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3話 フェリオンは定期会議大嫌い

よろしくお願いします。



会議室は緊張で張り詰めていた。白騎士団、黒騎士団、王子直属の召喚チームが一堂に会する。


白騎士団団長ルーカス・リッターガルドは机に肘をつき、クロードをじっと見下ろした。


「黒騎士団長は不在か……部下が代表とは、随分と簡単に済ませるものだな。ほう、オリアナ防衛戦で『翠焔の騎士』などと唄われた英雄か?」


その声には侮蔑が混じり、白騎士団の面々は微かに鼻で笑った。

いかにも入団したてといった顔立ちの金褐色の髪をした若い騎士ですら、睥睨した目を黒騎士団に向けてくる。


クロードはウンザリした。


2年前の辺境オリアナ領に隣国が攻め入った際の実質的な指揮官はクロードだった。

敵を撃破し、その後出現した竜を満身創痍の味方をかばいながら単独撃破した栄誉が「翠焔の剣士」の名の由来だった。


だが、この肩書きにはもうひとつの顔があった。


クロードの同窓に劇作家がいて、防衛戦の話を本人に根掘り葉掘り聞いた挙句、作家としての才能を惜しみなく発揮して作り上げられた舞台「オリアナ」がロングランヒットをしているのだ。


「オリアナの翠焔の剣士」と言われれば、皆まずこちらの優男のイメージが先行する。

因みにクロードは観た事がない。


クロードは背筋を伸ばし、表情を変えず答える。

「以前から申し上げておりますが、団長は南方の長期任務中です。私は部隊長ですが、黒騎士団の代表です。それに、オリアナ防衛戦は2年も前の話です」


「なるほど。謳われている程優男ではないらしい」


同席している黒騎士団の騎士たちはクロードを見つめ、オリアナ防衛戦での英雄的な戦果を思い出す。


(早々に指揮官が怪我で離脱し、ラングレイ殿は副指揮官として戦線を掌握、さらに龍の首まで……謳われる称号など関係ない。実力で黙らせられる男だ)


心の声は皆一緒だった。


クロードは静かに、低く落ち着いた声で返す。

「……早々に始めましょう。時間が惜しいのは白の騎士団も同じでしょう。

先日の話し合いの件ですが、やはり形式より実務です。避難経路や魔力封鎖の安全確認は、経験が物を言います」


ルーカスは机を軽く叩いた。

「経験? 王族の儀式に形式は無視できぬ」


フェリオンは書類を広げため息をついた。



ーーー



フェリオンは表情を変えず、またか、と思う。


会議室の重い空気が、召喚チーム長として、各部署の調整役であるフェリオンの肩をさらに鈍く押す。扉が閉まってからここまで、どれだけの論点が飛び交ったことか。


聖女召喚チームの指揮権を王子より任されている為にこんな騎士団同士の小競り合いを何度見せられなければならない。


——致死か非致死か、抜剣の可否、誰が指揮を一元化するのか、聖女以外が召喚された場合封印優先か救出優先か。どれも大事な話だが、どれも火種になっている。


どちらも王家直轄だが、近衛である白騎士団と実働部隊の黒騎士団。

それぞれの誇りと現場感覚がぶつかるたびに、進行、調整係のフェリオンはため息を飲み込む。


「今さらですが、もう一度整理しますよ」

自分に言い聞かせるように、フェリオンは声を出した。全員、疲れ切った顔でこちらを見返す。


書記官が備忘録をフェリオンに渡した。

几帳面な文字で綴られた文字は調整役の苦労を物語っている。


1. 侵入者、不審召喚生物に対しての致死/非致死の基準。儀式場で即時無力化するか、生け捕りを優先するか。



2. 指揮権:指揮の一本化を求める者と、現場裁量を主張する者。



3. 武装ルール:儀礼装備重視か、実戦装備優先か。



4. 避難導線と通行権(今ここで揉めている)。




ルーカスが睨む。クロードが顎を上げる。互いの言葉がまたぶつかる前に、フェリオンは深く息をついて割り込んだ。


「避難導線の話ですね。端的に言えば――白騎士団は第一避難路の完全管理を主張していますね。

王族と聖女の直線避難を最優先にする、という理屈でしょう。

黒騎士団はそれでは不十分だと。

第二導線、裏口、外郭の鍵と管理権を我々に渡してほしい。近接で判断して開け閉めできる権限が必要だ、と」


ルーカスが口を出す。

「第一避難路は王族の安全線だ。我が団が統制しなければ混乱する」


クロードは即座に反論する。

「第一だけで人を運ぶのは了承しかねる。扉一つ塞がれば終わりだ。第二導線を持つのは生死を分ける。白の騎士団にもとうぜん必要だ」


二人の間で、荒れた言葉が刃のように交錯する。場がまたざわめくのがわかる。フェリオンはもう一度、低く短く言った。


「まず、感情論を引っ込めましょう。誰のためでもない、現場で動く人間のためというのは総意でしょう」


そして提案する。争点を封じるための、単純で実務的な折衷案を。


1. 第一避難路(中央ルート)は白が先導する。護衛・先導は白が責任を持つ。



2. 第二避難路(外周/裏口)は黒が管理するが、鍵は二重管理とする。具体的には、鍵は白が一つ、黒が一つ、さらに屋敷側(中立の執行官)に予備を一本預ける。いずれか二者の合意で開錠できる仕組みにする。



3. だが、即時の裁量権は認める。もし「避難の遅滞が即死を招く」状況(扉が閉塞、火災など)で、現場責任者が即時開放を判断した場合はその場で開ける権利を黒が持つ。ただし、後刻、決定の理由とログ(報告)を提出することを義務づける。透明性の担保だ。



4. 魔力的な封鎖・開閉は魔法使いが管理する。召喚チームの魔法使いがルートに簡易の印(鍵代わりの小刻みな結界)を置き、安否確認の合図があれば解除する。これで物理的な鍵と魔術的な安全を二重に担保する。



5. 儀式前の時間で、白黒合同のルート確認訓練を必須にする。実際に鍵を使いながらの動線確認を行い、問題点をその場で潰す。訓練で想定外が出れば、手順を修正する。




提案を端的に言えば、「二重の管理+即時裁量の限定付与+事後の報告義務+魔術的安全弁」。

感情を潤滑油で滑らかにするためのルールだ。


ルーカスが唇を噛む。クロードは眉を寄せるが、フェリオンの話を遮ろうとはしない。両者とも、現場の実利を無視してはいない。


フェリオンは最後に言葉を添えた。


「要するに、誰も権限を“独占”しない。だが、誰もが“放棄”もしない。白は正面を守れ、黒は裏を守る。魔法使いは通行の安全を技術で担保する。重大な裁量を行使したなら、理由を残す。これが最短でお互いの誇りを傷つけず、命を守る形ですね」


沈黙が一拍流れる。ルーカスがゆっくりと顎を引き、渋々ながら頷く。クロードは口元に苦笑を浮かべて、低く言った。


「……分かった。鍵を預かる。だが、俺の判断で動いたら、責任は俺が取る」


「責任の所在が明確なら構わぬ」ルーカスも負けじと言うが、その口調には、先ほどの刺々しさはなく、どこか疲れが混ざっている。


フェリオンは小さく息を吐いた。やれやれ、と肩をすくめる。

場は収まった。

完璧ではないが、実務として成立する合意だ。戦場なら、こういう妥協を時間内に作ることが最も重要になる。


「それと、儀式前に動線の実地確認を行います。魔法の印は私が用意します。

呼び笛と合図を決めておくので後で書面で連絡しますね。

訓練を経てから正式に鍵を配布する事にします」──と付け加えると、全員がうなずいた。


会議が終わる頃には、皆の顔に少しだけ安堵が混ざっていた。

だがフェリオンの胸にはまだ重りが残る。


会議室を出るとき、クロードが小さく言った。


「……フェリオン、頼むぞ。お前が言うと、あいつらは少しはまともに動く」


「任せてくれ」フェリオンは胸を張り、やや皮肉めいた笑いを浮かべる。

だが内心では、また別の論点が火種としてくすぶるのを知っている。現場はいつも、不確かさと妥協の連続だ。フェリオンの仕事は、その間に立って風を抜くこと――鬱陶しいが、やりがいのある仕事だ。


小さく、フェリオンは窓の外の雨を見遣る。しばらくすれば、儀式は始まる。そこまでこの騎士たちがお互いを理解することを祈るばかりだ。



ありがとうございました。

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