第2話 帰る
衣彼禍楽から助言を受けるためにいままで使ったことのない携帯電話を渡される。俺は機械が苦手なので使い方を覚えるのにひと苦労。
「君バカだねぇ」
うるせぇ、と思う。
取り敢えず退院できるぞということになり、城南総合病院をあとにする準備をしていると、病室に看護師が一人立っている。
男か女かよく分からない見た目をしている。もしかしたら、そういう感じのアレかもしれないと細目で分析。
性別には触れないでおこう。
「どちらさまで」
「東野嫁麗と言います。先生に言われ、あなたの補助役を行うことになりました」
「補助役? 俺もうここから発つけど」
「その後をつけて回るのが私の役割です」
「ついてくんの? えっ」
やだ。
「俺、あんまりプライベートで人とかかわりたくない」
「だから山奥で画家なんてやってるんですね」
「…………」
俺の職業は画家である。
学はないけれどセンスがあったのでそれなりに食っていけており、俺が描いた絵は金持ちの家に行くとたまに見られる。
画家としての俺の顔を見ることができるのはたまにコロコロと変わる仲介人だけで、その他は絶対に見せない。プライベートな空間に人を入れるのは断固拒否。
この世界には郵便屋さんというすごい人たちがいるので、俺はそのすごい人たちを頼ることで作品を夜に送り出している。
「嫌そうな顔をしましたね」
「してないけど」
「私をそばに置いておくと良いことがありますよ」
衣彼禍楽の息のかかった人間である以上、良いことだけは断じてあり得ないという確信があった。
あの男が善人側の人間であれ俺にとって都合のいい言葉を吐いただけの狂人であれ結局気がおかしくなっていることにかわりはない。
それを信じちゃってるこいつがどういう人格をしていようと「衣彼禍楽を信じている」というバッドステータスがあるから、それは要するに信頼度マイナス。
「あなたのマネジメントをすることができます」
「マネジメント……?」
「あなたが創り出した作品という資源を有効的に世に送り出すことが可能です。なぜなら私、頭最強なので」
「歳いくつ?」
「二十二です」
「……」
俺は二十三歳。買った。
「なんですか、その年齢主義的な顔は。言っておきますけど来年の十二月二十日には二十三歳です」
「来年の七月九日には二十四歳ですよ」
「その歳でまだ人が怖いんですか」
「どうしてそういう事言うの?」
「どうです、私は人が怖くないのでマネージャーにしてもいいですよ」
「怖いよ。いまはあんたが。どうせ断ってもついてくるんだろ」
「ええ。先生からのお願いですので」
「そんなにあの男が好きかい」
「いけませんか」
「俺はあいつが嫌いだよ」
取り敢えず、病院を出る。
「何故です?」
交差点で車の行き来を眺めながら、眉間にしわを寄せる。
「なんでわかんねえの? あいつに勝手に身体をいじられたからだよ。なんで骨折治すついでに改造人間にされなくちゃならないんだよ」
「サプライズサイボーグ理論ですよ」
「サイボーグをサプライズされても何もうれしくねぇんだよ。クリスマスプレゼントがスーパーの見切り品だった時の気分だよ」
「……?」
バス停に到着する。クライムコンバータのせいで疲労を感じることがなくなってしまった。……少しうれしい。
「そういえばなぜ骨折なんてしてしまったんです? 階段でバカなことして滑りましたか?」
「なんでもう俺を馬鹿にしてもいいと思ってんだ」
「では、何故?」
「バカにされるから言わない」
誘拐されかけてた子供を救おうとして云々を言ったところでどうせ見栄を張っていると思われるだけだし、衣彼禍楽がそれを教えなかったということは要するにこの狂人にとって知るまでもないクズの情報だということ。
にしてもあの子どもの保護者とか見舞いに来なかったな。
「わかった、階段で踊って滑り落ちたんだ」
「じゃあもうそれでいいよ。良かったね、分かって」
「はい。あなたすんごいバカですね」
「ストレスが募っていく」




