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36話 みひろちゃんはヒーロー


〈ヨーコ〉


最近になって、長くベッドに座っていても平気になってきた。クロードはたくさん話しかけてくれるけれど、言葉のほとんどはまだうまく聞き取れない。

それでも、彼の声は心地よく、何度も耳に残る。


時折、クロードは急に黙ってこちらを見つめてくる。どうしていいか分からず、私は黙って見つめ返す。

すると彼はなぜか頬を赤らめ、早口でなにか言いながら顔を背けてしまう。その様子が可笑しくて、けれど、同時に少し不安にもなる。まるで彼の中だけで物語が進んでいるような、そんな感じがして——胸がそわそわした。


そんなある日。

起き上がるのに少し苦戦していると、クロードはいつものように体を支えてくれた。大きくて、安定感のある彼の体躯に身を任せる。

「ありがとう」と言って自分で座りなおそうとすると、腰に回しされた腕に少し力が入った気がした。

なぜ離れないの?

彼は私を支えたまま、ベットに腰を下ろした。

そのまま何事か話し始めたが、私は居心地の悪さを感じて俯いていた。

その時。

彼の言葉の端に、不思議と耳に馴染む名前が混じった。


——みひろ。


その音には、なぜだか懐かしさを感じた。きっと、同じ世界の人。名前からして、日本人だ。

どんな人なんだろう。会ってみたい。


知らず、私は彼の袖を掴んでいた。

驚く彼のみどりの瞳と視線がかち合う。私は小さく呟いた。


「みひろちゃん、会いたいな」


私の手を、クロードがそっと包み込んだ。

彼は何事かを真剣に語り、うんうんと頷いてくれている。たぶん、私の想いは伝わったのだろう。胸がじんわりと温かくなる。


早く会いたいな。ほんとうに。


 




 〈みひろ〉


「早くヨーコちゃんに会いたいな」


窓の外を眺めながら、何度目か分からないその言葉を呟いた。

先週、目覚めたと聞いてからずっとソワソワしているのに、なかなか面会の許可が下りなかった。


フェリオンは毎日のようにクロード邸へ通っており、浮かれた様子で彼女の話をしてくる。それが正直ちょっと……いや、かなりウザい。


「1回くらい私も連れて行ってよ」


クロード邸にはこの間、刺客が入り込んだという。

警戒されるのは当然だろう……って、私はそんなに怪しい!?


私って聖女だよ!? むしろ“安全そうな人”ランキングでトップじゃない?

ふざけてそう言ったらフェリオンに呆れられた。


「君が危険なんじゃなくて、君の身が危険なの」


真面目に返された。―――なによ。


「認識変えてもどうせ会えないんでしょ」


そんな鬱々とした日々の中、ようやく朗報が届いた。

クロードから面会許可が出た上に、「ヨーコが会いたがっている」という言葉まで添えられていた。


嬉しい。ほんとうに嬉しい。やっと会える。



―――



当日は、フェリオンと一緒にクロード邸を訪ねた。


扉の向こう、ベッドの上で静かに佇む黒髪黒目の女性——ヨーコがいた。

思ったより小柄で、でも目がとても綺麗だった。生きていてくれて、本当に良かった……そう心から思えた。


クロードが彼女に寄り添いながら、やさしく説明をする。


「この方は白の聖女、みひろ様。君と一緒に召喚されたんだ」


ヨーコはじっとその言葉を聞きながら、私を見つめていた。


「はじめまして。羽黒山みひろです」


少し声が震えてしまったけれど、できるだけ笑顔を浮かべて言った。


その瞬間、ヨーコの瞳がぱっと見開かれ、涙が溢れた。


「にほんご……?」


日本語——そう、彼女はたしかにそう言った。


「ヨーコちゃん? 大丈夫?」


どんどん涙が頬を伝い、彼女は顔を手で覆った。


「みひろちゃん……会いたかった……」


驚くクロードとフェリオを部屋の外に出し、二人きりになった。


ヨーコはベッドの上、膝を立てるように座り、その膝に顔を伏せていた。


そっと肩に手を置く。


「どうしたの?『日本語』ってどういう意味?」


顔を上げたヨーコは、少し戸惑ったような表情を浮かべて言った。


「みひろちゃんは……みんなの言葉、分かるの?」


みひろは、一瞬返事に詰まった。


召喚された直後から、彼らの言葉は自然に理解できたし、自分の言葉も通じていた。

でも、考えてみれば……言語が違っていた可能性なんて、十分にある。


「もしかして……今まで、言葉が分からなかったの?」


ヨーコはこくりと頷いた。


愕然とした。

彼らは「彼女は寡黙だ」と言っていたけど、違ったんだ。

ただ、言葉が通じなかっただけ。誰も気づいていなかったのだ。


「私は……何故か最初から、みんなの言ってることがわかったの。でも……ヨーコちゃんは違うのね……」

私の言葉に彼女の表情が少し曇る。


「うん。覚えようとしてるけどなかなか……。語学って、むずかしいね」


ヨーコが、恥ずかしそうに笑った。


私は確信した。

彼らはみんな、伝わっていると思っていた。会話が成立していると思って、好意を積み重ねてきた。

でも、ヨーコには——伝わっていなかったのだ。


残酷なはずなのに。

その事実が、あまりにも可笑しくて、みひろは思わず笑ってしまった。


 


「みひろちゃんと、たくさんおしゃべりしたいな」


そう言って微笑むヨーコの言葉に、みひろは笑顔で抱きしめた。


「かわいい。好き」


眠っている間にいっぱい助けて貰ったもの。今度は私がいっぱい助けるね。





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