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6話 フェリオンと魔法陣

よろしくお願いします。


フェリオンは淡く青い礼装の裾をはためかせ、恭しく王子アデルに礼をした。


アデルはフェリオンを見据えると口を引き結び小さく頷いた。

アデルの肝いりなのだ。見守る方も力が入る。


広い空間に刻まれた大きな魔法陣を前に、フェリオンは短く息を吐いた。

召喚の儀で使用する魔法陣は、ただ魔力を込めればいい通常の魔法陣とは異なる。


フェリオンは魔法陣の端に立つ。

彼以外は何人も魔法陣に触れてはいけない。皆少し離れた位置から固唾を飲んで見守るのみだ。

フェリオンは儀式用の杖で魔法陣に触れ、魔力を流していく。


魔法陣は一見すると平面の単純な模様に見える。

だが実際は黒と白の回路が立体的に交錯している。無数の分岐が彼の前に立ちはだかっていた。


この複雑な二層構造を操るために、彼は半年という長い時間を費やしてきた。そして遂に黒の魔力を操れるようにまでなったのだ。


古文書の解読班は、内容を完全に理解しようと頑なに渡さず、彼が習得する時間を奪い、余計に難易度をあげていた。

思い出したらまたイライラしてきた。


「解読班め……読めればいいって言ってんのに、なんで渡さないんだよ。魔力の色も質も分かんねぇのに理解できるわけねぇだろ……」


額に汗を滲ませ、フェリオンは嫌な思い出に独り毒づく。


どんどん魔力が体から抜けていくが、それくらいの余裕はあった。


黒の回路が白の回路の上を交差するたびに、わずかな気の緩みが魔力の混ざりを生み、魔法陣は発動しなくなる。


周囲の魔法使いたちの補充は、白い魔力しか期待できない。黒く汚れた魔力は、他の誰にも見えないからだ。


「普通の人には、俺が必死で作ってるこの魔法陣、薄かったり濃かったり不格好に見えるんだろうな……」


だが周りの評価など、今のフェリオンには関係なかった。

この難解な魔法陣を成功させること。それだけが、彼の眼前の目標だった。


国のためでも、世界のためでもない。ただ一人、父リューディガーをもって「成功は奇跡に近い」と言わしめた魔法陣を、自分の手で完璧に動かす。


その気概だけが、彼の体を突き動かす。


指先に流れる魔力の感触、交差する黒と白の回路の絶妙なバランス――すべてを体に刻み込みながら、フェリオンは己の限界を試す。


汗が止まらない。


足に力が入らない。


魔力欠乏の症状が出てきた。自分の中の黒い魔力が底をつきそうだ。

フェリオンは隠し持っていた小瓶を煽る。自分で作っておいた黒い魔力の補給瓶だ。

周りには空の瓶を煽ったように見えたことだろう。


「……俺がやるんだ、誰にも理解されなくても。俺がこの魔法陣を、攻略するんだ……」


冷たい大理石に杖を突き立てたまま、彼は額の汗を拭うことも忘れ、集中を切らすことなく、黒と白の回路に魔力を流し続けた。


誰も気づかない努力と、誰にも見せられない孤独な挑戦。

だが、フェリオンの心は揺るがない。限界に挑むこの瞬間こそが、彼の誇りであり、使命だった。




長い時間の集中の末、ついに魔法陣の黒と白の最後の回路が正確に交差した瞬間、魔法陣は完成した。

青い光が回路を走り、眩く場を照らした。


フェリオンの胸に熱いものが込み上げる。


魔法陣が微かに震える感覚。魔力が淀みなく流れ、全てが整ったことを知らせる微細な振動――。


「……やった……」


小さく呟く声は、自分の耳にも届かないほどの微弱なものだった。だが、その言葉の重みは、今までの苦闘と孤独のすべてを肯定してくれるようだった。


同時に、恐怖も押し寄せる。

この精密な魔法陣が、ほんの一瞬でも狂えば、世界の運命を揺るがしかねない。黒と白の魔力の混ざりによる失敗の可能性が、まだ心の片隅に残っていた。


しかし、今はもう迷わない。


何度も何度も繰り返し検証し、全ての回路の微細な差異まで把握した。

父リューディガーさえ、ここまで完璧に制御できる者は見たことがないだろう。


「俺が……俺が、やったんだ……」


孤独な戦いの終わり。達成感に包まれ、フェリオンは杖に寄りかかり息をつく。

汗と魔力の余韻に満たされた体。心地よい疲労感。これまでの苦悩と愚痴も、全てが意味を持った瞬間だった。


彼の眼差しは、遠くを見つめるように静かだが、その瞳の奥には確かな光が宿っていた。

理解されない努力も、孤独な挑戦も、すべてが自分の成長の証。

フェリオンは初めて、自分の力と向き合い、限界を超えた自分を実感したのだった。


ありがとうございました。

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