表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第2話 生きるために

「あっ」

郵便受けを開けると一通の手紙。

兄からのものだった。

「エリ、行くよー。」

手紙を鞄にしまい、友人の呼ぶ声に答える。

「今行くー。」

エリ、と、呼ばれた少女は駆け出し、呼んだ少女の隣を歩く。

「何々?誰から?」

ニヤニヤと、手紙の事を尋ねてくる。

「もう、そんなんじゃ無いって。兄さんから、だよ。」

ニヤニヤとした表情を戻し、話を続ける。

「へえ、なんて?」

手紙を読みながら答える。

「えっと、あ!就職が決まったんだって。それで、仕事で海外に行くって。」

「へえ、海外なんてすごいじゃん。それも、就職してすぐ海外だなんて。」

「……うん。」

兄が褒められた事が素直に嬉しかった。

「でも、エリはお兄ちゃんっ子だから、寂しいんじゃないの?」

また、ニヤニヤとしながら友人が言う。

「もう、昔のことだよ!」

確かに、兄に頼ってばかりだった。

両親が事故で亡くなり、兄にばかり頼っていた。

進学も諦めていたのだが、兄が、自分が何とかするから、と、進学させてくれた。

兄の事を考えていると、自然と頬が緩んでいた。

「はー、また、お兄ちゃん、好きーって顔してるよ。」

と、友人が揶揄ってくる。

「そんなんじゃ無いってば!」

と笑いながら歩く少女二人を、青空が優しく覆っていた。


「緊張するな、ジャッカル・ファイブ。我々の任務は確保済み地点の防衛だ。戦闘になる可能性は低い。」

「……はい。」

周囲を警戒しながら進んでいた。

崩れた壁から、力を失った腕がぶら下がっていた。

目的のポイントに到着すると隊長が通信を行う。

「こちらジャッカル・ワン。目的地点に到着した。……了解した。」

通信を終え、隊長がこちらを向く。

「しばらくここで待機だ。前線からも離れている。」

そう言うと、部隊の緊張が解ける。

隊長が話しかけてくる。

「どうだ、初めての戦場は。」

「は、はい、緊張してしまって……。」

隊長はガハハ、と豪快に笑う。

「初めてはみんなそんなもんだ。」

「は、はい。あの、それで、緊張して尿意が……。」

その申告に、また隊長が豪快に笑う。

「陰でしてこい。こんな場所じゃ、トイレなんて無いからな。」

そう言われ、装備を持ったまま物陰に入る。

「えっ。」

そこに、見知らぬ男がいた。

我々以外、ここにいるはずがない。

相手もこちらに気付き、すぐにアサルトライフルを向けてくる。

考えるより先に身体が動いていた。

咄嗟に組付き、肩のナイフを抜く。

抜いた勢いのまま相手の喉を切り裂く。

生温い液体が顔にかかる。

相手が抵抗するのを感じる。

が、それを押さえ付け、ナイフを突き立てる。

次第に抵抗が弱まっていく。

けれど、突き刺す手は止まらなかった。

刺す度に飛び散る液体も、弛緩していく肉の感触も、何も気にならなかった。

やらなければ殺される。

ただ、そう思って突き刺し続けた。

騒音に気付いて駆け寄ってきた仲間に止められる。

「落ち着け!もう、死んでいる!」

「っ!はっはっ」

息が上がっている。

呼吸するのも忘れていた。

仲間が相手を確認している。

隊長が肩を叩く。

「よくやった。……どうだ、初めて人を殺した気持ちは。」

「はぁ、はぁ。」

隊長は、静かに肩に手を置いたまま、俺が落ち着くのを待ってくれていた。

仲間が相手の身元を調べ、敵勢力の一員であることが分かった。

そして、この場所を確保したまま、夜を迎えた。


月明かりの中、皆が雑談をしながらスープを飲んでいる。

与えられたスープの、温かい湯気が、顔にかかった血を思い出させた。

思わず吐き気が込み上げる。

手に感触が残っていた。

まだ、血の臭いが体に染み付いていた。

食事を諦め、手紙を書こうと、明かりの近くで紙を広げる。

手が震えて上手く文字が書けなかった。

気付くと隊長が隣に立っていた。

「家族宛てか?」

「……はい。」

「……お前は正しい事をした。お前が制圧していなければ、我々の誰かが撃たれていた。」

「……。」

何も答えられなかった。

隊長の言っていることは正しい。

やらなければやられる。

そう、訓練で嫌と言うほど叩き込まれた。

それでも、命を奪った感触は、命の失われた臭いは、どうしても纏わりついて離れなかった。

「すぐ慣れる。」

そう言って隊長は離れていく。

月が綺麗に輝いていた。

梟の声だけが聞こえていた。


ーー兄からの手紙が来ていた。

元気ですか。

お兄ちゃんは元気です。

異国の空は、月が大きく見える気がします。

星空もはっきり見えます。

職場の仲間たちも優しく、なんとかやっています。

身体に気を付けてください。

兄より。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ