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ティアマト物語  作者: しゅう


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アルテミスの方舟

私は、都市の主要な換気システムが集中する地下水路を這い、追跡者から逃れた。意識の残響が拡散した後の街の様子は、異様だった。表面的な混乱は収まったが、人々の間に流れる不信と猜疑心の濃度が増しているのが肌が感じられる。警備隊の隊列はゼロスの裏切りによって亀裂が入り、リノスの影響下にある者たちは、公然と「記録保管者の思想汚染」を声高に叫び始めていた。


逃亡中に極秘セクションから抜き出した「遠隔開拓プロジェクト:コードネーム・アルテミス」の記録は、私が追うべき正体を示していた。それは、ティアマト星への移住計画が立案された初期段階で、上位の意識体に完全に依存せず、人類の自立的な存続を目指して、極秘裏に考案された、別惑星への大規模移住・都市建設計画だった。

記録は断片的だったが、その設計思想は、この宇宙の仕組に基づいていた。核の制御を巡る対立で、悪意に染まらない未来を繋ぐ唯一の方舟となり得ると思われた。


しかし、アルテミス計画の記録を深く追ううち、私の端末に強力な暗号化された信号が介入した。

「記録保管者。我々はお前の逃亡を支援する。それ以上、核心的な情報に触れるな」

それは、記録の背後に隠された、アルテミス計画の真の実行者からの警告だった。


私は警告に従い、地下水路の廃熱ダクトの影に身を潜めた。やがて、二つの影が静かに接近した。一人は知識/導き手であるガイオス、もう一人は媒介者であるレドだ。彼らは、リノスが率いていた遺構調査チームのメンバーであると同時に、アルテミス計画の技術的な頭脳と現場の実行者を担っていた。


「見つけたぞ、記録保管者。追跡部隊が来る前に、我々の隠れ場所へ案内する」

ガイオスが静かに言った。彼はリノスのような盲信的な熱意ではなく、すべてを計算し尽くしたかのような冷徹な知性を宿していた。

「貴方が……アルテミス計画の技術的な設計者か?」私が問うと、彼はわずかに頷いた。

「我々は、技術と論理を信奉する。計画は上位の意識体の導きではなく、人類の自らの手による存続のために作られた。それは、光の意識が崩壊した後でこそ、真の力を発揮する」


その横で、レドが警戒を露わにした。

彼は船内組の不満を代表するような、粗野ながらも実行力のある雰囲気を持つ男だった。

「我々はお前を信用しない、記録保管者。お前は光の意識体が残した記録の奴隷だ。なぜ、貴様が自立を志す我々の計画を追う?」

「私は、悪意に染まらない光のための場所を探している」私は答えた。「核の制御で分かった。光も闇も、単独では完全ではない。核の制御キーは、記録と技術の協力でなければ発動しなかった。」


ガイオスは、レドを静かに制した。

「その通りだ。核の暴走を阻止した事実は、貴様が中道として機能した証明だ。我々は、ティアマト星に蔓延し始めた意識の残響の危険性を最も早く察知している。これを放置すれば、人々は憎悪に駆られ、人類は自壊する。」


彼はそこで立ち止まり、私に取引を持ちかけた。

「我々は、アルテミスの方舟を起動させ、避難民を送り込む技術的な実行力を持つ。しかし、『自立の記録』と、上位の意識体の沈黙の真の意図に関するあなたの知識が不可欠だ。我々の技術と、あなたの知識を交換しろ。悪意に染まらない者たちを救うために、我々は協力する」


その瞳は、あくまで論理的な判断であり、リノスの盲信とは対極にあった。しかし、その「論理」が、将来、いかなる「悪意」へと変貌するか、私にはまだ判別できなかった。私は、彼らの協力の申し出を受けるしかなかった。外は追跡者、そして意識の残響という見えない脅威が迫っているのだから。


「協力しよう。アルテミスの方舟の計画と、脱出ルートを示せ」

こうして、「中道(記録)」と「闇(技術)」の間に、悪意に染まらない未来を目指す、危険な協定が結ばれた。

読んでいただきありがとうございます。

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