表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

第4話 PMC

曇天の下、装甲車が進む。

瓦礫を踏み、目的地を目指して。

隊長が任務の説明をする。

「目的地点は、オーバーラン・ゾーンだ。補充人員は、無い。」

そう言う隊長の顔からは、感情は読み取れなかった。

「……我々はそこで、残敵掃討と民間人の保護を行う。」

間を置いて続ける。

「……銃を向けてくる奴は全て敵だ。……武装した者は、警告に従わなければ、撃て。」

隊長は目を閉じ、その言葉は自分に言い聞かせている様にも聞こえた。


先週、敵勢力が撤退。

残されたのは、放棄された拠点に、焼けた民家。

「着いたぞ。周囲に展開、索敵を行う。」

命令に従い、展開する。

J-3が死に、4人で行動していた。

『敵、存在確認されず、オーバー。』

無線機から声が聞こえる。

担当方面を見渡し、こちらも通信を送ろうとする。

「敵、存在確――」

言いかけたその時、旧式のアサルトライフルを携えた少年が現れる。

即座にこちらもアサルトライフルを向ける。

その背には、小さな亡骸。

その亡骸と、抱えた銃は、不釣り合いに見えた。

少年が銃をこちらに向ける。

「……返せよ……。……返せよ!妹を!……母さんを……父さんを……っ!」

その言葉に心が揺れる。

違う、奪ったのは、俺じゃない。

指が震えていた。

心音が頭に響いていた。

瞬きも、息もできずにいた。


ターンッ

不意に銃声が響く。

目の前の少年兵の額に点ができていた。

少年の目は見開かれたまま、時が止まったかのように感じられた。

そして、少年兵が前に倒れる。

その背に横たわる、少女と目が合った。

銃声のした方に、目が向いていた。

ハンドガンから煙を上げる、隊長の姿があった。

「……言ったはずだ。銃を向けてくる奴は全て敵だ。」

その言葉が頭に響く。

彼は、少年は、明確に俺に殺意を向けていた。

隊長が居なければ、死んでいたのは俺だった。

「……私情を捨てろ。……生き残りたければな。」

そう言うと隊長は通信機に話しながら、去っていく。

「武装した民間人を排除。他に敵の存在は確認せず。アウト。」

残された俺は、何が起きたのかが直ぐには分からなかった。

間を置いて、声にならない叫びが出た。

涙が溢れて、止まらなかった。

膝から力が抜け、崩れ落ちた。

隊長は自分を助けてくれた。

それでも、それを割り切れない頭と、受け入れられない心が、身体を動かしていた。

砂と瓦礫を掴む手が、己の無力さを伝えていた。


こうして、俺の初任務は終わりを迎えた。

隊長は俺を褒めてくれた。

よく生き残ってくれた、と。

その言葉には、失われた命への想いがのせられている様に感じられた。

皆は、任務の終了を素直に喜んでいる様に見えた。

……誰も、J-3について話さなかった。

ただ、そこにあったのは、無事に任務を終えた安堵と、束の間の平穏だった。

車の振動と、駆動音だけが、自分の生を感じさせてくれた。


郵便受けを開けると、手紙が入っていた。

兄からの手紙だ。

「またお兄さんから?過保護なんだねぇ。」

友人は揶揄う様に言う。

「……家族だからね。」

私は笑顔でそう答える。

確かに、過保護なのかもしれない。

手紙も多いのかもしれない。

けれど、私には、唯一の家族である兄が、私に送ってくれる手紙が嬉しかった。

「ブラコンだねぇ。」

呆れ顔で友人が言う。

「もう、そんなんじゃないってば!」

そう、笑い合う二人を、晴れ空は優しく包み、太陽は微笑む様に見守っていた。


元気ですか。

お兄ちゃんは元気です。

次のお仕事は国内だそうです。

またすぐ海外に行くようですが、少しだけ、戻ってきます。

短い海外出張でしたが、とても長く感じました。

戻るのが、とても楽しみです。

ホームシック、と言うやつなのかもしれません。

帰ってきても、会う時間は取れませんが、元気でいることを願っています。

お友達とは仲良くしていますか。

その時間を大切にしてください。

あなたの、幸せを、私は祈っています。

兄より。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ