第4話 現れる
あとすこし、もう少しだけ。
世界の構築が終わるまで。
画家になって、本当のところ後悔してる。実際のところ、もうちょっと自分にあった職業があるんじゃないかって思ってる。
でもここまで売れっ子になっちゃったからちはこの先も永遠に続けていかないとダメだ。
きっと、筆が持てなくなるまで絵を描き続けなくちゃダメだ。世界中から絵の具がなくなったら自分の血で描こう。
そうしないとダメだ。
自分にはそれしか価値がないんだ。
やり続けなくちゃ本当のゴミに戻ってしまう。
それは嫌だ、そんなの切ない。
そうやって、改造人間にされてなかなか苦痛を感じない身体になったうえで、手が震えるようになってきた頃、胸のクライムコンバータが点滅した。
現実に戻される。
「菊池さん、怪人が出ましたよ」
「……人の仕事を邪魔しやがって……」
「世田谷のまちなかに」
怪人が出たという其処に向かってみると、生体装甲を身に纏った人型の異形がおり、人々を襲っていた。
ああ、これは……。
たしかに、いけない……。
「おい、子供をいじめるのは止せよ」
「あぁ? なんだ、お前」
「人間」
クライムコンバータのシャッターが開いて、ギュインと音が鳴る。全身に力が溢れ出し、俺の身体も変化していく。
黒い生体装甲、フルフェイスの黒いマスク。
黒いボディ、真っ赤な目。
「怪人じゃ~ん」
怪人は手の平から炎を放った。おそらくこれが魔法なのだろう。それを真正面から受け、拳に引火したまま顔面をたたきつける。
怪人は思い切り吹き飛んで電柱にぶつかった。
俺の持つ魔法はクライムコンバータの破壊能力だけか? ……いいや、おそらく違う。まだなにかあるはずだ。
まずは其処から探っていくことになりそうだ。
「いてぇ、いてぇよ、あほ、くそ、痛い痛い……」
「おい」
「ああ!?」
「その胸のバカみたいなクソったれの機械、壊すぞ」
「ふざけんなよ……」
純粋なエネルギー波が吹き荒れた。
どうやら俺を吹き飛ばそうというつもりらしい。
このままじゃマズい。あんまり力が強いので普通に吹き飛ばされてしまいそうになる。
「何故人々を襲う」
「神をこの世に召喚するのさ」
「人々を襲わなくちゃできないことなのか」
「たぶんそうなんじゃねぇの。なんでお前知らねぇの」
「人命を奪おうっていうんだぞ、お前」
「あ?」
「なんでそんなに事を軽々しく扱うんだ?」
「はは……。ハァ?」
地面を蹴り、一気に間合いを詰め、顔面に拳を食らわせる。
また弾けるように跳んでいきそうになるから、足を掴み、思い切り振り回す。壁に叩きつけると、「ぎゃあ」という声があった。
「人の命の重みを……」
「重み? ねぇよ、人なんて……醜いばかりだ」
「なんだと」
「そうだろ。お前は知らないのか、幸せな家庭で生きたんだな。俺は幼い頃に母親を失ってから父親が最低のクズ野郎になったんだ。酒を飲んで働くのをやめて姉をいじめてた。乱暴をふるってたのさ。許せなくて……殺したら、姉は家族ってのを信じてたから、怒った姉に殺されそうになった! そこを拾われて、今の俺さ! 俺は愛されてなんかいなかった。ふざけんなって思うだろ!? 産んでくれなんて頼んてなんかいなかったのに! クソの母親のせいだぜ、あの女はさ、最後まで自分がクズだって自覚しなかった!」
「自覚させる方法知ってるよ」
「あぁ!?」
「今のお前を見てもらえれば良いんだな。ハハ。お前の母親も、せっかく腹痛めて産んだガキがお前みたいなクズだって知ったならさ……ハハ……自分のことクズだって思っちゃうぜ」
「な、に……!?」
「お前の母親も別にお前を産みたかった訳じゃないって事だ」
「死ねよ!!」
過去がどれだけ苦しかろうが、人命に手をかけた時点でクズはクズだ。ああ、そうだね。
「まずは、一個目」
クライムコンバータの故障音が世田谷に響いた。




