表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第3話 儚さ

翌朝、俺たちは最前線にいた。

「待ってくれ、それは、我々に死ね、と言っているのか?」

そう言う隊長の、握られた拳は、微かに震えていた。


そして、俺たちは戦場を走っていた。

「走れ走れ!止まると死ぬぞ!」

砲弾が降り注ぐ中、無我夢中で前へと走った。

遊撃部隊として、友軍の戦車の進行を阻んでいる砲兵陣地を強襲していた。

砲弾が巻き上げる土煙に紛れ、機を見ては一気に進む。

隊長の判断は的確で、そして早かった。

「伏せろ!……そのまま動くな……。今だ!走れ!」

言われるがまま、訳も分からず命令に従った。

撃ち、伏せ、走った。

そうする事が、生き残る為の唯一の方法だと思った。

そうして我々は邪魔な砲兵陣地を襲撃。

隊長の指示で分散し、一斉に攻め込む我々は、新兵を含む、たった5人の部隊だとは思われなかっただろう。

鮮やかに、迅速に襲撃し、対応できずにいる敵が混乱している間に戦車が進む。

我々は敵の砲兵陣地を制圧していた。

そのまま我々は、制圧した陣地の確保の任に就く。

「やるじゃないか、ルーキー。」

隊長が労ってくれる。

「着いて行くだけで、精一杯でした。それに……。」

何人、殺したのだろう。

死なないために、殺されないために、殺した。

昨日、初めて人を殺したばかりの手は、もう震えてはいなかった。

ただ、言われるがまま、生き残る為に走り、そして殺した。

隊長が静かに首を振る。

「深く、考えるな。それが、お前の仕事だ。」

そう言う隊長の顔は悲しんでいるように見えた。

その言葉は、自分自身に向けられている様にも感じられた。

まだ埃の舞う空は、灰色に見えた。


夜、仲間が話しかけて来た。

「やあ、J-5。俺はJ-3だ。って知ってるか。」

スープを持ったまま、俯いている俺に、軽いノリで話しかけてくる。

「いやぁ、大変だったな。隊長がいなきゃ、俺たち全滅だったぜ。」

「……。」

何も言えず、沈黙で返す。

「……お前は何でこの仕事に?」

「えっ?」

家族のため、妹のため。

ただ、それは他人の命を奪って良い理由なのだろうか。

そう考えていると、J-3がお道化て言う。

「……俺は金のためさ。金のために、命を奪う。そして、金が貯まったら恋人と、田舎に小さな家を買って静かに暮らすのさ。」

それは、自分の持つ悩みが、大したものではないのだ、と思える程、軽い言葉に思えた。

「……俺は、家族の、妹の学費のためだ。」

そう、俯いたまま答えた。

「……良い心掛けだ。家族のためだなんて、立派な理由じゃないか。」

その言葉に、心が軽くなる様な気がした。

スープの湯気が揺らいでいた。


次の日、J-3は死んだ。

次の戦地へと車で向かう途中、休憩中に敵兵と遭遇。

撃たれて、呆気なく死んだ。


「……早くしろ。」

隊長が重い表情で言う。

その言葉に力は無かった。

「ですが、死体を残しておくと、面倒です。」

遺品を回収し、グレイハウンドだと分かるものが無いことを確認していた。

隊長は目を閉じ、言葉を発さなかった。

E-Toolで、遺体を埋めていく。

すまない、弔いもできず。

心の中で呟いた。

遺体を埋葬し終える頃、出発の準備も済んでいた。

「……行くぞ。」

隊長が短く言う。

その言葉に従い、車に乗り込む。

隊長は、埋葬された場所に目を向け、静かに祈るように目を閉じた後、車に乗り込む。

降り続く雨は、タイヤに泥を絡め、死者を隠すように跳ね上げていた。


「あっ!」

郵便受けを開けると手紙が来ていた。

兄からの手紙だ。

私のために、海外から仕送りをしてくれる兄。

両親がテロで死に、残された唯一の家族である兄。

その兄が誇らしく、そして、その手紙が嬉しかった。


元気ですか。

無理をしていませんか?

お兄ちゃんは元気です。

この前、同僚の夢を聞きました。

仕事でお金を稼いで、恋人と静かに暮らすのが夢なのだそうです。

お兄ちゃんは、お前が学校で学んで、好きな事を仕事にし、自由に生き、そして、好きな人と幸せに暮らしてくれることが一番の夢です。

ですが、頑張り過ぎないでください。

無理を、しないでください。

身体を壊さぬ様、気を付けていてください。

兄より。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ