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芽吹きの巫女  作者: メイズ
転生・転生・転生
50/59

目覚め

 窓からの月明かりと、カンテラ一つだけの薄暗い質素な大部屋。


 いつもの教室と、全く違う場所に思える。



 床には、ぐったりしたロッシェルと蒼白のシスターエルザ。


 口を抑えて震える侍女エラと、顔を背け うんざり顔のカルミア。


 対峙するベノミー伯爵と私。


 両者の間に立ち、オロオロの大シスター。



 私の体はカーッと内から熱が込み上げてる。


 呼応するように、私の肌がうっすら光を放ち始めた。



 ああ、人間ってなんて愚かな生き物なのかしら? どれだけ生きてもこの考えは変わらない。


 人って大変愚かで、愛おしくもあるの。



 幾つもの人生を生きて来た────


 生まれる場所や時代によって、それぞれの文化と社会秩序が形成されていた。


 常識も、倫理観も時の移ろいの中、一定ではないし、善と悪も、正道と邪道も入れ替わる。正義の意味すらも。



 ベノミー伯爵にとっては貴族以外は人ではないの。支配者は独自の倫理観を構築し、下々に与え、支配に都合良く変遷させながら権力を保持している。


 貴族は支配し、その他下々は管理する動物という認識。自分たちの自由にしていい所有物。けれどもその感覚は、私たちが魚を狩るのと同じこと。


 魚から見た人間はどう見えて? 暴虐な略奪者でしかないわ。


 貴族の平民支配搾取と、人間の海洋資源支配。切り取りの枠が違うだけでまったく同じことでしょう? 優位に生まれた者が、弱者を一方的に搾取することで成り立つの。


 人間と他の生き物は別だとでも? いいえ、俯瞰する神から見たら、生き物の命に重さの違いはない。



 人間という動物は、他の命を奪わなければ生きていけない仕組みになっている。


 だから奪う。生きるために。いえ、人は強欲だから必要以上に。



 神はベノミー伯爵の暴虐もお許しになる。奪って生きるのは人間の摂理だもの。


 罪を裁くのは神ではない。裁くのは人であり、それは主にマジョリティの感情と価値観。



 私だって、誰かを罰する力は持ち合わせていない。ロッシェルを壊した、この独自の価値観を持つ憎きベノミー伯爵にさえ。



 弱者からしたら大変理不尽な三角のストラクチャー。


 その理不尽を消す力があるのは愛の力よ。



 私は知ってるわ。


 いつの世も変わらず存在するものがある。それは善意と愛。


 人が向ける愛の方向は、ずいぶんと利己主義ではあるけれど、人が人として存在し続けられるのは、愛があるからだわ。



 *



 私の小さなお友だち、ロッシェル。


 あなたは愛の花束を抱えて生まれて来たようね。無垢な少女の持つ他者への優しさがこんな結果に?



 神様はあの男に罰は与えない。


 けれど私はこんな結末は到底認めない。




 神よ! 私はこの憎き男に罰を与えることを求めない。その代わりに私がロッシェルから受け取りし愛の代価を支払う術を今こそ下さいませ。



 床上で、ピクリとも動かないロッシェルの手を握りしめ、私は祈る。



 ロッシェルと私を取り囲んでヒソヒソ話す大人たちの声が、静寂に響く。



「大シスター・・・・ロッシェルが・・・ああ・・・」


「医者を呼んでも、もう・・・ウウッ・・・」


「見てお父様! 私の娘は体から光を発しているわ。噂は本当だったのね。素晴らしいわ!」


「そのようだな、カルミア。ここで奇跡を見られるとはな。我が城に迎える決心をしたのは間違いでは無かったようだ。フフッ・・・」



 今まで何人もの人生を歩んで来た。そして今回、私は再びシャイラとして生きる運命を掴んだ。



 ────私は芽吹きの巫女シャイラ。



 この世の生きとし生けるものの生命とその誕生を寿ぐ『芽吹き』の巫女。

 この星の精の流れを司る女神アルシアの眷族。



 冷えゆくロッシェルの手。


 いいえ、私は必ずこの子を救ってみせる!!




 ────さあ、私に今こそ芽吹きの力を下賜たまわん!!



 体の内から沸き出る理不尽への憎悪と、遣る瀬無いほどの、命への憐憫と慈愛。


 届け! この想いアルシアに!! 



 瞬間。



 床がザワッと動いた。


 一面が艷やかな若葉色に染まった。



 芽吹きだ!



「えっ? えっ? お、お父様! こっ、これはッ?!」


「おおッ・・・何が起きているんだ?」



 ニョキニョキ伸びる植物に、大人たちが足をジタバタさせながら慌てふためいてる。



「わわわ、やめろッ なっ、なんの真似だ!! 痛っ、イタタタッ、やめてくれッッ!!」


 いばらの(ツル)が、ベノミー伯爵を巻き上げながらぐんぐん成長して天上まで吊り上げた。


「痛いッ、痛いッ、やめなさい! 私はベノミー家当主だぞッ! ギャーッ」


 その下では、足下周辺から伸び出したイバラで出来上がった、棘付きの大きな鳥かごに入れられてるカルミアお嬢様。


「イヤッ! 誰か出してちょうだいッッ!! 助けてぇー!!」


「アアッ、カルミアお嬢様! イタタッ、鋭い棘が・・・申し訳ありません! 蔓も太くて頑丈でびくともしませんわ。ああ、どうしましょう・・・」


 オロオロするばかりの侍女エラ。


 私が意図したわけじゃない。これは私の本当の気持ちが反映されたのかしら?



 この奇跡に驚愕し、抱き合うシスター2人。



 芽吹きは急激に伸びて、辺りは密林と化した。まるで宮殿の奥庭のようね。



 

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眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
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