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54話 フェリオンは心配性

「まだまだ長い時間は無理ね」


そう言ってヨーコは息を吐く。

その途端部屋に黒い魔力が這い寄ってくる。

フェリオンは内心身構えた。少し離れて座っているので、先程のように急激に吸われたりはしない。しかしあの甘美な予感に期待と恐れがせり上ってきて背筋を寒くする。


「黒い魔力の制御の方法をいくつか考えてきたけど、もうその段階は終わったようだね。次の課題は持続性だね。」


平静を装ってフェリオンが聞けば、ザゼンという気持ちを整える方法を試したと彼女は言う。呼吸を整えて意識を広げ、想像力で黒い魔力の輪郭を掴んだのだと。


「でも見えないからイメージするのに時間がかかるし、集中するのもすごく疲れるの」


「なるほど。じゃあ今やって見せたのは朝からしてる訳じゃないんだね」


「フェリオンを驚かせたくて準備したのよ」


成功したわと笑う彼女にフェリオンは目を細めた。


「うん、驚いた。すごく。思わず抱きついちゃう位にね。ごめんね謝るね。でも、ヨーコもオレに謝って欲しい」


「え」


手放しで褒めてくれると思ったのに謝罪を要求され、ヨーコは困惑しながらフェリオンを見た。彼の目は死んでいた。


「急に魔力を吸うのは良くない事だよ」


「そ、そうね。変な声出てたもんね」


ちょっと焦りながら言うヨーコに「言わないで」とフェリオンは赤い顔をしかめた。


「ごめん、わざとじゃないの。集中切れちゃって」


急に吸ったのではなく、吸わないようにしていたが限界が来たという事だ。

つまり、不可抗力だと。


脇を締め、口元で両手のひらを合わせる仕草で「ごめん」と言うヨーコ。その不思議な仕草、確かみひろもしていたとフェリオンは思う。


「これ、どういう仕草?」

フェリオンがヨーコの真似をする。

「これ?これはごめんねのポーズだよ」


「ごめんね」


みひろはお願いする時にしていた。


「あと、感謝とか、おねだりとか、食事の前後でもするし、あと先祖とか神様への挨拶とか?」


「用途多いな」


思わずフェリオンは吹き出した。

ヨーコはううんと唸って呟いた。


「自分の意向にそってもらうための、心のこもったポーズ?」


「意訳が過ぎるよ」


この雑談の間にも少しずつフェリオンの体内から黒い魔力が抜けている。

歓談室はヨーコの部屋より彼女との距離がある分まだいいが、マシと言う程度だ。

未だタイムリミットは存在する。


「はい、それじゃあそのザゼンていうやつを教えてもらおうかな」

姿勢を正してフェリオンが言う。


「うん」

ヨーコも姿勢を正した。そしてスカートの中で座禅の準備をする。

「待って」

フェリオンから待ったが入った。彼は素早く目を固く閉じた。ヨーコに何も見ていないことを示すためだ。


「ヨーコ?なにしてるの?」


「え?足を組もうと…」


「やめて」


「え、でも座禅だから…」


「やめて」


フェリオンの低く強い声が彼女の反論を許さない。ヨーコは足を下ろして気まずそうにフェリオンに言った。

「…直したよ」

フェリオンは目を開いた。

「うん、もう少し口頭で聞こうかな」


フェリオンは平気な顔をしたが、心臓が早鐘のようになっていた。ヨーコが足を広げて膝下が顕になったからだ。



フェリオンは今固く決めたことがある。

ヨーコは人を直接的な言葉でからかうし、こちらの世界でのものの頼み方も知らない。それに、足を顕にするなんて。およそ淑女のすることでは無い。

ヨーコが黒の魔力を長く制御できるようになったらマナーの講師を呼ぶ。これは決定だ。


少ししゅんとなったヨーコに、貴族然とした顔をしてフェリオンは言った。


「ヨーコは、クロードのところの騎士みたいだ」


背筋がすっと伸びて物怖じしない。自分の心のままの言動を信じてる。フェリオンはそれに翻弄されたのが悔しくて、ちょっとした軽口を叩いた。


ヨーコは一瞬動きを止めて瞬きしたけれど、暗にガサツと言われたと思い、言い返してきた。


「フェリオンは、おじいちゃんみたいね」


意地悪なヨーコの笑みに胸を刺され、フェリオンは思わず胸をおさえた。


「せ、せめてお兄ちゃん……」


白旗をあげたのはフェリオンの方だった。



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