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芽吹きの巫女  作者: メイズ
転生・転生・転生
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転生回想記

 

 次の転生では隣国の新興貴族の息子となりました。シャイラがいた場所とは、まったく異なる文化と倫理観を持つ世界があることに驚きましたわ。


 わたくし、シャイラの時代は上を見上げていましたけど、今度は見下ろす立ち場となりました。


 貴族社会は、きらびやかな衣装に身を包み、華やかな舞踏会で優雅に社交し、自国の文化の発展に寄与し、農業や商工業を振興させ、外敵を退け、領土を守り統治する領民の保護者・・・という美しい想像をしていたのですが、その立ち場になってみると、思いのほか世知辛い世界でしたのよ。


 貴族は働かずにお金を得なければなりませんの。家柄と人脈を駆使して。その方法は代々受け継がれているのですが、やがて時代の流によってその方法が立ち行かなくなるまでに、次の搾取の方法を編み出さなくてはなりませんの。


 いわゆる「時代の流れ」というものも貴族が作るわけですが、流行や風潮、未来の筋書きは貴族中の貴族の当主らが決めるもので、わたくしの生まれたような、まだ数百年しか歴史のない家柄は、そのご意向に世の中を沿わさせなければなりませんから、そのための術策も大変なのです。当主のおじいさまは、事がうまく進まない時はカリカリなさっておいででしたわ。


 わたくしたち新興貴族は、上級貴族らの意向に沿うためには、領民からもっともっと搾取する方法を考え出さなければなりませんもの。


 ということで、わたくしが10歳にもなろう頃、遂に大きな川で隔てられた隣国と戦争することになりましたの。


 申し訳無いのですが、敵国民と自国民の命と引き換えに、貴族らは儲かるのです。


 その仕組みは複雑そうに思えますが、実際は単純なものですのよ? もちろん裏取り決めがありますから、そこに向かって国民を指揮すればいいのですわ。


 貴族が嫌うのは、世の中が平穏で波風がないことですの。下々の意向とは関係なく、いつも事は起こっていなければならない。なければ作り出さねばならない。それが貴族の役目なのです。


 自国民を犠牲にし、他民族を殺し犯し奴隷にし、資産は没収し、土地と資源を奪えばいいのです。


 わたくしは貴族の一員として、その理念を忘れてはならないのです。


 けれども待ってくださいな。嫌ですわ。その敵国とした隣国には、わたくしシャイラの娘と孫がいますのに。今は少年のわたくしですけど。


 たった10歳の少年があがいても無駄でしたわ。


 わたくしが大人相手に論争をふっかけて手に負えなくなったため、戦争中にもかかわらず、遠い外国に遊学に出されてしまいました。それはそれでとても有意義でしたけれど、わたくし、シャイラ時代の倫理観と貴族少年としての倫理観の違いに悶えて苦しみました。


 留学先の周囲からは、頭脳は明晰だが、癇癪持ちで我儘で鼻持ちならない金持ちの息子、という評価をいただきました。


 戦争は2年ほどで終わったようです。この戦争で国境線が変わりました。


 遊学から城に戻った少年のわたくしは、12歳にして大人顔負けの論客です。第二夫人の子どもながら一部家臣や領民からは熱狂的な支持を得ました。


 次期当主争いは水面下で激しさを増していました。3つ上の正室の従順息子には、高潔を装う狡猾な後見人がついていましたの。彼はいつもわたくしに慇懃無礼な態度をとり、冷たい目線を向けてきました。



 この男、ずっとわたくしの命をつけ狙ってチャンスを窺っていたのですわ。


 わたくし、15になる直前で暗殺されましたの。わたくしに有力貴族の娘との婚約の話が出て間もなくのことでした。


 秋恒例の、貴族交流の狩りの遊びの日のことでした。


 わたくしが乗った馬に犬がけしかけられ、驚いて暴れ、急に駆け出した馬から振り落とされたのです。


 その時はわたくしはまだ生きていたのですが、助ける振りをして真っ先に駆け寄った男に、身動き出来ないまま密やかな手口で息の根を止められたのです。


 わたくし、あんなに悔しい思いをしたのは初めてでしたわ! 今でもトラウマですの。


 一見、美しく華やかな上流社会の裏側は、それぞれの欲望渦巻き、魑魅魍魎が富に吸い寄せられる際どい世界でしたわ・・・


 *


 その後は一転、紛争地帯の貧しい家の息子に転生いたしましたの。村が襲撃され、13で拐われたわたくしは、下っ端兵士となり、その後あっけなく戦死。17歳でした。弱者として生まれしわたくしは、いくら明晰を持とうと、暴力と服従のみの世界では身動きさえ出来きませんでしたわ・・・


 こんな抑圧された場所があるなんて。


 身体に受けた痛みと恐怖は空白の記憶ですの。

 わたくしの心が全拒否しておりますわ・・・


 *


 その次は街の金貸しの家の娘になりました。前世とは一転、裕福な暮らしぶりでしたけど、わたくしが17の時、父親が金銭の恨みから殺されてから家が傾きましたの。


 残された家族の嘆きと狼狽(うろた)えようは、逆にわたくしを強くしました。


 若年で命を失った不幸な少年兵士からの生まれ変わりのわたくしが、これきしの不幸で悲嘆に暮れているわけにはいきませんでしたのよ。わたくしにはアイデアがあり、出来る事が残されていたんですもの。


 わたくしは奮起し、薬草の知識を生かし、スパイスの貿易商を始めたところ大当たりし、一気に大逆転しました。


 一財産を築いたわたくしは結婚する気は無く、50歳を迎えた頃、後のことは他の家族に任せ別荘に引きこもり、ミュリナスの箱を開くべく薬草研究に明け暮れて、この時はわりと幸せに一生を終えましたのよ。


 上下振れ幅が大きくて、ドラマティックで素敵な人生でしたわ・・・・



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お読み頂きありがとうございます
眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
― 新着の感想 ―
 ここまでは少女と小動物の心温まる毒気少なめのファンタジーだったけど、一気に泥臭くなってきて歓喜。キナ臭い話大好物。  それにしても、何度も転生する魂ってかなりハードですね。前世を覚えている子供とか、…
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