希望の地Ⅲ
開拓の第一歩と船内の軋轢
希望が成就したとはいえ、50億の民を一気に地上に降ろすことは、ティアマト星の未整備なインフラでは不可能だった。まずは食料生産のメドが立つまで、熟練の開拓技術者や管理者のうちから三分の一の者たちのみが、地上へと先行して降り立った。
何百万という居住区画がティアマトの平原に降ろされ、開拓は始まった。しかし、初期の報告はすぐに暗転する。
故郷の星から持ち込んだ遺伝子操作の作物は、ティアマト星の土壌や未知の微生物に対して予想外の拒絶反応を示し、まともな収穫が得られない。地表の自生植物の多くは毒性を持っていた。食料生産の確保は、完全に壊滅的な失敗に終わったのだ。
この生命の根幹を揺るがす事態は、軌道上の船団に残された数多くの一般移住者たちの間に、激しい不満と疑念を募らせた。船団の備蓄は減り続け、配給は厳しくなる一方だった。
「なぜ、光の意識体は、この失敗を予見しなかったのか?」「なぜ、我々は地上に降り立つことも許されないのか?」
不安と飢えが、彼らが抱いていた「上位の意識体への絶対的な信頼」を徐々に蝕んでいった。船内では、地上組の技術者たちへの嫉妬と不公平感が渦巻き、小さな軋轢が日々の報告書を埋め尽くすようになった。
その間も、地表では移住の障害が続いた。基幹エネルギー施設が原因不明の周期的なノイズによって停止を繰り返したのだ。ノイズは特定の周波数帯域で発生し、開拓を阻んだ。
この二重の困難の中、約数年の歳月が流れた。ようやく自給自足の技術が確立され、食料の生産が安定し始めた頃、船団の次の三分の一の移民が地上へと降り立つことを許された。
彼らの再会は、歓喜の裏側で、地上組の疲弊と船内組の間に蓄積された不満という、新たな社会的な亀裂を内包していた。ティアマト星は、安堵の地であると同時に、不信と対立の火種を抱え始めていた。
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