最終話 人として
結婚式前日、当日の打ち合わせをしていた。
あれから、兄からの手紙は無かった。
けれど、仕送りは続いていた。
仕送りだけが、兄との繋がりを感じさせていた。
「お打ち合わせ中、失礼します。」
そう言って、式場のスタッフが誰かを連れてくる。
白髪で体格の良い、スーツを綺麗に着こなした男性が頭を下げる。
「ご兄妹様から、ご祝儀を預かっております。」
その言葉に嬉しくなる。
兄が、きちんと祝ってくれている事が、嬉しかった。
その男性は、足音を立てずに歩み寄り、そっと箱を置く。
「こちらでございます。それでは。」
深々と礼をし、静かに去っていく。
箱を開けると、ご祝儀袋と私名義の通帳。
そして、兄からの手紙が入っていた。
兄からの手紙を読む。
読んでいると涙が溢れた。
ハンカチで拭いても、涙は止まらなかった。
式の間でなくて良かった、と、思った。
化粧が落ちてしまう。
ここまで支えてくれた、兄への感謝で胸がいっぱいだった。
胸から溢れた涙で、打ち合わせどころではなかった。
エリへ
結婚、おめでとう。
あなたの人生が、幸せに満ちることを祈っています。
もう、仕送りは必要ないと思っています。
だから、これが最後です。
これまで、あなたが自分の道を歩き出す時に渡そうと、
少しずつ貯めていたものです。
最後の仕送りだと思って、受け取ってください。
式に行けず、ごめんなさい。
おめでたい席で伝えることではないかもしれないけれど、
謝っておきたいと、思ったのです。
私は、あまり良い兄ではなかったかもしれません。
けれど、あなたの幸せを願う気持ちだけは、
誰にも負けないつもりです。
改めて、結婚おめでとう。
あなたの歩む道が、幸せであることを、
心から祈っています。
兄より