第3話 塞ぎ込む
自宅兼作業場に帰ってくると、狂人は「くっせ」と呟いてきた。
こういうボソッと吐き出された何気ない呟きが誰かの心を傷つけていることをこいつはまだ知らない。
道中「マネージャーと呼んでください」としつこく言われたのでこれから先この狂人をマネージャーと呼ぶことになる。
心が泣きそうだ。
「あんたが俺の補助役をして何がどうなるんだ」
「拳銃とか持ってるのでいつでも加勢できます」
「なんで持ってちゃダメなものを持ってるんだよ」
「いいですか、菊池さん」
「よくねえよ」
「警察というのは『銃を所持してもいいですか』と聞かれた場合、立場上『ダメです』と言わなければなりません。しかし、そう聞かなかった場合『ダメ』という事実が発生することはないんです」
「そうかな? ダメはずっと発生してると思うが?」
「それはあなたの話でしょう?」
「冗談じゃないくらいの本当の犯罪なんだよ……」
いつ後ろから撃たれるか分かったもんじゃない。
なんでこんなクレイジーヒューマンが俺の聖域のなかに両足突っ立ててんだよ。山を降りろよ。頼むから山を降りてくれよ。
「というか怪人に銃が効くのかよ、魔法とかっていうのを使ってくるんだろ怪人は。そこんトコロどーなのよ」
「効きます」
「その心は?」
「では」
パン!
俺の太ももから出血。
「マジか」
「利きましたでしょう?」
「こりゃ確かに効くな」
ピンセットで太もも弾丸を抜きながら。
「出てってくれ」
「あなたは少々気が小さいのかも」
「かなりでっかいことを今まさに自覚しているところだよ」
いきなり撃たれて「出てってくれ」で済ませてるなら俺は神だ仏だとかよりも寛大だよ。
「これどうすんだよ……」
「たぶん二十分もすれば治るかと」
「…………」
俺って本当に人間じゃないんだ。
なんでこんなアホみたいな悲哀を感じなくちゃならないんだ。なんで法律で罰せられてないんだこいつら。
もしかして警察とかもグルか?
俺はもう何を信じたら良いんだ。
「ちょっとこ心がお元気じゃないから寝る。よほどの用がない限りマジで起こすな。俺は成人男性だけれどやろうと思えば人前で脱糞ができてしまう人間だぞ」
「慣れてるので構いませんよ。私夕飯作りましょうか。何が食べたいですか」
「俺、飯は基本的に食わねえよ」
「不健康ですね。食べましょうよ」
「食いたくないったら食いたくない」
俺は頑固ちゃんだった。
「もう、何故です?」
「俺孤児なんだよ。ゴミ捨て場で拾われたの」
「それがなにか……?」
「いや……ほら、ダメだろ……? ゴミが人の飯食っちゃ……」
「え、えっ……?」
「とにかくマジで寝るから起こすなよ」
俺は八時間くらい寝た。
起きて太ももを見てみると完治していた。
「即戦力って訳だ……」
「朝ごはんできましたよ」
ベッドわきにしゃがんで
「俺は食わないって言ったじゃん……?」
「でも作ってしまいましたので」
「じゃあ捨てなよ。俺はそろそろ仕事だから。仕事中は、出ていけ」




