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11話 急ぎの手紙とふける夜

よろしくお願いします

フェリオンは眠る彼女をもう一度確認し、そっと離れた。


応接用の革張りの椅子に、いつの間にか用意してあった服に着替える。

クロードのものだろうか、少し大きい。


次からは着替えも置いておこうと心に決めて、フェリオンは扉を静かに閉めた。

起きることはないだろうが、もう夜更けだ。


ドアノブを離す音さえ聞こえる。


疲労で足に力が入らずヨロヨロと歩いていると、廊下で執事のコンラートに声をかける。


「こんばんはコンラート。クロードはどこかな」


「書斎におります。肩をお貸ししましょう」


「ありがとう、大丈夫だよ」

コンラートは一礼する。笑顔のフェリオンを見て察したのだろう。眼鏡の奥の瞳が柔らかく細められた。


そのまますれ違うフェリオンの背にコンラートは声をかける。


「フェリオン様に手紙が来ております」


驚き振り返る。「ここに?」


「クロード様にお預けしております」

そう言うとコンラートは行ってしまった。


クロード邸に自分宛の手紙が来たのだ。こちらにいると踏んだ、急ぎの手紙。召喚の報告の催促だろう。


「まだ4時間しか経ってないのに、気が早いな」


部外者に急かされたような気がして、フェリオンは少しイライラしながら書斎をノックした。

扉はすぐに開かれた。

険しい、少し憔悴したクロードの顔がそこにあった。

フェリオンは知っている。これはそうとう感激している。


「お前は英雄だ」


体の大きな騎士団の部隊長が抱きついてきた。背骨が折れそうだ。


「強い強い」


男の胸板に顔を埋める趣味は無い。

クロードはフェリオンの背を叩き、離れると書斎に通した。


「彼女治ったんだろう」


「傷はなんとかね。でも、しばらく目覚めないかも。しばらく通わせて貰うよ」


「頼む」


「見に行くか?」


「後でな。お前の顔で大事ないのは分かったから」


対面のソファに座り話しているとメイドのリゼがコーヒーを運んできた。フェリオンが顔を上げた。


「え、コーヒー!?」


クロードが頷くと、フェリオンは香りを楽しむと一口含んだ。

このご時世に、いい豆だ。

コーヒーの苦味が、酸味が、深みが、疲れた身体に染み渡り、彼の精神を癒した。

鼻から抜ける息まで幸せだ。


「王城から手紙と一緒に豆が届いた」


クロードは自分とフェリオンの分の手紙を見せた。差出人は同じ。おそらく中身も。


「宰相様から直々に手紙を貰えるとはね」


宰相マグヌスからの手紙を、銀のペーパーナイフでピリピリと開ける。


「……午後から召喚の報告会議があるからその前に小一時間話そうって」


「そのようだな。おそらく最初の召喚された女の話は粗方聞いたから、こちらにいる女の話を聞かせろという事だろう」


これは、今から書類を作成しなくてはいけないのでは。

フェリオンは青い顔で時計を見た。


11時。夜中だ。部下も寝てる時間。


手紙には午前9時に執務室に来るようにとある。


それまでに召喚の儀で起こったあれこれを文字に起こさねばならない。

フェリオンはクロードを見た。


「俺は見たままを簡潔に書く。邸に警備が必要になったから要望も書く」


そうだ、要望も書かなくては。


「オレ、気を抜いたらあの子を斬った奴の悪口ばかり書きそうだ」


「それは報告書じゃなくて怪文書だな」


クロードは手紙にウンザリしながら、しかしフェリオンを憐れむように見た。


「お前は一度帰らなくていいのか」


「そうだ、父上」

父であり聖女の異常性を理解してくれる唯一の人。

そして上司。

報告の義務がある。


「オレ、午後から飲まず食わずで2回も魔力切れで倒れそうになってるのに、徹夜させる気かよ」


この仕打ちを見越してのコーヒー豆ということか。無理をさせる自覚があったのか。


「まず腹になにか入れよう。」

クロードは絶望しているフェリオンを立たせて食事をしに1階へ向かう。


「決めた。1時間で書類作って4時まで寝てから家に帰る」


「はっ。魔法塔のエースは言うことが違う」


階段の1番上で決意表明する親友に、クロードは思わず破顔した。


「クロードくん、君もだよ」


「え」


階段の途中、驚いて振り返るクロードはフェリオンと同じ目線になっていた。彼の青い瞳が意地悪く歪む。


「意見擦り合わせて帰らないとお互い困るだろ。それが終わってから寝るんだよ」


それが済むまで寝かさないという事だ。


難しい顔をしたクロードは口を尖らせ

「……よ」と言った。


「よ?」

フェリオンも口を「よ」の形に尖らせた。


「……4時に起きてからやろう」

クロードの渋い顔に、今度はフェリオンが破顔した。


コーヒーの香りがまだ廊下に残っていた。

夜はもう少しだけ続く。



ありがとうございました

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