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19話 ホームシック聖女

みひろには最近どうしても気になる事があった。

召喚の夜―――、あの場にいたという“渡り人”の噂だ。


一緒の公務の折に、アデル王子が護衛の騎士に「渡り人の様子はどうか」と聞いていたのだ。


その女の人は斬られて命を落としかけたらしい。

幸いにも助けられ、今も生きているのだと。


黒髪黒目の召喚者。


その特徴に、胸がきゅうと締め付けられる。

もしかしたら、自分と同じ場所から来た人なのかもしれない。

一度考えが向くともう抑えられなかった。

両親、友達、学校。

どうしようもない郷愁に襲われる。



夜の授業が始まる前、フェリオンが部屋に入ってくるなり挨拶もせずにみひろが切り出す。

フェリオンは渋い顔をして扉を閉めた。


「今二人っきりだから言うけど、渡り人に関しては国からかん口令が出てる。それって機密ってことだよ」

フェリオンがピシャリという。


「そうなの?聞いたらアデル殿下が教えてくれたけど」

アデルにも同じ理由で断られたが、みひろはとぼけた。


「……だから殿下には言わなくていいって言ったのに」


フェリオンは天を仰いで顔を手で覆う。

アデルは召喚の儀で昏倒したため、その後に召喚された渡り人の存在を知る由もない。誰かが話さなければ。


「……誰だよ漏らしたヤツ」

口まで出かけた言葉を、聖女の前でどうにか飲み込んだ。


「ねえ、知ってるんでしょ?その人のこと」


みひろは子供のようにフェリオンのローブの裾をキュッとつまんで上目遣いで情報を強請る。


可愛い。これが地なのが困る。


しかもみひろから溢れる白い魔力がフェリオンに染み入り抗えない高揚感に包まれた。


「……彼女は」

思わず口を開く。


「うんうん!」

みひろの笑顔がぱっと花開く。


「……ずっと眠ってる」


「それで?」


「それだけ」


「それだけって……」


気づけばみひろは前のめりになりすぎてフェリオンに縋っていた。

彼から甘くて爽やかな香りが届き、ハッとした。

みひろは慌ててフェリオンから離れ、気まずそうにソファに座る。


「……会いたいです」

フェリオンも座るのを確認してから、みひろはかしこまって本題に入る。


「聞いてた?機密ですよ」

フェリオンは本を開きながらみひろの方を見もせずに答える。


みひろは食い下がった。目の前でパンっと手を合わせ、フェリオンを拝んだ。

「ねぇ、お願い。私その子にどうしても会いたいの。ちょっとだけ、こっそりお見舞いするだけでいいの」


フェリオンはみひろの仕草の意味を知らなかったが、意気込みは伝わってきた。


「君、自分が凄く目立つって気づいてないの?」


フェリオンは信じられないものを見るような目でみひろを見た。


「はい、この話はこれでおしまい!授業始めますよー」


完全に話を終わらせられてみひろは大きなため息をついた。

頼むのはもう無理そうだ。


…………今日のところは。


その後もみひろは授業の度にフェリオンにお願いをした。

つまり毎日彼を困らせた。


そしてある日の授業前。

いつものようにみひろはフェリオンに詰め寄る。


「会いたいです!」


「いいよ」すんなり許可が出た。


みひろはぽかんと口をあけた。

フェリオンはクスリと笑ってもう一度「いいよ」と言った。


「嬉しい!ありがとうフェリオン!」

思わずみひろはフェリオンに抱きついた。

彼のローブからはあの甘くて爽やかな香り。


「お礼はリューディガー様に言ってくださーい」

みひろを自分から剥がし、不本意そうにフェリオンは言う。


「フェリオンのお父さん?」


「あと、宰相のマグヌス様。」



フェリオンは昨日のリューディガーとの晩餐を思い出す。



『週末、みひろ様と渡り人様を見舞いなさい』


「……はい」


リューディガーから唐突に切り出された言葉の意味を、フェリオンは頭をフル回転して理解した。


フェリオンは授業の様子を、毎日リューディガーに書面で報告していた。

その中にみひろが渡り人に会いたがっている話も書いていた。

特に相談した訳では無いが、リューディガーの方でマグヌス様あたりに接触し、手配をしたのだろう。


『表向きは“クロード・ラングレイの邸に療養に来ている遠縁の令嬢を聖女として慰問する”という名目だ。先方にはマグヌス殿から話を通してある』


「分かりました。」


父に手柄を取られたような気分だった。

彼女の初めてのワガママだったのにな。

それを叶える力のない自分が悔しかった。



「でも私が会いたがってる事はフェリオンが教えたんでしょ?」


「うーん、それはそうなんだけど……」


「ふふっ。歯切れ悪いフェリオン珍し」


フェリオンはみひろの笑顔を見ながら複雑な気持ちを落ち着かせた。



ーーー


そして、待ちに待った週末がやってきた。

王宮の侍女や警護の視線を気にして、いくぶんそわそわしながらも、馬車の中のみひろは妙な高揚を覚えていた。


「私変じゃない?」とみひろが言う。


「変じゃないよ。かわいいよ」 とフェリオンが返す。


飽きもせず何度も同じやり取りをする。


「窓の外でも見て落ち着いたら?」


「うん……今日の騎士様黒服なのね」


窓の外を馬で並走するみひろの警備の騎士はいつもの白の騎士団ではない。あまり見慣れない黒の騎士服。念の為召喚の儀で渡り人を見た者が配置された。


「あれは黒の騎士団だよ。先頭にいるのがクロード・ラングレイ部隊長殿だよ」


「噂の『オレの英雄』さんね」


「そう、オレの親友の、オレの英雄さん」


二人は馬車の中から真面目な顔でクロードを眺めた。

授業の合間の雑談によく出てくるフェリオンの親友は、整った顔をしているけれど、とても厳しい表情をした騎士だった。


「『オレの英雄』さん、怖そう」


「無愛想なだけさ。好物の甘い果物をツマミに酒を飲むような奴だよ」


「フェリオン先生、それでは人物像が絞れません」


いつものように冗談を言いあう。馬車は石畳を滑るように抜け、眠る渡り人の元へ二人を運んで行った。



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