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芽吹きの巫女  作者: メイズ
転生・転生・転生
47/59

決断の少女

 お祭りで食中毒!


 苦しむ人たちが目の前に───


 お祭りに行った10人の内、すごく具合が悪い人が6人。軽い人が2人いるけど、これから悪化する可能性もあるよ? 今は大丈夫な子もこれから発症するかもだし、それにこれは伝染する要素がある。特に、病人の間でてんてこ舞いしてるシスターエルザは危険だわ。


 私は、自分のベッドの脇に、サーカムスタンシャルエビデンスという食あたりに良く効く薬草を干している。量は十分ある。これを煎じて飲ませればいい。


 けれど、5歳の私がこの場を指揮出来るかと言うと────


 私の薬草採取は、おままごとだとシスターエルザは思っている。たった5歳の私がお遊びで集めて干したと思われてる草を、病人に煎じて飲ませろって言ったって、シスターエルザがみんなに飲ませるわけもない。今まさに苦しんでる大シスターだって、反対するわよね。


 *


 繋いでいたロッシェルの手が緩んだ。


 悪心と腹下しに苦しむ大シスターと子どもたちの様子を見て、ロッシェルが恐ろしくなったみたい。


「ふぇっ・・ふぇっ・・・わーん、わーん、わーん! わーん、わーん、わーん!」


 大声で泣き出した。


「うるさいッ! あなたたちはあっちに行ってなさいッ!」


 初めて聞くシスターエルザのヒステリックな怒声に、ロッシェルは余計に大泣きし始めた。


 ダイニングルームは修羅場ね・・・



 トイレから聞こえてくる嚥下の嗚咽。


 床にうずくまり、バケツを抱えて苦しむ子どもたち。


 部屋に充満する鼻を突く臭い。

 

 耳にビリビリ突き刺さる子どもたちの泣き声。


 ヒステリックなシスターエルザの叱責。



 普段とはまったく違う騒然とした状況の中で。



 それらがごちゃまぜに私の耳にわんわんこだまして、こだまして、こだまして、非日常は催眠術のように私をふわふわトランス状態に(いざな)う────



 ぐわーん、ぐわーん、ぐわーん ぐわーん、ぐわーん、ぐわーん・・・・



 やがて私の頭に浮かんで来たこの景色は・・・これはまさか・・・



 ────ミュリナスの目線! 



 ミュリナスの箱がまた1つ開く!!



 毒蛙を飲み込み、苦しむ大蛇ミュリナス


 たった一晩で回復していたその秘密が今、解き放たれる!



 ミュリナスが、浄化のために食べたものは────



 ミュリナスの記憶は今、私と同化している。


 私はやけぼっくいを探してる。炭を求めてる。トレイルさんがトンネルの入り口の脇に作ってある炭置き場。そこで炭を見つけて1本飲み込んだ。



 ───なるほど! 炭は水を浄化する。身体にも効果があるのだわ。お腹に取り込んでしまった毒素を炭に吸着させるってわけね? それから薬草を使うことで薬用成分の効果が高まるわ・・・


 次に求めるのは、食あたりによく効く薬草サーカムスタンシャルエビデンス。どこにでも生えるありふれた雑草ながら、実は強い効能を持っている薬草なの。ミュリナスはもちろん知ってるわよね。


 基本は、吐くものは吐き出し、下るものは下して、身体から毒素を排出。



 急激に回復に向かったミュリナスが最後に食べたのは、毒草キャッチヘル?! ウソでしょう?


 狩りにも使われ、死へのパスポートである危険な毒草。


 その草は触るのさえ危険性なのに。全てが毒。その花の花粉や蜜さえも。



 けれど分量を厳密に使えば、身体を温め、滋養強壮効果も見込める薬用植物でもあるのだわ!


 流石に今回キャッチヘルを使うのは憚られるけど、これはよい研究対象となるわね。



 それにしても、孤児院の危機がきっかけでミュリナスの箱が開くなんて・・・



 *



 ────あ・・・私・・・



 ぼやけていた焦点が回復しようとしてる・・・閉ざされてた耳が次第に通って来てる・・・


 夢現から戻り、気づけば私は壁にもたれ、手足をダランっと放りなげて座ってる。飾られたお人形みたいに。



「わあああーん! シャイラが死んじゃったよお!!」


 大きな声・・ロッシェルだ・・・


 私の肩をガシガシ揺り動かすから、首がガクガクする。


 ・・・ごめん、まだ動けないわ。



「イヤぁぁ! もう、こんな時にシャイラまでッ!! どうしてッ!? どうしたの?! ロッシェル、何があったのッ?!」


 半狂乱のシスターエルザの声が耳に痛い。聞こえてるよ・・・もう少しだけ待って・・・


「うわぁーん・・・わかんないよ! シスターエルザ・・・ふぇっ・・シャイラがふうっと虚ろな目になって、座り込んで動かなくなったんだもん。ふぇーん、ふぇーん、ズズズ・・・」


 ごめんね、ロッシェル。私は大丈夫なんだよ。



「あああ、次から次から! 私は気が狂いそうです! 神は何をお考えなのでしょう!!」



 ここはカオスの会場。まだ年若い女性のシスターエルザが助けもなく、たった一人でこの場を仕切ることなど無理だわ。


 

 ────なら、どうしたら?



 私がシスターの上に立てばいいのよ。彼女らが崇めるものとなって。


 私は神の使いになればいい。あながちウソってわけでもないし。



 ────さあ、決まればもたもたしている場合じゃない! 私はもう大丈夫。



 私はすくっと立ち上がった。


「あ、シャイラが生き返った・・・」


 私の横で座り込んで泣いていたロッシェルが、私の横顔を下から見上げてるのが目の端で見えた。


「グッズン・・・シャイラがなんともなくてよかったぁ・・・」


 ロッシェルは泣き笑い顔で、涙で腫れた目をゴシゴシした。



 ありがとう、ロッシェル。でも、今は無視。



 両腕を真横に広げてから部屋の中をぐるりと見回し、左手をスッと心臓の上に置く。


「ん?・・・シャイラ? 何してんの?」


 ロッシェル。私ね、ずいぶん昔だけど兵士だったこともあるのよ? その時の淡い初恋の相手だったナースにあなたは似ているかもね。戦争というつらい境遇でも、明るい笑顔と優しさを持つ人だった。ちょっと泣き虫なとこも同じ。



「シャイラ・・・? あなたどうしたの?」


 不審な私の仕草に眉根を寄せるシスターエルザ。


 シスターエルザ。これは神の下での修行でもあるわ。さあ、皆を助けるために今から私に従うのよ!



「みな、落ち着つきなさい! 神の敬虔な使徒よ」


 息をお腹にすうっと吸い込んで、辺りに通る澄んだ声を出した。


「私は、神格アルシアの眷族巫女である。不運に見舞われ、哀れなる子羊たちを見るに見かね降臨した。この修羅場に慈悲を与えんがために・・・」



 どうでしょう? 清らか且つ、5歳とは思えない威厳ある声が出たと思うの。


 この方たち信じてくれるかしら? 私に神の奇跡が起きたって。


 

 今までの喧騒が静まり返った。一斉に私を見てる。驚きの顔をして。



 「わわ・・・シャイラに天使様が降りた・・・ホンモノだ・・・」


 ロッシェルの呟きが足元から聞こえた。


 どうしてロッシェルはホンモノって思ったの?



 ────んっ? 私の手が光ってるッ・・・!?



 わわっ! 私の全身が、淡い光にポワっと包まれてる!


西洋医学で陰の存在にされてしまっていますが、日本にはヨモギ、ドクダミなど身近に素晴らしい薬草がたくさんあります。


今回のお話の『サーカムスタンシャルエビデンス』のモチーフとなったのは『ゲンノショウコ』という日本発の民間伝承の薬草であり雑草です。『ゲンノショウコ』は効果が高く『現の証拠』という名前がついているそうです。煎じたものは優れた健胃、整腸作用があり、温かいものは下痢食あたりに、短く煎じて冷やして飲めば便秘に効くという真逆の効用は不思議ですね・・・


口内炎、喉痛に、外用には霜焼け、腫れ物に、冷え性や婦人病には入浴料、高血圧予防にもよいそうです。


 *


『キャッチヘル』のモチーフにしたのはトリカブトです。毒草で有名ですが、キルギスでは新型コロナの治療に用いられたそうです。


薬草、ハーブやスパイスなどの薬効を調べると興味深いですね。


大学の薬用植物園のデータベースが幾つもあります。自分は熊本大学薬学部薬用植物園のデータベースが見やすくて気に入ってます。


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お読み頂きありがとうございます
眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
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