【幕間】不思議な女の子 3
あれから2週間後、シャイラの実のお母様とお祖父様が相次いで亡くなったというお知らせがエラさんという婦人から孤児院に届いたらしい。
「伯爵家新当主は、今後一切ここには関わらないので、そちらも同様に願う」という言付けとともに、預かって来たという大金を孤児院に寄付したみたい。
イタズラ好きのレオンが、こっそり院長室を覗いてたのよ。
その使いのおばさんが院長室から出て来る時、通りかかった振りして「こんにちは」ってご挨拶したら、「ヒッ!!」って小さく叫んで、レオンを避けるようにそそくさと帰って行ったんだって。
ローズと私にだけ、秘密で教えてくれた。
レオンが言ってたことは、本当のことだと思う。
だって、シャイラは1ヶ月間、喪に服すように大シスターに言われてたし。
私たち、身の上についてはお互い深くは詮索しないけれど、身元が分かっているのに孤児院に預けられてるシャイラって、複雑な身の上なんだろうな。
私が前にシャイラを庇って立ちはだかったお金持ち風の二人って、その伯爵家の人だよね。そんなすごいおうちなのに、シャイラ自身が帰りたがってなかったから、きっと怖い人たちだったのかもね・・・
ここではシャイラは、私の妹みたいなもんだよ。あの子にはうんと優しくしてあげなきゃね。
*
私にも、来るべき時が来た。遂に、私の未来が切り開かれる時が来たの。
────私は孤児院を出る。
養女に行くことが決まった!
なんだか夢みたい。私を選んでくれるだなんて・・・
その夫婦の幼くして亡くなった一人娘が、私に面差しが似てるんだって。しかも生きていたら私と同じ歳だそうで、運命を感じたそうだ。優しい目をした夫婦。
最初はお互いに緊張していたけど、今もそうだけど、私の居場所が出来ることにはときめいてる。
私のために用意してくれたお部屋も見せて貰ったの。夢みたい。可愛いぬいぐるみも幾つも飾ってあるし、ふかふかなベッドとふかふかな枕に、お花刺繍の縁取りカバーまで。私だけのお部屋なんて、うっとりしちゃう。
────私の気がかりは、残していかなきゃなんないシャイラのことだ。
「私は大丈夫だよ、ロッシェル。私の使命は、ロッシェルを幸せにすることだったから、すごく嬉しいよ。不安材料は消したし、孤児院ももう大丈夫。後は任務解任となって元に戻るだけ・・・私も、もうすぐここを去るのは寂しいよ」
中には幸運な私に嫉妬して意地悪を言う子もいるけれど、シャイラは本当にいい子だよ。私の幸せをそんなに願ってくれてたなんて!
けど『不安材料は消したし、孤児院は大丈夫?』って?
そっか! シャイラの本当の家の伯爵家が孤児院に大金を寄付したんだっけ? シャイラはもちろん知ってたんだ。
でもって『任務解任で元に戻るだけ』って?
あ・・・お姉さん役の私がいなくなることの、気を使った言い回しだね。シャイラはよく大人ぶった言葉を使うから、何言ってんのかわかんないことはよくある。私がいなくなったらさみしいよね? シャイラには私の大事なクマのぬいぐるみを残していこうと思う。私はこのクマちゃんに、毎夜慰められてたの。
*
────遂に別れの日が来た。
私のクマちゃんを抱っこしながら手を振って送り出してくれたシャイラと、たくさんのお友だち。お世話になった厳しくも優しいシスターたち。
さようなら、シャイラ・・・
一番の仲良しだった、長い黒髪を靡かせた女の子が、次第に小さくなって私の視界から消えた。
あの子の最後の姿────
*
────あれからおよそ20年。
リサが生まれてからというもの、思い出すのよ。遠い昔のあの日々こと。
どこか不思議だった、あの女の子のこと。
「ママ! ただいまー! ねえ、聞いて! 今日の乗馬のレッスンでね、一人で速歩で一周出来たの! ねっ、パパ?」
「そうだね、リサ。・・・ただいま、ロッシェル。リサは乗馬のセンスがいい。ずいぶん上達したよ。教え甲斐がある」
「あなた、リサ、おかえりなさい。リサ、お話はみんなで一緒にお茶を頂きながら聞くわ。チェリーパイを焼いておいたの。手を洗ってらっしゃい。あなたはお祖父様とお祖母様が奥庭にいるから声をかけて来て」
「わあい、やったぁー! ヾ(*´∀`*)ノ チェリーパイは私のお気に入りね!! ママ、ありがとう、早くたべたぁい!」
奥に駆けて行く娘の後ろ姿。
跳ねる艷やかな黒髪。
私の愛娘は、夫譲りの黒髪
あの子と同じね。
────ねぇ、シャイラ。私たちも、昔はあれくらいの子どもだったわね・・・
あなたは今はどこで何をしているの? 私のことは覚えているはずよ。
私は今、とても幸せにしているわ。子ども時代に失っていたことを娘を通して取り戻してる。
悩みはいつも尽きないけれど、毎日がとても温かいわ。幼い時から夢見てた、本当の家族がいるの。
私が孤児院から去って半年後、風の噂で聞いた。
あれから間もなくして、シャイラが神隠しになったと────
大事にしていたクマのぬいぐるみと一緒に突然消えてしまったの。
亡くなってしまったとは到底思えないし、思いたくなかった。
あの町では「シャイラは神が遣わした聖少女で、貧しい孤児院を救った後、天に戻った」という伝説になっている。
私はね、シャイラは本当に天の使いで、今は別の姿となってどこかにいると思うのよ。
思い返すと、ふと節々に思い当たるもの。当時子どもの私は気づかなかったけれど、あの子はずいぶんと不思議な女の子だったわ。
一番仲良しで側にいたのは私なの。
────決定的なことがあった。
私にリサが産まれて間もなく、シャイラにあげたはずのクマちゃんが私の家に戻って来たのよ。
おめでとうの美しいメッセージカードを添えて、誰かが送ってくれたの。
これが出来るのはシャイラしかいないわ。そうでしょう・・・?




