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stege 005 「もう無理です」宣言
「退職希望します」
ある朝鳴白翔太は、その言葉を勇気を注ぎ口にした。
声は震えていないけど、確かに声に出た・・・。
上司の反応は・・・・・。
「いまじゃないな」否定された。
「人手が不足しているのは分かるだろう?」
「数字が落ち着いたら。今はそのタイミングじゃない」
聞きなれたフレーズ。
"今じゃない、じゃいつなのよ、間接的じゃわかんないよ"という問いは静かに葬られる。
数日後、また一人先輩は退職した。
何も言わずに、ただ机の上がきれいになっていた。
それを目にした翔太は、同期の早川にぽつりとこぼした。
「自分の事誰にも話せず他人の退職だけが毎回"己の事"のようで、苦しいんだよ」
早川は黙って頷いた。
その沈黙に言葉以上の理解が存在した。
鳴白翔太は心のどこかで気づいていた。自分はもう壊れかけていることに・・・。
眠れない夜・朝の吐き気、"営業スマイル"の奥で何かが抹消されている感覚。
『もう無理です』
その言葉を声に出せるようになったのは確かな進歩だった。
その一言に許可証が必要な社会がここに存在しているのだ。




