奇跡の少女
体が発光してるだなんて、まるで祠で会った清廉の雫の化身たちみたいだ。
これは私が正式な巫女に近づいた印? ここはありがたく利用させて頂くわ。
「シスターエルザ。前へ」
うら若きシスターは、恐る恐ると言った足取りで私の正面に進み出た。
「・・・シャイラ? あなた・・・?」
その表情は、困惑と疑念と恐れ。
けれどもあなたはもう、私に崇拝の念を持ち始めているでしょう?
奇跡が起こっているんだもの。
「私はシャイラであってシャイラではない。この世の命の誕生を寿ぐ芽吹きの巫女である」
「あなた様は、シャイラの体に降り立った芽吹きの巫女様・・・?」
私はちいさくゆっくり、ウムと頷く。
私は貴族のお坊ちゃまに生まれたこともあるからね、高飛車な態度も得意なのよ。配下に命令するのもねw
「シスターエルザに聞く。そなたはここにいる人たちを助けるつもりはあるのか?」
「もっ、もちろんでございますわ! けれど・・・けれどもわたくし朝が来たとて、ここを放って医者や薬を探しに行くわけにも行きません。食中毒を知らせに来た町の人にもそそくさと逃げられ、わたくしたった一人でなんとかしろと言われても、ただ苦しむ子どもたちをオロオロと見守るくらいしか出来ませんわ」
「なれば、我が導く! エルザ、そなたはこれから私の命を遂行せよ!」
「はっ、はい! わたくしは何を?」
「まずは、病人と、そうでない者を隔てよ。そして、発症を免れた子ども、レオンとアリーはエルザの指示に従い、我らに加勢せよ」
シスターエルザだけでは無理よ。今度は彼女が倒れてしまう。
指名されたレオンとアリーが、ダイニングルームの椅子をガタガタと蹴散らしながら、シスターエルザの両脇にすっ飛んで来た。
「シャ・・・じゃない、芽吹きの巫女様! 俺たち仲間を助けるよ! なっ、アリー」
「もちろんよ! あたしたち、喜んでシスターエルザをお手伝いします!」
「・・・あなたたち!」
シスターエルザが左右に並んだ子たちを見て涙ぐんでいる。
暴れん坊で威張りん坊で、普段はシスターに手を焼かせてるレオンだけど、芯はいい子なのよね。アリーはいつもは気弱なお姉さんだけど、いざとなったら強いのね! 頼もしいわ。
「シスターエルザと勇気ある子どもたちに神の御加護あれ。ではまず、レオンとアリーは、お湯を出来るだけ沸かしなさい」
頷きあった2人は、厨房へすっ飛んで行った。
ふと、私の右手を誰かがキュッと掴んだ。
「待ってよぉ! 芽吹きの巫女様ぁ。おっきい組ばっかいつもズルいよ。私もなんかお手伝いしたいよぉ〜」
不満を全開にさせた赤い頬で、私の右手を両手で掴みブラブラさせるロッシェル。
ロッシェルったら! 私、ニヤけそうになる顔を抑えるのに苦心してる。
シスターエルザが即座にロッシェルを後ろから抱きしめて、私から引き剥がした。
「これッ! ロッシェル!! あなたは自分のお部屋でもう寝なさい」
「ええーっ! そんなのヤダァー!!」
「いいこと? わたくしもロッシェルには期待してるけれど、あなたには明日の朝のお手伝いをお願いしたいの。だから今日はもう寝てちょうだい。レオンとアリーと交代よ。ね?」
シスターエルザは心のゆとりを取り戻したようね。子どもの扱いに長けた、いつものシスターエルザだわ。
「・・・はあい。じゃ、シスターエルザ、みんなを助けてあげてね。芽吹きの巫女様もよろしくお願いします。で、えっと・・・シャイラは大丈夫だよね? 戻って来るよね?」
もしかして、ロッシェルは私のこと心配して駄々をこねてたの・・・・?
ありがとうね、ロッシェル。
「もちろんだ。明日に備え、今宵はよき眠りを・・・」
私はロッシェルにそっとハグした。おやすみなさい。
そして、大丈夫だよって心の中で呟いた。
────さて、私は続きを。
「シスターエルザは薬の用意を。まずは私が言うものを集め───── 」
*
それからのシスターエルザとレオンとアリーは、素晴らしい働きを見せた。
お陰で病人たちをベッドで休ませることが出来たわ。のち、ダイニングルームもお手洗いも消毒完了。
ふぅ〜、一段落ね。
病人には薬も飲ませたし、後はゆっくり休ませて回復を待つだけ。薬草の煎じ方と服用の用法もシスターエルザに教えたし、これで神もどきの私は退場で良さそう。
ああ、ホッとしたら・・急激に眠くなって来た・・・
お子様の私の体は本来、夜更かしは苦手・・なん・・スー、スー、スー・・・フガッ・・・スー・・
「アッ、芽吹きの巫女様が! 先ほどの座った人形状態に戻ってるわ!」
「ねえ、シスターエルザ、 もう光ってないからさ、たぶんシャイラに戻ったんじゃね? アリーはどう思う?」
「私もレオンの言う通りだと思います、シスターエルザ。この寝顔はいつものシャイラだもの」
「そうね・・・救済の巫女様は去ったのね・・・。レオン、アリー、2人のお陰で本当に助かったわ。ありがとう。今夜はもう寝なさい。後はわたくしが」
私の頬をそっと撫でる冷たい手。
「ウフフ、かわいい寝顔。こうして見ると、先ほどの奇跡は夢みたい・・・。さあ、シャイラもベッドで休みましょうね・・・」
シスターエルザが私を抱いて、階段を登って行くとこまでは、うっすら覚えてる。
翌朝早朝────
隣町まで医者を呼びに行った町のおじさんと、シスターエルザのツンツンした声で目が覚めた。
「おーい! 大丈夫かぁ? 遅くなったが医者を連れて来やしたぜー」
「んまっ! 何を今さら! わたくしたちは神の御加護を得て、どうにかこうにか救済されましたところですのよッッ!! 芽吹きの巫女様が降臨されなかったら、子どもたちも大シスターも未だに苦しんで、どうなっていたことかですわ!」
「ハァ? ねえさん、芽吹きがなんちゃらって、なんだそれ?」
「ワナワナッ・・・ 『なんだそれ?』とは、あなたはなんと恐れ多いことを!」
「落ち着いてくれよ、ねえさん。病人は大丈夫なのかい? とにかくせっかく連れて来たんだ。医者に見せようぜ」
「・・・わかりましたわ。但しもう皆、容態はほぼ回復しておりますから、診療代は払えませんわよ?」
「なんだって?! シスター、あなたは全員もう治ったって言うのですか?」
「ええ、ドクター」
「それは信じがたい。ちょっと見せて貰うよ」
「ええ、ではこちらへドクター。みな本当にほとんど回復しておりますの。その理由は、実は昨夜この院で信じられない奇跡が起きましたからですのよ。それは──────」
*
この件で私が、町にまで聖少女として名を轟かせてしまうとは・・・
そして奇跡の物語は、町から街へ、どんどん広範囲に広まって────




