第4話 PMC
曇天の下、装甲車が進む。
瓦礫を踏み、目的地を目指して。
隊長が任務の説明をする。
「目的地点は、オーバーラン・ゾーンだ。補充人員は、無い。」
そう言う隊長の顔からは、感情は読み取れなかった。
「……我々はそこで、残敵掃討と民間人の保護を行う。」
間を置いて続ける。
「……銃を向けてくる奴は全て敵だ。……武装した者は、警告に従わなければ、撃て。」
隊長は目を閉じ、その言葉は自分に言い聞かせている様にも聞こえた。
先週、敵勢力が撤退。
残されたのは、放棄された拠点に、焼けた民家。
「着いたぞ。周囲に展開、索敵を行う。」
命令に従い、展開する。
J-3が死に、4人で行動していた。
『敵、存在確認されず、オーバー。』
無線機から声が聞こえる。
担当方面を見渡し、こちらも通信を送ろうとする。
「敵、存在確――」
言いかけたその時、旧式のアサルトライフルを携えた少年が現れる。
即座にこちらもアサルトライフルを向ける。
その背には、小さな亡骸。
その亡骸と、抱えた銃は、不釣り合いに見えた。
少年が銃をこちらに向ける。
「……返せよ……。……返せよ!妹を!……母さんを……父さんを……っ!」
その言葉に心が揺れる。
違う、奪ったのは、俺じゃない。
指が震えていた。
心音が頭に響いていた。
瞬きも、息もできずにいた。
ターンッ
不意に銃声が響く。
目の前の少年兵の額に点ができていた。
少年の目は見開かれたまま、時が止まったかのように感じられた。
そして、少年兵が前に倒れる。
その背に横たわる、少女と目が合った。
銃声のした方に、目が向いていた。
ハンドガンから煙を上げる、隊長の姿があった。
「……言ったはずだ。銃を向けてくる奴は全て敵だ。」
その言葉が頭に響く。
彼は、少年は、明確に俺に殺意を向けていた。
隊長が居なければ、死んでいたのは俺だった。
「……私情を捨てろ。……生き残りたければな。」
そう言うと隊長は通信機に話しながら、去っていく。
「武装した民間人を排除。他に敵の存在は確認せず。アウト。」
残された俺は、何が起きたのかが直ぐには分からなかった。
間を置いて、声にならない叫びが出た。
涙が溢れて、止まらなかった。
膝から力が抜け、崩れ落ちた。
隊長は自分を助けてくれた。
それでも、それを割り切れない頭と、受け入れられない心が、身体を動かしていた。
砂と瓦礫を掴む手が、己の無力さを伝えていた。
こうして、俺の初任務は終わりを迎えた。
隊長は俺を褒めてくれた。
よく生き残ってくれた、と。
その言葉には、失われた命への想いがのせられている様に感じられた。
皆は、任務の終了を素直に喜んでいる様に見えた。
……誰も、J-3について話さなかった。
ただ、そこにあったのは、無事に任務を終えた安堵と、束の間の平穏だった。
車の振動と、駆動音だけが、自分の生を感じさせてくれた。
郵便受けを開けると、手紙が入っていた。
兄からの手紙だ。
「またお兄さんから?過保護なんだねぇ。」
友人は揶揄う様に言う。
「……家族だからね。」
私は笑顔でそう答える。
確かに、過保護なのかもしれない。
手紙も多いのかもしれない。
けれど、私には、唯一の家族である兄が、私に送ってくれる手紙が嬉しかった。
「ブラコンだねぇ。」
呆れ顔で友人が言う。
「もう、そんなんじゃないってば!」
そう、笑い合う二人を、晴れ空は優しく包み、太陽は微笑む様に見守っていた。
元気ですか。
お兄ちゃんは元気です。
次のお仕事は国内だそうです。
またすぐ海外に行くようですが、少しだけ、戻ってきます。
短い海外出張でしたが、とても長く感じました。
戻るのが、とても楽しみです。
ホームシック、と言うやつなのかもしれません。
帰ってきても、会う時間は取れませんが、元気でいることを願っています。
お友達とは仲良くしていますか。
その時間を大切にしてください。
あなたの、幸せを、私は祈っています。
兄より。