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馬刺しの哲  作者: SBT-moya
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法の不備


明くる日の、日野刑務所である。

給食係の山井は、突然署に押しかけてきた弁護士、小泉につかみ掛かられていた。


「お前たちは何を考えているんだ!! そんなに殺したいか! 土人め!!」


 ヒートアップした小泉を、所長の北沢が取り押さえるも、小泉は……



「お前たちは絶対に許さん!!」 


 などという捨て台詞を吐いて去っていった。


 後日、日野刑務所。


「次のオーダーは……『ペガサスのハンバーグ』と『ユニコーンのシチュー』だ」

 日野刑務所ラストミール部の詰所で、山井はオーダー用紙を握り締めたまま、顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。

「ふざけてるんですか!? これはもはやラストミールじゃなくて、ラストジョークですよ!!」

 北沢は眉間を揉みながら深いため息をついた。

「分かる。分かるとも。しかし、これはどうやら……小泉という弁護士の仕業らしいな」

「小泉? この間の……?」

 山井は机を叩いた。

「これが奴の手口ですか! こんな無理難題を押し付けて、法務省や現場の混乱を楽しんでいるんですよ! 許せません!」


 その頃、小泉亨は都内の高級レストランでワインを片手に微笑んでいた。彼の前には、今回の「幻想的なラストミール」をオーダーした囚人、松永が座っている。



「どうです? 私のアドバイス通りにオーダーしてみた感想は?」

小泉のアルカイックスマイルが薄く広がる。


「正直なところ、食えるわけないだろうと思ったけどな」

 松永は不安げに笑った。

「でも、それが狙いだ。国は対応に困る。現場は混乱する。そして、ラストミールという制度の矛盾が露わになる」

 小泉は軽くグラスを回した。

「法の不備を突くことが、君を救う第一歩だ。君の命を守るためにね」


 松永は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに乾いた笑みを返した。

「へぇ……弁護士さん、ずいぶん楽しそうに見えるけどな」

 


 小泉の狙い通り、現場は混乱を極めていた。

特に山井は、自分のやっていることに疑問を持ち始めていた。

死刑制度の問題ではない。なんだか、

ラストミールという切実な物を茶化されている気がしていた。


「何者なんですか……『ペガサス』と『ユニコーン』ってのは……」


「どちらも神話の動物だな」


「……どこに生息しているのです? ギリシャですか?」


「まあ、強いていうなら異世界だな……」


「北沢さん、僕、この間小泉って弁護士に詰められて思ったんです。

 僕らのやっていることって、なんなんだろうって……?」


「我々の仕事は……ただ、囚人が最後の晩餐に食べたいものを、食べさせてあげることさ。

 それ以上は、哲学も、倫理も存在しない。これは仕事だからな」


「まさか、最後に神話の生物を食べたいとか……仮にも罪人がそんな傲慢が許されるのでしょうか」


「……いや、手ならある……」


「なんですか?」


「……『馬刺しの哲』だ……。彼なら、あるいは……」


「馬刺しの……哲……」


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