1「少年」
商店街の一角。
人々が集まり、その声が絶えることはない。
誰もがそう思ってた。
今は静まり返り、店は2度と開店することはない。
猫の声1つ聞こえず、生き物の気配すら存在しない。
否、そこに1人の少女が立っている。
本来ならば小学校に通っていてもおかしくない年齢である。
服は破れあちこちに転んだと思われる傷。
少女は絶望していた。
何故なら彼女は今、自らに死の選択を迫られている。
足が思うように動かない。
「あっ...」
恐怖で声が漏れる。
今動けば目の前の怪物に殺されるかもしれない。
ただ今は相手を刺激するべきではない。
目の前にいるのは黒い怪物。
この世界とは違う異様な存在。
犬のような見た目だが、その生命体を名称で表すことはできない。
手には体の半分ほどある強靭な爪。
ノコギリのような歯。
すべて機械的で加工した黒曜石のような体をしている。
「グルル...」
奇妙な声が少女の恐怖をあおる。
瞬間、怪物の輪郭がぼやける。
体格に似合わない筋肉質な足で飛びかかっていた。
その爪は少女の肉体を切り裂こうとする。
それは死という運命。
どうすることもできない事象。
それを変えられるとするならば...
バギッッッッッ!!!!!
怪物の爪が少女に触れようとする瞬間、
怪物がつぶれた。
いや、空から人が着地したのだ。
怪物を下敷きにして。
手には刀のような武器。
それは深く怪物に刺さっている。
「大丈夫?」
何も無かったかのように聞いてきた。
空から降ってきたのは少年だった。
あっぶねーギリギリじゃーん...
ビルから飛び降りて刀で刺す。
最速で倒すにはこれしかなかった。
「ごめんね。驚いたよね。」
とりあえず謝っとく。
女の子だ。
何もない廃墟とかしたこの都市で女の子が1人。
親とはぐれたのだろうか?
じゃないとしたらもしかして...
「!!!」
女の子の顔色が変わる。
彼女は少年を見て驚いたのではなく、
後ろから近づく2体の怪物に驚いたのだ。
そんなことは分かってる。
何なら飛びかかって来ていることも分かってる。
これは範囲攻撃だな。
後ろに手を伸ばす。
体からエネルギーの流れを感じ、それを形にする。
その瞬間、少年の目の前に陣が現れ、目の前の敵を粉砕した。
大気の増幅に範囲補正。
軌道補正をかけたあとにエネルギーを流し込む。
複雑な行程がすべて少年の脳内で完結する。
粉砕した敵だったものは壁にめり込んでしまった。
「とりあえずこんなもんかな。」
少年は満足げに笑った。