魂の回収
『眠りにつくまでに』裏編・・みたいな?
わたくしは芽吹きの巫女シャイラ。
命の芽吹きを寿ぐ。
アルシアと二人、アレックさんの馬車に乗った、わたくしの始まりの日から。
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今ではわたくし、歴代で最も長く巫女を続けていますの。
古参の神格たちからも、一目置かれる存在なりました。
わたくしの纏う、艶めく翡翠色の美しいドレスは、ナチャからの贈り物。
子どもの姿だったわたくしに大人の背丈のドレスを贈るとは。
わたくしの成長を願ってのことだったのかしら?
数百年後、ようやく着られるようになりました。防魔法、防刃、防寒ですのに薄くしなやかな布地。ナチャの作り出す糸は、この世で一番の級品ですわね。今ではこの色は、わたくしのシンボルカラーとなりました。
わたくしは、アルシアに授けられた魔法の杖で自然界が作り出す精を身体に取り込んでは、必要な所に送り込む。
アルシアが大きな精の流れを、わたくしは小さな精の流れを────
精を身体に取り込むことで、わたくしは計らずも通常の人間の寿命を遥かに超越することになりました。
巫女になって千年余り。けれども見かけはまだ若き女性なのです。
そしてアルシアは相変わらず少女の姿のまま。
わたくしたち、姉妹のような姿になりましたけど、2人の友情には変わりはありませんわ。
わたくしの友としての役目は、子どもの純粋で単純明快な思考を持ち続けるアルシアが精の流れの統括を滞り無く行えるように、メンタルをフォローすることかしら。
眷属であるわたくしがアルシアを支え、アルシアは人によって穢された精を清めながら還流に戻し、この世の生きとし生けるもの全てを根底から支えているのです。
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わたくし、最初のシャイラの時代に、転生の秘薬を作り出すことに成功したのです。生前の記憶を保ったまま新たな生を受けられる眠りへの導入剤。
その秘薬は材料も入手は難しく、レシピも秘匿にしたため、わたくし以外には作れませんの。出来上がった秘薬は我が娘と孫娘に託しました。記憶を保った彼女たちの転生によって、人に役立つ薬草の知識が永劫廃れぬように願ったのです。
人々に有用なものは時として権力により迫害されますし、もし侵略などで文化が破壊されたら、せっかくの人に役立つ知恵と知識も途絶えてしまいますもの。
わたくしたちは転生後は、お互いに接触は一切しておりませんでした。ただ、存在していることは直感で感じられていたのですが、ふと気づけば、わたくしの娘の魂が消えていることに気がつきました。
ひとり不安に駆られているわたくしに気づいたアルシアが、転生への扉に問いかけ、わたくしの娘の痕跡を探ってくれましたの。
娘は、転生を繰り返す中で精神が疲れ、全ての記憶を洗い流すことを自ら決心したようですわ・・・
何人もの人生を生きる、ということは大変苦しいことでもあります。生まれる度に、常識も倫理観も価値観も違う生を強いられるわけですもの。
わたくしの娘は優れたシャーマンでした。
秀逸な観察力と洞察力を持ち合わせ、薬草を使った呪術を駆使する預言者は、予言したことで疑われ、批判の的にされてしまったのです。良かれと思って未来の成り行きを教えたことで、逆に人に恨まれてしまうこともあるのですわ。予言された故にそれが起こったのではないかと。
小さな魔女狩りはいつの世にもどこにでもありますものね・・・
わたくしたち親子の鎖は解かれました。いつかは訪れることですから仕方がないことです。
我が子の魂の喪失は悲しいことですが、永きに渡りわたくしのわがままに付き合ってくれた娘に感謝致します。
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これら孫娘の様子をわたくしが知れたのは、事が起きた後なのですが────
わたくしの愛おしい孫娘は、と言うと順調に転生を繰り返しておりました。彼女は、幾つもの人生を経験し、記憶と経験を蓄積させ引き継ぎながら、したたかにも一財産まで築いていたのですわ。
彼女は、臨機応変な賢さと、強くしなやかな精神を持っていたようです。あの子はわたくしに大変似ておりましたもの。
そんな秀麗な魂を保ちながら自我転生を繰り返す彼女を愛した者がいたのです。
それはナチャという魔蜘蛛でした。
転生への扉まで、意識を保ったまま行く者はそうそういませんもの。ふたりが親しくなったのも、必然だったのかしら・・・?
その時、わたくしの孫娘は『エレク』と名乗っていたようです。
ナチャは、エレクトラがわたくしの孫娘だった過去は知りません。そしてわたくしは、子ども時代のナチャとの冒険の思い出は、たとえ家族であっても一言も話してはいませんから、エレクトラもわたくしとナチャとの繋がりは全く知らなかったでしょう。
エレクとナチャは恋人同士になったようです。どういう経緯かは誰も存じませんわ。
そしてエレクはナチャと同様、生身の体ごと精神世界に入り込むことに成功させていたのです。おそらくナチャが手助けしたのでしょう。
ナチャの下にいたエレクトラに何が起きたのでしょう?
ある日彼女は、自身を終結させることを選んだのです・・・・
死と眠りの世界に口開く深淵の底へと自ら飛び落りた理由はわかりません。
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────これらは未来永劫、ナチャは知ることはないのです。
わたくしとエレクとの間柄を
わたくしがエレクとナチャの奇縁を知ることを
深淵に溶けたエレクの魂の行方を
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深淵にて、若き女性の悲壮な決意と抱きし愛情、後悔と罪悪の念、圧倒的な恐怖と諦観が入り混じった思念を放つ精の拡散が『輪廻』の清廉の雫に察知されたようです。
ゼニスおばあさまから知らされたアルシアは急遽、魂の救済に向かったのです。
深淵に落ちた魂は、無限に落下し続けながら闇に溶けゆき、やがて消滅してしまうからですわ。
人が意識を無くしたまま眠り、もしくは転生の扉をとおり抜けるのは理に適っているのです。勝手に動き回れば大変危険ですもの。
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我々天界人でさえ知り得ない、神秘に繋がる隙間はいくらでもあるのです。
エレクが飛び込んだ果も知り得ぬ奥深き深淵の底もその一つ。
それでもアルシアは、果ての無い深淵に落下しながら闇に溶けゆくエレクの魂を、できる限り回収したのです。
その時点まで、わたくしはこの件の次第を一切知ることはありませんでした。
まさか孫娘にそのようなことが起きていたなんて思いもしませんもの。わたくしの能力では関知出来ることではありませんから、様相は全て後から知らされたことなのですわ。
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大変遺憾ではありますが、孫娘が自身で覚悟を決めた結論ならば、わたくしが後からナチャを責めることは出来ません。
当事者同士でしか分からないことは多い。自我が確立しきった大人の色恋沙汰にわたくしが介入するなど。
ましては事の起こった遠縁は、わたくしが自我を残せる転生の薬を、娘と孫娘に与えたからに間違いありませんの。
わたくしが遠い昔に遺したあの秘薬が、関わる者らの運命を変えてしまったのです。
そんなわたくしが誰を責めることができましょう? ただただ己の昔の軽率さに、ひとり苛まれるのみ。
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意気消沈のわたくしを救ってくれたのはやはりアルシアでした。
孫娘の魂を為していた精と万物の精と融合させ、エレクの魂を色濃く映す可憐な妖精を誕生させたのですわ。
まるで絵に描いたような、美しい妖精のその誕生の瞬間を、わたくしは生涯忘れることはないでしょう・・・
ロッシェルの後日談をこの前に挟んでから最終話にしようかな・・と φ(・ω・ )
まだ書いてないけど。




