窮地のシスター
「おはようございます。大シスター」
「おはよう、シャイラ・・・」
院長である大シスターワイズと廊下ですれ違いざまのご挨拶。その笑顔がどこかぎこちない笑顔。どうかしたのかしら?
数歩進んでから、呼び止められた。
「・・・あっ、待って! シャイラ! ちょっとわたくしのお部屋に来てちょうだい」
何かしら? ちょっと嫌な予感。
「はーい! お手洗いに行ったらすぐに戻ります」
考える時間稼ぎよ。
*
お手洗いで手を洗いながら考える。いったい私になんの用? まさか実家から何か? 急に私に養子話を勧めるとか? ううん、そんな兆候はまったく無いかったわ。院長室に個人的に呼ばれる覚えはない。
私は、少し警戒しながら院長室の扉をノックする。
シスターワイズが扉を開けて私を招き入れ、パタンとすぐに閉めた。
そのまましゃがんで私に目線を合わせた。
「シャイラ、わたくしに教えてくださらない? あなた、どうして薬草を知っているの? 神様に薬草を教えていただいたって本当なの? 夢で見たって」
私に向けるこの顔。
分かったわ・・・
この人、子どもの噂を気にするなんて。
敬虔な神の使徒でいるこのシスターは、神と通じたかも知れない私を、羨み、嫉妬しているの。
面倒なことは、かわした方が得策ね。
「・・・えっとね、夢の中で神様が私に教えてくれたけど、神様に教えてあげたのは、先月もらわれていったサミュお兄ちゃんだよ。そういう夢を見たの」
今頃サミュは貰われた家で奴隷にされているかもね。15になったばかりの男の子を指名するなんて、無料の労働力が欲しいだけだって私にはわかるよ。だからって私にはどうにも出来ない。
サミュエルは、私の10歳ほど上の物静かな少年だった。14の彼が初歩の薬草の知識を得ていたとしてもおかしくは無いわ。去年の秋にここに入って、ここにいたのは半年もない。無口で誰ともほぼお話してなかったし、彼のことは探りようはないはず。
「あら? 意外だわ。シャイラはサミュエルと仲良しだったのかしら?」
「ううん、一回だけお話したの。その時、葉っぱのこと教えてくれたような気がするけど、忘れちゃったな。私もよくわかんない。もういい?」
ニコリと微笑み首を傾げた。
幼少期の子どもの唯一のアドバンテージは、曖昧が許されるところかしら?
「・・・ふふ、そうよね。シャイラはまだ小さいのだもの。夢も現実もごっちゃよね。もう行ってもいいわよ」
ホッとしたような大シスターの声。
これからは行動と言葉に気をつけよう・・・・
───けれども、そうもいかない事態が訪れたのよ。
その日は年かさの子どもたちの、待ちに待ったお楽しみの日だった。
町の慈善団体の計らいで、初夏の夜のお祭りに、孤児院の子が招待されたの。せっかくだからと、孤児院では8歳以上の子たちだけ、大シスターと招待を受けることにしたのよ。
行ける子は、花火も近くで見られるって盛り上がってワクワクしてるから、お残り組の10人はしょんぼりだったのよ。
お兄さんお姉さんたちが大シスターと出かけて行って、残りの私達はシスターエルザといつもと同じ様に夕食を食べ、お片付けして、順番こにお風呂に入って出たところだった。
大シスターに引き連れられて、9人の子どもたちが帰って来たの。
「おかえりなさい! ねえねえ、どうだった? 花火はキレイだった?」
「お菓子は貰えたの? どんなところだったの?」
私たちは取り巻いて騒いでるけど、帰って来た子たちはあまり元気がないの。
「ただいま。私、なんか疲れちゃったみたい・・知らない人がたくさんいたせいかな」
ロザリーは弱々しい笑顔を私たちに向けた。
「ったく・・・チビども、うっせーぞ、あっち行ってろよ」
いつも陽気なミュシャなのに、機嫌悪い。
「僕、トイレ我慢してたんだ。ごめんっ、ちょっとどいてッ!」
バタバタ廊下を駆けて行くロン。よっぽど我慢してたのね。
大シスターもどことなくか顔色が悪く見えるけど、引率して疲れただけかしら?
「こらこら、小さい組はもう寝る時間よ! 自分のお部屋に戻りなさーい」
シスターエルザが私たちを引き戻した。
ベッドに入っても、ロッシェルとヒソヒソおしゃべりしていた。
「ねえ、なんだか廊下が騒がしいね。お祭りでまだ浮かれてるのかな。ズルいよね、ちょと私たちよりおっきいからってさ」
「ロッシェルはあとちょっとで8歳だったのにね。運命の別れ道だったね」
「はぁぁぁ・・・私も行きたかったぁ。あいつら、なに騒いでるんだろ? 覗いてこようっと! シャイラ、カモン!」
「イエッサー!」
*
ロッシェルと二人、忍び足で階段を下りて、ダイニングルームの中を覗いたの。
「オエッ・・・シスター、ボクすごく気持ち悪いです・・・」
「実は私もさっきから胸がムカムカしてる」
「ウウッ、お腹が痛い・・・と、トイレ!」
「ぐっ・・・シスターエルザ、わたくしに・・・お水を少し・・・下さる?」
大シスターが、壁にすがりながらずるずると床に崩れてうずくまった!
「だ、大シスター!! お気を確かに!!」
シスターエルザがどうしていいか分からずオロオロしてるわ!
玄関から大声がした。
「おーい! 祭りボランティアのグラスゴーだが。祭りの飲物で集団食中毒のようだ。こちらは大丈夫かー?」
部屋を抜け出し扉の陰から覗いてた私たちを無視し、シスターエルザが飛び出して行った。
もしかして、テンパってロッシェルと私のことも見えてなかったのかも。
「ぜ、全然大丈夫じゃありませんわッ!」
「やっぱりそうか・・・」
「食中毒ですってッ!?」
「今、医者をたたき起こしてるが、町には元から医者が1人しかいないし、この分じゃ薬も足りないのは明白だ。オレにだってどうにも仕様がない。申しないがこちらはこちらでなんとかしてくれ。町の方も大変なんだ。俺は隣町まで医者を探しに行かなきゃいけないんで失敬!」
「ちょ、ちょっとッ! あなた、待ってくださいなッ!」
((((;゜Д゜))) あの人、馬に乗ってさっさか行っちゃった!
残された、茫然自失のシスターエルザ・・・・
終わらせたいのですが、少し伸びてしまいました。あと数話で終わりたい。




