3「孤児集落」
セフィロト。
言ってしまえば国の警備機関だ。
国の治安から怪物の討伐まで様々な業務をこなしている。
さっきからキンキンした声で怒ってるのはセフィロト所属「ミカ」
肩当てを着けた制服を着て、仁王立ちしながら倒れている魔術師を見下ろしている。
腰に届きそうなほどの長い髪は
炎のように赤く揺れている。
「魔力枯渇の症状、また格好つけて魔術使ったの?」
隣でめちゃくちゃ的確な分析をしてくるのはセフィロト所属「ラフィ」
こちらも制服のような服に体格に合わない大きな靴をはいている。
青く空気のような髪は
短く切りそろえられている。
頭にある猫の髪止めはいつも着けてるんだな...
2人ともユウドラの知人である。
「あんた、この前も魔術使って倒れてたじゃない!次倒れたら助けてあげないわよ!」
ミカにはいつもこんな感じで怒られる。
「魔術じゃありませーん!節の増幅ですー!」
負けじと反論。
ラフィに魔力回復薬を貰いながら言っているので面子もクソもない。
ミカの言う通り、ぶっ倒れたのはこれが初めてではない。
もう既に何度も助けられている。
普通の人間が魔力枯渇症を起こすことは基本的にない。
自分の魔力があとどのくらいあるか自然と分かるから命を削ろうとはならないのが普通だ。
それが魔術師とならば尚更である。
しかし、この少年は違った。
魔力の残量が分からないというわけではない。
魔術を使った瞬間、彼が使用するのは魔力ではなく、生命エネルギーの方である。
そう、彼には
魔力が全くない。
「ホントに魔力持ってないのね...」
ミカがぽつりと言った。
魔力がない人間は見たことがない。
おそらく世界中を探したとしても彼だけだろう。
というかこいつ、さっき節の増幅っていった?
まさかね。
ミカは聞き間違いだと思った。
魔力にはそれぞれ節という属性がある。
その中でも原始のノードとされるのが
火、水、地、大気、秩序、無秩序の6つである。
原始ノードは基本改変ができない。
合成や増幅などはとてつもない魔力量が必要なため、
本来ならば大がかりな装置でやるのが技術の限界だ。
それを手のひらだけで行えるとしたらそれは神業と言う他ない。
まあ、そんなことは後でいい。
今はこの女の子を保護するのが先だ。
「で、ここは危険地区よ。なんでこんな所に子供がいるわけ?」
ラフィが女の子に話しかけているのを見ながらミカは疑問を投げる。
親とはぐれたか、だとしたらこんな所に何故親子が...
「そんなのあれしかないだろ?」
呑気に落ちていた魔石を拾っていたユウドラが答えた。
そして1つの回答にたどり着く。
「孤児集落だよ。」
ミカとラフィが怪訝な顔をする。
予想外の反応にユウドラは少し困惑した。
僕は何か間違ったことを言っただろうか。
いや、単に知らないのか。
2人の頭の上にハテナマークが見える。
「それでもお前ら国の警備隊かよ...」
ユウドラはあきれた顔でそう言った。
終焉大戦後、
人類は人口の3分の1を失った。
生活圏も狭まり今ではほとんどが危険地区になっている。
燃える都市、
あらゆるものが壊され、
殺された。
その被害者の中にはもちろん、子供連れの親子だっている。
「孤児集落っていうのはそういう親がいなくなった子供達が集まって集落作ってんだよ。」
国家警備隊の2人にユウドラは説明する。
「まあでも、あの集落は非公式だから国の支援も受けられていないのが現状だ。」
この2人が知らなかったことも何よりの証拠だ。
「そんな集落が存在するなんて、国は何やってるの!?」
ミカが怒り出す。
まあ、普通そういう反応だよな。
廃退していくビルを眺めながら4人は歩いていた。
幸い敵は近くにいない。
自分達の声だけが建物に反射してこだまする。
昔はもっと賑やかだったのだが...
「だから、最近は僕たちが代わりに支援していんだ。」
ユウドラは言った。
そう、今の孤児集落の物資や手助けは自分達がやっている。
数年前まで別の人間がやっていたらしいが...
そうこう話しているうちに少し開けた場所についた。
「あ、おかえり。」
見知った声がした。
ユウドラたちの正面に大きな荷物を抱えた男が立っている。
少し緑かかった髪に、黒に近い色のフード付きコート。
「げ、セフィロト。」
おかえりを言い終わる前にユウドラたちを見て男が言った。
正確にはユウドラの後ろの2人に言ったのだが。
そんなにセフィロトが苦手なのだろうか。
「彼は?」
ラフィがユウドラに聞く。
「ともだち。」
的確な回答をする。
彼の名前は「ペテ」僕の友達だ。
孤児集落の支援は彼と一緒にやっている。
「あんた、友達なんていたのね。」
ミカがぼそっと言った。
「悪かったな。友達いなさそうで。」
ユウドラは不服そうに言い返した。
ペテの説明をしているとラフィが何か気づいたらしい。
「あなた、もしかして」
「あーーーー!!!!!」
ラフィが言いかけようとした瞬間、ミカがそれを遮る。
「どっかで聞いたことあると思ったら!あなた!元セフィロトでしょ!」
ギクッ!とフードをかぶろうとしていたペテの動きが止まる。
「ネクロマンサーのペテ!セフィロト屈指の無秩序魔術の使い手!」
「ついたあだ名は【死神】!」
何とも恥ずかしいあだ名を付けられたものだ。
「あいつ過去の話嫌うから...」
と、興奮しながら話すミカを落ち着かせていると、
「ペテお兄ちゃん、家のドアが閉まらなくなっちゃったの。」
ペテの足元に幼い男の子が立っていた。
「あー、あそこの家はもう古いからね。一緒に見に行こうか。」
この場を離れる口実を見つけたペテは嬉しそうに男の子についていく。
離れ際に振り返り、
「ドラ、悪いけどセフィロトの2人を案内してあげて。」
ペテはそう言うとさっさと男の子と一緒に奥の方へ歩いていってしまった。
「孤児集落ね...」
ミカがぽつりと言った。
ここは集落の中心にある広場。
1通り集落を見て回ったミカとラフィは壁を背に座っていた。
広場では小さな子供たちが各々遊んでいる。
鬼ごっこをしている子、おしゃべりをしている子。
まるで幼稚園のようだ。
「でも、ちゃんとした集落だった。住居も物資も他の集落と変わらない。」
ラフィも子供たちを眺めながら答える。
「全員子供だけどね~」
ミカは集落を見て回った思い出しながら言った。
子供だけなのに機能している集落。
一人一人役割があり、お互い支え合いながら見事に成り立っている。
不思議な光景だった。
やはりユウドラたちが支援しているお陰なのだろうか?
それだけではないと思う。
ユウドラにつれられて集落のリーダーに会いに行ったときは驚いた。
まさか子供が出てくるとは。
ここはリーダーまでもが幼い少女だったのだ。
リーダーというだけあってとてもしっかりした子だ。
「でも、珍しいね。ミカがあんな感情的になるなんて。」
ラフィは気づいていたようだ。
リーダーの手を握って、
「絶対に大丈夫だから!」
と、励ますミカ。
いつも感情的に見えるミカだが、
その時は明らかに思うものがあったようだ。
ラフィはすぐに気づいた。
「何かあったの?」
ラフィはミカに尋ねた。
その質問にミカは答えなかった。