8「万が一の最悪」
何が起きた?
魔術を発動させ確実に当てた。
私の炎魔術は今まで数多くのグノースを両断させてきた。
今回も同じ。
炎を纏った剣は全ての障壁をも切り開く。
そのはずだった。
何が起きた?
確実に当てた。
でも、中まで入っていない。
私の剣は途中で止まった。
鱗に当たる前に。
その瞬間全ての状況を理解する。
魔力障壁。
魔力を圧縮し盾のように扱う基本魔術だ。
グノースが魔術を?
全てが間違いだったことに気づく。
このグノースは水銀級なんかじゃない。
なんとなく、黄金級はおとぎ話にしか出てこないと思っていた。
幼い頃、母親の読んでくれた絵本に出てくる。
勇者が倒してくれる悪いやつ。
そんな記憶があったから。
頭のどこかでその可能性を消していた。
今目の前にあるのは物語じゃない現実。
あらゆる可能性が消えていく。
勝てる可能性。
生き残る可能性。
ドラゴンの頭上で巨大な陣が展開されている。
その先には、
ラフィがいた。
!!!!!!!!!!!!!!!!
親友の危機に我に返ったミカは叫ぶ。
「ラフィ!逃げて!!」
その叫びを聞いたラフィも自分が狙われていることに気づく。
すでに魔術が発動されていた。
陣の中心から放たれた膨大なエネルギーは
ラフィに向かって一直線に向かってくる。
ダメだ。避けられない。
ラフィが死を覚悟した瞬間。
間一髪でペテが射線からラフィを回避させた。
「あっぶねーギリギリセーフ!」
久しぶりに緊張したペテが安堵する。
ラフィの安全を確認したミカは安心する間もなく攻撃に移る。
どこまで自分の攻撃が通るか分からない。
でも、少しでも自分に意識を向けさせる。
勢いよく放った斬撃はドラゴンの体に傷をつける。
否、弾き返された。
最初より硬くなっている!?
反動で体制が崩れる。
瞬間、体にとてつもない衝撃と痛みを覚えた。
そのまま体が吹っ飛ぶ。
ドラゴンの尻尾で払われたミカは
そのまま壁に打ち付けられた。
身体中が痛い。
何とか魔力障壁と受け身で威力を最小限に抑えたが、それでもこのダメージだ。
でも、まだ動ける。
追撃が来る前に少しでもあいつにダメージを与える。
1発でもいい。
動かせ、体を。
「やつを倒すのは神か勇者か...」
ミカの目の前に1人の少年が立っていた。
「吐血魔術師...」
ミカは体を起こしながら言った。
「ねえ、マジでその呼び方やめてくんない!?」
ユウドラは勢いよく言った。
「下がってなさい...あいつは危険すぎる。」
ミカは再び忠告する。
「確かに黄金級は危険すぎる。伝説や神話に出てくる魔物でも見ている気分だ。」
ユウドラは真剣な顔になって続ける。
「それを含めて、1つ提案だ。」
いつも見ない真剣な顔にミカは顔を強ばらせる。
「1分。いけるか。」
ユウドラの提案に対してミカが答える。
「信用してもいいのかしら?」
ミカのその答えにユウドラはニッと笑って。
「まかせろ。」