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ティアマト物語  作者: しゅう


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自立共振パルスの光芒

方舟が火星の地下ドックから巨大な船体を押し出し始めた瞬間、上部シールドはリノスの追撃隊による集中攻撃で粉砕された。衝突まで残された猶予は二日。

「シールドは限界だ!記録保管者、パルスの準備を急げ!」ガイオスの叫びが、メインブリッジに響き渡った。

ドックの上部から突入してきたのは、レドの技術で大幅に強化された追撃隊の精鋭だった。彼らの兵器は、方舟のシールドシステムを焼き切ろうと、高周波の光線を浴びせかける。火星の地下深くにいる避難民たちに動揺が広がり始めるのが、方舟の振動を通じて伝わってくる。

「闇の意識に連なる技術者たちよ!方舟は、我々の創造の極致だ!レドの破壊の技術に屈するな!」ガイオスは、自らの意識を方舟のシールドシステムに直結させ、レドの技術プロトコルと直接的な技術戦争を始めた。


ガイオスは、その莫大な知識を駆使し、レドの兵器のエネルギー波形を瞬時に解析して逆流させる、防御と攻撃を兼ねた反撃を仕掛けた。レドの技術は、ガイオスの技術を盗んだ上で、悪意というベクトルで強化されたものだ。それは、ガイオス自身の知恵が、憎悪という形で自分を攻撃しているに等しかった。


「レドめ!この周波数帯域は…私が以前に破棄した、自己崩壊を誘発するプロトコルだ!」ガイオスが苦悶の声を上げた。レドは、ガイオスの過去の失敗すらも武器にしていた。


ガイオスの接続端末からは、危険な警告音が鳴り響き、彼の肉体は限界を迎えていた。しかし、彼はゼロスの犠牲を無駄にしないため、そして闇の技術が創造のためにあることを証明するために、接続を解除しなかった。

「記録保管者!パルス発射まで、あと三十秒!ティアマト星からのノイズが急上昇している!ゼロスの抵抗が限界に近づいている!」

私は、方舟のメインブリッジで、自立共振パルスの最終調整を行っていた。目の前のホログラムには、マルディーク星の残骸が、ティアマト星へ向けて猛スピードで接近する軌道が映し出されていた。衝突コース上の残骸の質量は、ティアマト星の運命を決定づけるには十分すぎるほどだった。

「ガイオス、パルス周波数の同期完了!ゼロスが最後に送った逆流パルスの中立点を座標軸に設定した!」


その瞬間、ティアマト星から最後の信号が届いた。それは、ゼロスの意識が発する、極度に純粋な光の秩序のパルスだった。

「記録保管者…私と」彼の声は途切れ途切れで、既に悪意の残響に侵食されかけていた。ゼロスは、数億の意識体がリノスに統合される直前、自らの存在を燃やし尽くし、「中立点」を宇宙に固定しようとしていた。

ゼロスが命を懸けて固定した「中立点」。それは、光の狂信と闇の憎悪が釣り合う、不安定な一点だ。


自立共振パルスは、光の秩序(ゼロスの犠牲)と闇の技術(ガイオスの知識)という、二つのベクトルの中立点を突く、中道の知恵(私の解析)が生み出した唯一の解決策だった。この三つの力が集結しなければ、パルスは成り立たなかった。

ガイオスは、最後の力を振り絞り、追撃隊の動きを一瞬完全に停止させた。「今だ!発射しろ!」


私は、ゼロスとの約束を胸に、自立共振パルスの射出ボタンを強く押した。

方舟の船体中央から、巨大なエネルギーの光芒が宇宙空間へ向けて解き放たれた。そのパルスは、マルディーク星の残骸が放つ加速エネルギーと、正確に逆位相で共振した。

マルディーク星の残骸は、まるで巨人の手が押し返したかのように、その軌道を大きく逸らした。ティアマト星との衝突コースから離れ、宇宙の深淵へと向かっていく。

メインブリッジに、技術者たちの歓喜の声が上がった。

「成功だ!軌道を逸らした!衝突は回避された!」

ガイオスも、安堵の息を漏らしたが、彼の顔色には疲労の色が濃く出ていた。「やったぞ、記録保管者!ゼロスの犠牲は無駄にならなかった!」

読んでいただきありがとうございます。

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