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芽吹きの巫女  作者: メイズ
宮殿への誘(いざな)いと、謎の美少女
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アルシアの秘密

「そんなこと、アルシアに出来るわけないよ? だって、アルシアと私の年は変わんないよ!」


 ゼニスおばあさまの言うことはトンチンカンだよ。


「出来ますわよ? 年齢という概念について言えば、ええ、そうとも言えるし、けれどもそうではない。人間の持つ年齢に対する普遍的な考え方では答えようもないのです。肉体と時の流れの相対的な加算方では。それに老化の進行は、生物の種族によっても違いますし、同じ種族でも固体によって幾分バラツキがあるものです」


 ───ふぁっ? どういうこと??


「えっとごめんなさい。私、ゼニスおばあさまのお話が全くわかりません」


 なんだかあんなに美味しかったお菓子の味がしなくなって来た。ゼニスおばあさまのお話が訳わかんなくて全く頭に入って来ない。


「シャイラが理解できなくて当然だわ。あなたはその年の割にかなり思考明晰であり、ポテンシャルも感じ取れますが、まだいかんせん普通の人間の子どもですもの。では、人間の子どもにも分かりやすく言いましょう」


 ゼニスおばあさまは一拍おいて、私の目を覗き込むように、じっと見ながら言った。


「アルシアはいくら生きようとも大人にはならないし、なれないの。ずっと幼き少女のままなのよ。その心も体もね」


「・・・エエッ! アルシアって・・・?」


 病気? 私の心臓が心バクバクする。


「・・・それがアルシアの生まれながらの運命なのです。アルシアは、極めて高度な清浄と清廉さが必用な役割を神から与えられている故のこと。あの娘には、人間が大人になるに連れ、失われたり蝕まれたりする心と精神面において、清らかさを保つ必用があるからそのように作られているのです。それ故、アルシアは生のほとんどを孤独に過ごして来たのですよ」


 ───思えば確かに不思議な女の子だ。あの美しさにしても・・・


 けど、アルシアがずっと心も体も少女でいるからって孤独の訳はないよ。ゼニスおばあさまだってこの私だっているのに。


「違うよっ! アルシアは孤独じゃないよ! 私がいるもんっ! 私は大人になったってアルシアのお友だちだよ! それなのにアルシアは、大人になった私はお友だちじゃないって言うというの?」


 私がアルシアが大好きだってこの気持ちを軽く見られてるみたいで腹が立つよ! 私たちには本当に友情があるんだよ!


「わたくしはアルシアの今を孤独と言ってる訳ではないわよ? 先ほどは、()()()()()と言いました」


 私が子どもでいる時間しか、アルシアとお友だちでいられないってこと?


「私がだんだん大人になってって行くから? 大人になると誰もが穢れてゆくというの?」


「とにかく、これだけは知っておいて欲しいのです。アルシアが『穢れた心』に触れるのは毒なのです。毒に触れれば弱ってしまいます。消えてしまう恐れさえあるのよ」


「・・・!!」


「シャイラ、あなたもこのまま大人になれば、今は眩い光を放つ穢れなきその魂のきらめきは消えてゆくのです。人間の作り上げる世界は、表向きは美しく、信義と秩序と法で保とうといかんせん装っておりますけれど、社会の土台となる権力の陰はひどく陰湿で醜いのですから、いかに日の当たる場所で清く生きようとも地上にいる限り、魂の腐敗から逃れられるものでは無いのです。このままアルシアにふさわしいお友だち、というわけには」


 私はゼニスおばあさまの最後の方の言葉に突然、涙がブワって吹き出た。私がアルシアのお友だちにふさわしくないなんてひどいよ!!


 手のひらでグリグリ涙を拭きながら、思いっきり訴えた。


「そ、そんなのウソだッ!! わ、私は絶対にアルシアのお友だちをやめないもんッ!! ううぇぇぇーーん! ゼニスおばあさまのいじわるッッ!! わ、わらしは・・・ぶぇぇぇーーーんっ、ア、アル、アルジアが、大好ぎだのびぃぃーーーっ!!」


 私の泣き叫ぶ声が、広くて高い天井の部屋にキンキン響き渡る。涙で景色も歪んでる。大声で泣きすぎてゲホゲホむせた。


「ちょっと・・・、えっと・・・、シャイラ? まだお話は途中で・・・」


 ゼニスおばあさまの困惑の声が聞こえるけど、私の気持ちは収まらない。


「ゲホゲホッ、ゲホッ・・ウウッ・・・ぶぇぇぇーーん、ヒック、ヒック・・ズズズッ・・アルシアァァァーーーズズズッ」


 私の癇癪を見て、さっきの優雅なお姉さんが慌てて飛んで来て、私の涙を柔らかい布で優しく拭ってくれた。


「シャイラ様、落ち着いてね。まだお話の途中なのよ。それが結論ではないから安心しなさいな」


「ヒック・・・だって、だって・・・アルッ、アルシアはお友だちなのに、ゼッ、ゼニスおばあさまが意地悪なんだもんッ!! ズズズッ・・・びぃぃーっ!! ズズズッ」


「あらあら・・・。お鼻をかみましょうね。シャイラ様。チーン。はいッ、キレイになりました! 偉いわ〜♡」


 ソファに座る私の鼻を横から屈んだ姿勢でキレイに拭ってくれた優雅なお姉さんが、シャっとゼニスおばあさまを振り返り、低い声でひとこと言った。


「・・・ゼニス様?」


「・・ハイハイ。人間の子どもに、わたくしの言い方が悪かったわ」


 優雅なお姉さんは、ゼニスおばあさまに一礼して下がった。



 私はいい加減泣き止めたいけど、ヒックヒックが止まらない。沈黙が続く。


 ゼニスおばあさまのため息交じりの、独り言のような、独り言ではないような声が、私の耳に入って来た。


「ハァ・・・大丈夫かしら? 人間が大人になってもアルシアとお友だちでいられるための次の試験は、これからすぐ始まるというのに・・・」



 *



 まさか、わたくしがアルシアに選抜され、知らぬ間にエントリーさせられていたなんて、この時は思いもよらなかったのですわ。


 そう言えば、大蛇の窮地を乗り越えた時にアルシアが言った一言が印象的でしたわ。千年以上経った今でも覚えております。



 ───うふっ、ゼニスおばあさま! 見ていて? ・・・シャイラ!! 大好きよ!!



 ゼニスおばあさまはあの時、わたくしたちのことを一部始終、全て見ていらしたのですわ・・・




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眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
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