や外面を外されて本音で話せる関係性にお互い居心地良さを感じているようだ。愛の交換日記も日に日にページが埋まっている。

いろいろ恥ずかしい面を晒されたという傷はあるものの、お互い様といった感じで何とかやっているようだ。


(あらやだモゥ〜!!!また幸せカップルが誕生しちゃったじゃないのォッ!オバチャン頑張った甲斐があったわァ〜!)

公爵令嬢アンティーネは、美しい瞳を輝かせて満足そうにそっと微笑む。

「さて…次のパーティーはいつかしら?」

アンティーネはメイドに虎柄の毛皮のショールを持ってこさせ、その身体に羽織った。

そして次の獲物を狙うのだった。





アンティーネ(オバちゃん)は、前世でも似たようなことをして周囲から恐れられていました。

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