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ティアマト物語  作者: しゅう


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12/23

輸送船団(キャリア)

隠れ家である廃墟構造体の中は、張り詰めた静寂に包まれていた。レドがセットした監視モニターが、地下水路のメインルートが警備隊によって完全に封鎖されたことを示している。我々に残された時間は、ゼロスが内部で仕掛けた混乱が収束するまでの、わずか数十分だった。


「記録保管者、急げ」ガイオスの声は、緊張とは無縁の冷徹な響きを持っていた。「船団の遠隔起動シークエンスは完了した。我々の場所から、船団の起動と、地中からの上昇ルートを確保する。君の『自立の記録』を投入しろ。」

私は端末を取り出し、ガイオスが用意した旧式の制御インターフェースに接続した。核の暴走を止めた緊急制御キーと同じ、「導きを捨て、自らに委ねた者たちの軌跡」。この記録こそが、上位の意識体が依存を断ち切った者たちに託した、未来への『方舟の鍵』だった。


「キーを投入する」

私の指が、承認コードを叩く。次の瞬間、ティアマト星の地中深く、誰にも知られることのなかった広大な空洞の中で、静かに眠っていた輸送船団キャリアが、数万の魂を運ぶ使命を帯びて目覚めた。


ガイオスが展開したホログラムに、船団の映像が映し出された。それは、船体を大地と同じ色の特殊合金で覆われた、三隻の巨大なキャリアだった。各キャリアは、悪意の残響が届かないように設計された居住区画と、長距離航行のための技術が凝縮されていた。

「船団は現在、地中上昇ルートを掘削中だ。地上との接続ハッチは、都市南側の旧換気プラント跡地だ。我々はそこへ向かう」ガイオスが冷静に指示を出した。「レド、先行してルートを確保しろ。避難民の誘導は君の役割だ。」

「了解だ」レドは、その表情から警戒心の一部を消し、代わりに実行者としての使命感を燃やしていた。「ただし、記録保管者、あんたがもし我々を裏切れば、俺は真っ先にその頭を撃ち抜く。」

「裏切らない」私は断言した。「私が求めているのは、悪意に染まらない光を繋ぐことだ。」


我々は隠れ家を飛び出し、地下の緊急ルートを高速で移動した。その間にも、ガイオスの端末には、リノス率いる追跡部隊が、船団の起動を察知し、換気プラント跡地へと急行しているという情報が流れ込んでいた。


換気プラント跡地へ到達した時、現場はすでに戦場と化していた。

地中からせり上がってきた巨大な船団ハッチの周囲には、リノスが率いる警備隊の精鋭と、彼の思想に同調した市民が武装して集結していた。彼らは、船団を「テロリストの逃亡船」とみなし、ハッチの破壊を試みていた。


「阻止しろ!あれは、上位の意識体への完全なる反逆だ!」リノスの狂信的な叫びが、轟音の中で響き渡った。

ハッチの前に立ちはだかるリノスの姿は、光の意識が悪意へと変貌する、まさにその瞬間を象徴していた。彼の目には、もはや救済の希望はなく、裏切り者への憎悪だけが宿っていた。

「ガイオス!レド!避難民は?」私は尋ねた。

「間に合った!」レドが叫んだ。廃墟の影から、ガイオスとレドが事前に接触していた、自立を志す技術者や家族の群れが姿を現した。彼らは、船団ハッチが開くのを待ちわびていた。

「ガイオス、防御システムを最大化しろ!」

ガイオスは冷静に制御盤を操作し、船団ハッチ周囲にエネルギーシールドを展開した。警備隊の放つ破壊光線がシールドに弾かれ、閃光が周囲を照らす。その光のわずかな隙を突き、レドは避難民の誘導を開始した。


その時、私の端末が激しく振動した。ゼロスからの最後の「月光通信」だった。

ガイオスが通信を一瞬で解析する。「ゼロスが、広範囲の戦術システムエラーコードを警備隊のネットワークに流し込んだ!効果は十秒間だ!リノス、今だ!」

ゼロスは拘束されながらも、「秩序」を守るため、「光の依存」であるリノスを裏切り続けた。十秒。この短い猶予が、運命を分ける。


「十秒で、リノスを排除する!」レドが叫び、警備隊の混乱に乗じてハッチへと突進した。

リノスはゼロスの裏切りを察知し、激昂した顔で輸送船団のハッチを指差した。「全隊員、記録保管者を殺せ!船団を破壊しろ!」

私はリノスと対峙した。彼の顔に刻まれた憎悪は、核の残響が精神に蒔いた悪意の種が発芽したことを示していた。


「リノス!目を覚ませ!貴方の信じた光は、自立を拒んだ!この方舟こそが、悪意に染まらない光を繋ぐ道だ!」

「裏切り者の戯言だ!」リノスは銃を構えた。

その瞬間、レドがリノスに肉弾戦を仕掛け、彼をシールドの外へ押し出した。十秒の猶予が尽き、警備隊が混乱から立ち直る。しかし、避難民の誘導はほぼ完了していた。

「記録保管者!乗れ!」ガイオスが私を船内に押し込んだ。


船団ハッチが、轟音と共に閉じられ始めた。最後に、ハッチの外で警備隊に囲まれるレドの姿が見えたが、彼は振り返ることもなく、ハッチへ向かって手を振った。レドは残る。彼は、悪意を増幅させたリノスの追跡を攪乱し、船団が安全に離脱するための捨て石となったのだ。

そして、船団が地中から完全に上昇し、ティアマト星の空へ向かって加速する瞬間、私はリノスの最後の叫びを聞いた。


「覚えていろ!この裏切りは、光の意識に刻まれた!貴様らは必ず裁かれる!」

輸送船団キャリアは、地表から離れるにつれて、地上の光を浴びて白く輝き始めた。それはまるで、新たな光を運ぶ希望の種のようだった。


窓の外には、残響に蝕まれ、内部分裂によって混沌の渦中にあるティアマト星が、青く、そして悲しく輝いていた。

「航路、火星軌道上の建設拠点へ」ガイオスは冷静に告げた。「これで、『アルテミスの方舟』は発進した。我々の戦いは、ここから始まる。」

輸送船団は、悪意に染まらない光を遠く宇宙へと運び、ティアマト星との決別の光芒を放ちながら、闇の中へと消えていった。

読んでいただきありがとうございます。

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