4「グノース」
「ここの雰囲気は慣れたかい?」
座り込んでるミカとラフィを見つけてユウドラが声をかける。
自然になるよう振る舞ったはずだったが
ラフィは何か気づいたらしい。
「何処か行くの?」
なんで分かるんだよ。
と、心の中で思いながら
「ちょっとな。」
簡単に答える。
さすがにこれは言えない。
ボロが出ないうちにさっさと離れようとした
その時、
「待ちなさい。」
ミカが切り出した。
「言って。」
いつにも増して真剣にこちらを見ている。
なんでみんな分かるんだよ。
顔に書いてあったりする?
少し躊躇ったあと白状する。
「グノースがでた。しかも特大のやつだ。」
グノース。
終焉大戦後、突如として現れた謎の怪物。
最初に女の子が襲われていた時のあいつらもグノースの一種だ。
種類、生態、発生条件、何もかも未だ不明の獣である。
終焉大戦の被害のほとんどはこのグノースが原因とされており、
セフィロトを始めとした世界単位で討伐対象になっている。
それが集落の付近に出没したらしい。
あの助けた女の子が見たのだという。
「こんっなに大きい羽があってね!それで体はもっと大きくてね!」
全身を使って表現してくれた。
その話から推測すると、
「おそらく、水銀級はあるね。」
話を聞いたラフィが言った。
「ちょっと見てこようと思ってな。」
まあ、討伐する気しかないですけど。
ガバッ!
突然、ミカが立ち上がった。
「私も連れていきなさい!」
もちろんダメだ。
いくらセフィロトとはいえ、
危険に晒すことはできない。
これは集落の問題なのだ。
しかし、彼女の目は本物だった。
仕事とか使命とかではない。
その目の中には信念があった。
その目はよく知っている。
「ダメだ。危険すぎる。」
と言っても聞かないのは知っている。
「って、行っても来るんだろ?」
ユウドラはため息をつきながら言った。
廃墟と廃墟の間、
少し開けた空間にそいつはいた。
「ここだ。」
そう言ってユウドラは足を止める。
やつから狙われない少し高いビルの屋上。
そこで元凶の姿を目の当たりにする。
ミカとラフィは少し驚いた顔をした。
それもそのはず。
数多のグノースを屠ってきたセフィロトですら見たことないくらいのデカブツだ。
背中には体の2倍はある翼がついていた。
蜥蜴のような顔に、全身に鉱物のような鱗がついている。
そう、ドラゴンだ。
それは、奇妙な形のドラゴンだった。
静かに羽を休めている。
一体何処からきたのだろう?
最近の報告ではこんな大きなものは聞いたことがない。
それよりも集落が心配だ。
こいつが暴れだしたら集落にどれだけの被害が出るか分からない。
ここで倒した方が懸命だろう。
さて、どう倒したものか。
緊張が走る。
ミカは呼吸を整え、タイミングを伺っていた。
手に持っているのは、彼女の体くらいある大剣。
彼女の愛用武器だ。
少し離れた高台にラフィが待機していた。
彼女は風魔術の使い手だ。
遠距離の攻撃を得意としている。
対してユウドラは、
屋上に座って2人を眺めていた。
「って、戦わないんかい!!」
後ろから勢いのあるツッコミが飛んできた。
「しかたねえだろ。断られたんだから。」
ツッコミと共に叩かれた頭をさすりながら怒っているペテに答えた。
そう、断られたのである。
「そもそもあんた一般人でしょ!?
これはセフィロトの仕事なんだから!
あんたは安全な所で見てなさいよ!」
そうミカに怒られたのを思い出した。
「だとしても参戦するべきだ!
相手はどう見たって【水銀級】以上はあるぞ!」
ペテは説得してくる。
「んなの見りゃ分かるよ。」
そう、あのサイズのグノースだ、水銀はある。
グノースには危険度に応じて段階分けされている。
下から鉛、銅、銀、水銀、黄金だ。
この階級はセフィロトが制定したものであり、
段階に応じて最低限の隊の数を示している。
鉛なら個人対応可能、
銅は1部隊、
水銀なら3部隊必要になる。
「水銀級なら国家脅威レベルだ!それを一般隊員2人は無茶が過ぎるだろ!」
ペテは焦っていた。
それはそうだ。
国をあげて討伐するべき脅威をたった2人で対処しようと言うのだ。
誰だってその反応になる。
それがもし一般隊員であればの話だが。
「まあ、大丈夫でしょ。」
そういってユウドラは立ち上がった。
「大天使様が2人もいるんだから。」