シャイラの選択
「さて、ここで改めてシャイラの心に問いましょう。シャイラ、あなたはアルシアの友だちを辞める気はないとおっしゃったわね? そのお気持ちに変わりはないのですか?」
「はい・・・」
もちろん、私はアルシアのお友だちを辞める気はない、けど・・・
「でしたら、次の試験に臨んでいただけますが───」
「あ、あのっ!」
ゼニスおばあさまの言葉を遮った。お話が進んじゃって流されてしまう。
私、その前に確かめておきたいことが2つあるよ。
「あの・・・私が合格した試験って、もしかしてアルシアを襲ったヘビを追い払えたことですか?」
「蛇の出現は・・・。アルシアは、あの探検では封印しておくべき魔法で、祠に張り付いた気根を切ったゆえの、運命によるアルシアへの罰だと思われますから、大蛇の件はアクシデントな出来事です。が、あの冒険自体は確かに試験でした」
「大蛇出現って、アルシアへの天罰ッ!?」
「だとわたくしは思いますよ。そして合格基準はシャイラが考えている基準とは少し違いますね。アルシアは、純真な存在ゆえに、信じていた者に嘘をつかれたり裏切られた時の心のダメージは計り知れないのです。心の傷はアルシアをジワジワと殺すのです。しかしながら、たとえ恐ろしい大蛇の毒牙だろうと彼女を物理的には殺すことは出来ませんのよ。肉体への痛みはアルシアも人間同様に受けますけれど」
体のダメージでは回復力完璧なのに、心のダメージでアルシアは、死ッ!?
「アルシアはシャイラの自分への友情を信じ、シャイラは友情を保った。もし、シャイラがヘビに噛まれていたとしても、シャイラがそれを命がけで止めようとしたのなら、それであなたは合格なのです。機転を効かせてアルシアを守ったシャイラには、今後の人生に恩恵が与えられることでしょう。もし、シャイラがこれまでの他の子どもたち同様に、宮殿に関する記憶を失ってしまったとしても」
私が一番聞きたかったことは、それだ!
「私はアルシアのことも、ゼニスおばあさまのことも、私の鼻をかんでくれた優しいお姉さんのことも、馬車のアレックさんのことも絶対忘れたくはないよ! この美味しい焼き菓子のことも。こんなにも素晴らしい体験を忘れてしまうなんてイヤだよ。けれど、私は知ってるよ? アルシアは、私がアルシアのことを忘れてしまうかもって思ってるのを。それって何でですか? まるで忘れてしまうことが決まってるみたいです。忘れないためには、何か秘訣があるのですか?」
「聡いシャイラよ。よい質問です。宮殿との縁が切れたのなら、わたくしたちとの関わりは人間の記憶から全て消えます」
「・・・えっと、それって、私がその試験とやらに落ちた時ってこと?」
ゼニスおばあさまはゆっくりと瞬きしながら小さく頷く。
「私は試験を受けなくても、やがて大人になってアルシアにふさわしくなくなったって思われたらそこでさようならってなって記憶は消えるんだよね」
「ええ」
「じゃあ、私はこれからいくつあるか知れない試験に、落っこちたらその時点でアルシアとお友だちでいられないし、宮殿で楽しかった思い出さえ失くしてしまうんだ? でもって、現実ではウソつきの空想少女として生きて行くんだ? 私自身も自分を昔はウソつきだったと思い込みながら」
「・・・ふふっ。シャイラは飲み込みが早くて助かるわ。その通りよ。次の試験は受けますか?」
なんだかひどーい (。ŏ﹏ŏ) くぅ~・・・
ってことはだよ? 私の未来は3つ。
1.次の試験は受けずに、子ども時代ギリまでアルシアと過ごして、大切な思い出は諦める。
───これは今だけ味わえる期間限定の夢みたい。しかも不本意ながら、未来は自他認める妄想ウソつき少女の黒歴史持ち確定。
2.次の試験を受けて落っこちて、そのまま全てを忘れる。
───これは最悪だ。
3.次の試験を合格して、今まで通り宮殿通いを続ける。
───これは私の希望。って、これしか希望は無くない??
なにもしなくても神聖なる宮殿と繋がれた今までとは、状況が変わったんだ。
《聞いて、シャイラには私のことを忘れて欲しくないの。死んで欲しくもないの。だから・・・》
憂い顔で私にそう言ったアルシア。
アルシアは私にアルシアを忘れて欲しくは無いんだ。だから私を試験に誘ったんだ。
けど、『死んで欲しくは無い』って、本当はどういう意味? ずっと気になってて、さっきからチラチラ頭をよぎるんだ。
あの時、確かアルシアは続きで───
人間はいつか死ぬものだとか、わたくしとは年月を重ねても忘れないくらいの仲良しでいたい、みたいなこと言ってたと思うよ。やはりアルシアの言葉が意味してたのはやっぱ、
───不死ッ!?
与えられた試験をクリアし続けたら、もしかして・・・?
ちょっと考えられないことが浮かんだけれど、さすがにこれを聞くのは良くないような気がするから言わない。
「さて、どうしますか? シャイラ」
ふと気付けば、考え事してた私をじっと見つめていたらしきゼニスおばあさまと目が合った。
私に迷いなんかもう無いよ。だってアルシアが私に期待してくれてるもん!
「もちろん受けますッ!!」
「だと思いましたよ。シャイラ」
満足気に微笑んだゼニスおばあさま。
私の返事を聞いて、ゼニスおばあさまの斜め後ろに控えてる優しいお姉さんの顔もぱっと輝いた。
さあ、次の試験はなんなの?
「では、前回の祠探検の続きからです。古代巫女残滓による承認試験です」
───古代巫女?・・・なんだそれ?