5話 儀式に臨む騎士達
よろしくお願いします。
その日、王都には朝から霧雨が降っていた。
魔法塔の召喚儀式の間は、百年に一度の聖なる儀式を前に、張り詰めた静けさに包まれていた。
赤い絨毯の両脇に並ぶ騎士たちは、いずれも礼装鎧をまとい、儀式にふさわしい威容を湛えている。
黒の騎士団部隊長クロードは、普段の黒地に銀糸を縫い込んだ騎士服に、式典用の銀装飾を重ねていた。
胸元や肩には磨き上げられた銀のプレートが光を受け、背には深紅のマントが流れる。
その緑の瞳は前方の魔法陣に向けられ、儀礼の場にあっても警戒の色を失わない。
その隣、白の騎士団長ルーカスは白地に金糸を走らせた騎士服を身にまとい、胸当てや篭手には淡い金光を放つ細工が施されている。
純白のマントが静かに揺れ、まるで儀式そのものの清浄さを体現しているかのようだった。
しかし、その足元には即応可能な実戦用の剣が佩かれ、腰の重みは彼が単なる儀礼のためにここにいるのではないと告げていた。
二人とも、ひとたび合図があれば剣を抜き、聖女を守る盾となる覚悟を備えている。
荘厳な光と魔法陣の輝きの中で、彼らの礼装はただの飾りではなく、王国の威信と武威を象徴する鎧そのものだった。
クロードは魔法陣の正面のフェリオンを見やる。
彼は王国一の若き天才魔法使いだった。
クロードの邸に来る時はおろしている銀の長髪を、今は緩くひとつに束ねている。
淡い青の礼装に身を包んだ彼は、召喚陣の中心で詠唱の準備をしている。
クロードは目を細めた。
……昨日とはまるで別人のようだ。
「……緊張してるか?」
明日に儀式という時にクロードの邸に来たフェリオンにそう声をかけたことを思い出す。
彼は端正な顔に人好きのする笑みを浮かべていた。
「してるように見える?これは世界再生の第一歩だからね。オレは英雄になるかもしれないよ?」
軽口にクロードは苦笑しながらフェリオンの肩を叩いた。
「英雄の親友が持てそうで誇らしいよ」
クロードの前では飄々としてやる気の無さそうな彼も、今日は正装に身を包み集中している。
クロードは自分も律せねばと拳を握った。
白の騎士団長の少し後方には、三男坊ながらマクシミリアン伯爵家の血を引く青年――白の騎士レオナルト・マクシミリアンが立っていた。
金褐色の髪を丁寧に撫でつけ、式典用の濃紺の礼装鎧に身を包む姿は、誰が見ても貴族の末子らしい華やかさを備えている。
だがその目には、隣に並ぶ黒の騎士団の平民出身者や、異国からの振興貴族であるクロードを侮る色が隠されていなかった。
口元にわずかに浮かぶ笑みは、式典への誇りよりも、自らが「選ばれた席」に立つ優越感の方が勝っていることを物語っている。
――黒の騎士団など、所詮は寄せ集め。いくら腕が立とうが、血筋の重みには及ばない。
そう心中で呟くレオナルトの視線が、ルーカスに向けられるときだけわずかに真剣さを帯びる。だが彼に対しても、「立派だが甘い」と冷めた評価を下すのが常だった。
やがて、アデル王子が立ち上がり、召喚の開始を告げる。
空気が一層張り詰め、クロードは一層引き締まる思いがした。
ありがとうございました。




