コア・ログ
私は再び、記録保管庫の静寂へと滑り込んだ。記録媒体が並ぶ通路は、外のノイズから隔絶されているとはいえ、空気は依然として重い。ゼロスが確保してくれた時間は、数分か、せいぜい数十分だろう。一刻の猶予もない。
リノスたちが求める「救済の啓示」は、上位の意識体が意図的に残さなかった、あるいは存在しない。私が探すべきは、光の導きが完璧だった航海記録の「裏側」に隠された、異質な警告だった。
私は端末を操作し、探索の焦点を絞り込んだ。ターゲットは、「数万の離脱者」の断片的な通信ログと、移住初期に記録されたティアマトの環境変化の初期データとの相関。そして、システムが意図的にエラーとして扱っていた、特定の周波数帯域のノイズの記録である。
指が導かれるように一つのログファイルに触れる。それは、ティアマト星系への接近中に、離脱者たちの船が発信した、古きシヌルファ語で書かれた、短く、そして決定的な警告だった。
ログ・コード【T.A.M-001:最終警告】
私が解析したログは、「ティアマトの核」が、文明を救うためのエネルギー源でも、上位意識体からの導きを伝える装置でもない、という恐ろしい真実を突きつけた。
ティアマトの核は、封印装置だった。
それは、過去のシヌルファ文明が抱えていた、制御不能な「暴走意識体」を地中深くに封じ込め、さらに外部からの危険なエネルギー干渉を遮断するための、両刃の剣のような極めて危険な制御システムだったのである。
リノスたちが興奮して起動しようとしているのは、核の力を借りる行為ではなく、その封印を解き、暴走した意識体を解放する行為に他ならない。ノイズが周期的に発生していたのは、核がその封印の力を維持するために、必死に警告を発していたからなのだ。
そして、ログは警告する。現在、核の制御システムに発生している致命的な欠損は、上位の意識体の沈黙によるものではなく、遠方からの巨大なエネルギー体がティアマト星系へと接近していることによる、外部からの予期せぬ干渉が原因だと。
絶望的な事実に、私は一瞬、息を呑んだ。このままでは、リノスたちの「力による制御」の試みが、暴走意識体の解放という最悪の事態を招く。
私はさらにログを掘り進めた。すると、封印装置の起動と停止に関する、船団の主流が意図的に抹消したと思われる、暗号化されたデータを発見した。
そこには、核を再制御するための「緊急制御キー」のヒントが残されていた。そのキーは、「導きを捨て、自らに委ねた者たちの軌跡を追え」という、極めて抽象的な指示に紐づけられていた。
私が追っていた「自立を選んだ数万の者たち」の記録――それが、ティアマトの核の制御を再起動させる、唯一の「鍵」だったのである。
私はすぐに、端末からその暗号化された制御情報を抜き取った。ゼロスが現場で核の真の機能を知らずに危険な作業を始める前に、この真実を伝え、制御キーを起動させなければならない。
私は立ち上がった。沈黙の記録保管庫で探求を続ける時間は終わった。
ティアマトの核は、救済ではない。封印である。
この新たな真実を胸に、私は再び、外の混沌とした世界へと向かった。
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