アルシアの真実
───んっ? 次の試験って? そういえば、その前の試験ってのも謎のまま。 そういや、最初から、お話がちっとも進んで無いよ。私が錯乱して泣いたから。
ようやく私の横隔膜が落ち着いたところで、ゼニスおばあさまがのお話が再開された。
「・・・シャイラは、妖精を見たことはあって?」
妖精! 私の頬は、さっきと違うぽわっとした上気で熱くなる。
「あ、ありますッ! チラッとだったけど、3度見たことあります。誰も信じてくれなかったけど。私のことはみんなウソつきだって決めつけてるし。わあい、ゼニスおばあさまは知ってるんだ? 妖精はね、すごく可愛いくて、透明な羽が朝露のような煌めきで、背中が七色に光る虫よりも綺麗だと思うよ! 服も髪もキラキラして・・・。私が密林に入る一番の目的は、あの子をまた一目見たくてだったんです!」
「ふふっ、そう。それはアルシアの仮の姿でしょう。ならばシャイラは密林でアルシアを探し、そのアルシアはシャイラを見ていたのよ」
───ふぁっ?!
「ま、待って!! アルシアが妖精ッ!! なら私のお友だちのアルシアは妖精の化身なのっ!? 私と遊ぶ時は人間の女の子の姿に変身してたってこと?」
あの人間離れした美しさを持つアルシアならば、抵抗なくそうかも知れないって思う。完璧美少女のアルシアには妬ましい気持ちさえ起きないもん。私は側にいるだけで幸せ感じてる。
「いえ、妖精ではありません。アルシアの場合、妖精こそが仮の姿。彼女はもっと重要な役割を担っているの。自然界の精を司る、という」
「・・・自然界の精を司る?」
「深く理解する必用はありません。あなたは自分で選んで人間のシャイラとして生まれて来たわけでは無いのでしょう? 一人の人間としてこの世に生まれた仕組みも理由も知らなくても、人間として生きているわ。アルシアだって同じなのですよ」
そりゃそうだよ。気がついたら私はシャイラだったんだもん。
「鳥は生まれながらに飛ぶ能力を持ち合わせていますけど、どうして鳥に生まれたかは知らないし、なぜ飛べるのかなんて考えなくても本能にて羽ばたきを始め、間もなく空を飛びますわね。アルシアだって、なぜ自分がこの星の精を司る能力を与えられたかなんて知らないし、知らなくても、まさしく天と地を巡り巡る自然界の精を操る方法を心得ているのです。もちろん、年月にスキルは磨かれますし、あの子なら新しい流れなども編み出せることでしょう」
───アルシアを身近で感じてた私は、アルシアが特別な子っていうのは本当のことだって、すぐに信じることが出来た。
この宮殿にまつわる出来事はどれも不思議の部類だ、ということに私は今さらながら気づき始めたよ。
私は今まで、アレックさんの超速馬車も、ゼニスおばあさまの千里眼の杖も、そういうものもあるんだと、なんの疑いもなく受け入れていたけど、家族や村の人たちが言うように、これは日常ではあり得ないし、不思議の世界の出来事だったんだ。
───ちっちゃい頃から私だけが自然に不思議の世界に出入りしていたせいで、私には通常と不思議の境い目が無かったんだ!!
だって、当り前にそこにあったんだもん。だから疑問もなくそのまま受け入れていた。
・・・ちょっと混乱。動悸息切れだよ。私がみんなにウソつき呼ばわりされる理由。
「あなたはアルシアに見い出され、人界からここに招かれたのです。アルシアは孤独でした。アルシアの心が蝕まれれば、シャイラの住む世界の『自然界の精の流れ』にも影響が出ます。天候も乱れ、自然災害も起こりやすくなり、植物が他の生き物に与える恵みも損なわれる悪循環が生まれるのです」
そ、それは困るよ。うちは果物農家だもん。お父さんはお天気をいつも気にしているよ。
「アルシアは、もっと恒久に心繋ぐ存在が必用だと感じているのですが、そのような子どもは稀有な存在です。試験に合格した子どももかつていましたが、大人の時間が長くなると、最終的には苦悩し、自ら輪廻という魂の浄化へと向かう、あるいは魔界へと向かうあるまじき者もいます。それって "アルシアの世界" からの脱落ですね?」
(。ŏ﹏ŏ) なんだか壮大な深刻なお話になって来て、頭の中が真っ白になりそう!! ゼニスおばあさまは、子どもの私に難しいこと言い過ぎだよ。
「ゼニスおばあさま。お話するのをちょっと待ってください! わ、わ、私は少し冷たいジュースを飲みますので・・・」
お尻をモゾモゾさせて、前に出て、ふわふわのイスにもっと浅く座ってから前かがみになって、ジュースの器を取る。
喉を潤してから、アルシアが私とおしゃべりした今までの内容を思い返す。思えばアルシアの言ってることってよく分かんないことが何回かあった。
特にあのことは印象に残ってる。
───聞いて、シャイラには私のことを忘れて欲しくないの。死んで欲しくもないの。だから・・・
あの時は、私が引いちゃったからアルシアに言い訳っぽいこと言われて、アルシアの切なげな美少女顔見たら私はすっかり照れてしまって・・・
本当はもっと別の意味があったんじゃないかって今なら思うけど、どうだろ?
意味はまんま言葉通りだったら?
私は器を置いて、深く座り直した。
もしかして? まさかね・・・
***
───わたくし、シャイラの人生において、一人娘を産み、孫も一人おりましたの。その孫は、実の娘以上にわたくしの血を濃く受け継いでおりましたわ。
いつしか『悠久の魔女』との称号を自負し、得ていたていたようね。今はその最後の一人の悠久の魔女も消えてしまいました。
魂の輪廻の輪からの離脱。
意識と無意識の薄い狭間にある漆黒。そのヒビ割れである無限深淵に落下し、失われる運命であったわたくしの孫の魂が、あの日から約千年の時を経て、アルシアの『自然界の精を司る』魔力にて救われるとは。
アルシアが急遽作り上げた新しい精の流れの支流によって。
運命とは面白きものですわ・・・
とは言え人間たちはこの星の精の流れを壊し続け、穢し続け、残念ながら全体としては滅びに向かっておりますの。
人間は強欲傲慢と邪悪が過ぎますもの。
アルシアが心を痛めておりますわ・・・
俺の投稿作品の特徴は、各小説同士がリンクしてるとこです φ(^Д^ )
この小説の主人公 少女シャイラは『眠りにつく前に』のダークヒロインである悠久の魔女エレクトラの祖母にあたります。
けど、全て独立した物語なので、単独で読んでも理解に問題はありません。