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ティアマト物語  作者: しゅう


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秩序の解放

旧記録保管庫の地下に位置する冷却システムの影で、私は息を殺して待った。警備隊の巡回光は、変わらず一秒の狂いもなく移動し、施設内部の完全な統制を示していた。

しかし、その完全な統制のわずかな亀裂を、私は見逃さなかった。端末が、ごく微弱な、そして極めて洗練された暗号化された応答を捉えたのだ。

「来た!」私は声を押し殺した。

応答メッセージは、

「灯は消えない。だが、月は雲に隠れている。」

これは、「私は諦めていない。だが、最高警備責任者の監視下で動けない。外部からの光(支援)が必要だ」という、ゼロスからの合図だった。

私は即座に、火星軌道上のガイオスへ、暗号化された通信を送った。ゼロスからの応答と、施設の配置図を解析した結果、救出作戦は以下の二点を利用する必要があると判明した。



最高警備責任者の思想(秩序): この施設のトップは、リノスの狂信的な「依存」の思想とは異なり、あくまで「武力による厳格な秩序維持」を信奉している。彼はゼロスを「テロリスト」としてではなく、「規律を乱した元優秀な将校」として扱っている。


ガイオスの技術(闇の知識): 施設のシステムは、レドがリノスに提供した技術によって強化されている。この闇の技術を無効化できるのは、それを理解しているガイオスの技術しかない。



「ガイオス、ゼロスの拘束房を特定した。施設内システムの中枢と、最高警備責任者の指令室を隔離したい。レドが使った『時間差同期攪乱コード』を逆利用してくれ」

ガイオスは一瞬の迷いもなく応じた。「承知した。レドのコードは、同期のズレを利用してシステムを封鎖する。それを逆利用し、中枢と指令室の同期を意図的に維持させ、他の全区域の同期を一時的に切断する。システムダウンではなく、分断だ。実行まで五分。」

作戦の目標は、施設をパニックに陥らせることではない。最高警備責任者の「秩序」を乱さず、彼が「内部の反乱」と誤認するような状況を作り出し、その間にゼロスを解放することだ。


五分後。警備施設の全区域で、照明が一瞬点滅し、巡回システムのルート表示が一斉に停止した。ガイオスの「分断」が成功したのだ。最高警備責任者の指令室と中枢は稼働しているため、彼は外部からの攻撃ではなく、内部のエラーだと確信するはずだ。

私は冷却システムの隙間を破壊し、内部へと侵入した。ゼロスの拘束房は、施設のもっとも深い層にあった。


「ゼロス!」

拘束房の扉を開けた瞬間、そこに立っていたのは、七日前と変わらぬ厳格な秩序を纏ったゼロスだった。しかし、彼の瞳の奥には、リノスの狂信に対する深い疲弊が見て取れた。

「記録保管者。君は、無謀なことをする」ゼロスは私を見つめた。「だが、感謝する。リノスの思想がティアマト星を破滅させると知っていたが、私には武力で反逆する『自由』はなかった。私は秩序の奴隷だ。」

「私たちが求めているのは、武力による破壊ではない」私は言った。「リノスとレドが、ティアマト星に残された悪意を統合し始めている。それを阻止し、光と闇の善意を統合し、ティアマト星を再興させるのが私たちの使命だ。君の『秩序』の力が必要だ。」

ゼロスはゆっくりと頷いた。「レドが……やはり奴の技術がリノスに悪用されているか。君の予測通り、最高警備責任者は今、内部のエラーに集中し、私への警戒を解いている。今が脱出の最良の時だ。」

ゼロスは拘束房を出る直前、壁に隠されていた小型のデータチップを回収した。

「これを、君への『報酬』として渡そう」

それは、リノスが狂信的な信奉者たちに極秘で共有していた、最終計画の断片的な情報だった。


ゼロスは情報を分析しながら、厳しい表情を浮かべた。「リノスは、悪意の統合により得られるエネルギーを使い、ティアマト星に宇宙規模の破壊をもたらそうとしている。この情報は、私たちが思っていたよりも遥かに、破滅が近いことを示している。」

「時間が無い。この情報が最高警備責任者に渡る前に、この施設から脱出する。そして、光の意識を正しい秩序のもとに再統合する。記録保管者、君の中道の知恵と、私の光の秩序、そしてガイオスの闇の技術。この三つの光で、ティアマト星の再興を始めるのだ。」

ゼロスは私と共に、施設の緊急脱出ルートへと身を投げた。外では、最高警備責任者の部隊が、システムエラーの復旧作業で混乱している。光と闇、そして中道の三つの力が、破滅に向かうティアマト星で、ついに再結集したのだ。

読んでいただきありがとうございます。

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