希望の地Ⅰ
SF的な話になります。
記憶の残響
記録は、いつだって不完全だ。石版に刻まれた文字も、電子回路に焼かれたデータも、その時、星の民が感じた「魂の振動」までは記録できない。
だが、我々――旅する者たちには、後方に残した故郷の星の消滅の記録を、まるで自分の指先が燃え尽きるように感じることができた。
それは、50億という途方もない数の人々が、たった一つの決断を下した瞬間だ。文明の終焉ではない。星の物理的寿命だった。我々は、その運命を受け入れ、次の旅路へと船団を向けた。
光の指針
旅の途上に、不安はなかった。なぜなら、我々には絶対的な導き手がいたからだ。
それは、特定の形を持たない、特定の星を特別視しない、光り輝く愛に満ちた宇宙そのもの――上位の意識体だった。その存在は、常に宇宙の調和と生命の持続に最も適した道を示した。その導きに、疑問を抱く者はいなかった。
船団は、上位の意識体が指し示した星域を目指し、絶望的な距離を航行した。航海の記録は、完璧な調和と、時折船団全体に響き渡る集合意識の安堵の波動だけを記している。50億の民の意識が一つとなり、運命を共にすることを選んだ、巨大な生命体のような旅だった。
分岐した意志
しかし、旅立ちの瞬間、一つの亀裂が生じていた。
船団を構成する数百万の船のうち、数万の者が、本隊とは別方向へと舵を切った。
彼らは、上位の意識体の導きを「拒絶」したのではない。彼らもまた、光の意識体の愛と調和を信じていた。だが、彼らは信じたのだ。宇宙の愛は、特定の指示に従うことではなく、自らの意志で新たな可能性と新たな発見を探求することの中にこそ宿る、と。彼らは「導き」に安住せず、自立を選んだ。
主流の船団に残った我々にとっては、その数万の離脱は、理解できない、あるいは許されざる行動と映ったかもしれない。しかし、記録保管者の視点から見れば、それは民が抱える「依存」と「自立」という二つの根本的な最初の分裂点だった。
やがて、我々の船団は、上位の意識体が示す星系の、移住可能な第三惑星に到達した。
絶望は終わった。希望は成就した。
我々は知っていた。この安堵こそが、新たな歴史の始まりなのだ、と。
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