アルシアとの再会
今は夜。外でフクロウが鳴いてる声がする。
いくつもの燭台の灯りで照らされた、壮厳な造りの聖殿の中。
───誰? 背後に響く軽い足音。
振り向くと、そこにはアルシアがいた。瞳を潤ませた美少女。
私、宮殿に戻って来たんだ! アルシアがいるってことは、ここは宮殿の中にある聖殿?
「お帰りなさい! シャイラ、あなたならきっと私の元に戻ってくれると信じてた」
「ワーッ! アルシア、ただいま!」
全てが嬉し過ぎるよ!
アルシアの両手を取ってぴょんぴょん跳ねた。アルシアも一緒にぴょんぴょん跳ねる。
同時に跳ねる私たちの髪。
手を繋いで、向かい合ってぴょんぴょん。次第に右に回りだす。
ぴょんぴょんぴょんぴょん。だってそんな気持ちだもん!
お互いの顔は、もちろん笑顔!
どうしてアルシアといるだけで、いつもこんなに楽しいんだろう?
向かい合い、手を取り合い、弾みながらお話する。
「アルシア、聞いて! 私ね、芽吹きの巫女に承認されたんだよ! すっごく頑張ったんだ。アルシアのお友だちでいたいから」
「シャイラ、私信じてたわ。これから先もずっと私のお友だちでいてくれるって」
「うん! アルシアのことも、誰のことも失いたくなかったからね、がんばれたんだよ! 聞いて! アルシア。ハァ、疲れた。ちょっと下に座ろう。密林にはね、すっごい生き物が──────────」
床に座り込んでふたり。私は積もりに積もった冒険譚を伝えたくて、アルシアに話し始めた。
*
アルシアは、笑ったり、びっくりしたり、顔をしかめたりしながら、興味深げに聞いてくれる。ナチャのお話はとても気に入ってくれたみたい。
「へぇー、さり気なく優しいのね。そのナチャという魔蜘蛛」
「でね、ジャーン! これがナチャとの出会いの思い出棒だよ。最初はもっともっと長かったんだ」
私は、上にかざしてアルシアに見せる。
「確かに棒ね・・・あ! ねえ? それ、私にいただけないかな? ダメ?」
「私にとっては記念だけど、アルシアにとってはただの木の枝だよ?」
アルシアが私の物を欲しがるなんて初めてだ。しかも密林で拾った棒切れ。
「ううん、そうじゃない・・・けど・・・」
どうしよう・・・そんな綺麗なお顔の上目遣いでお願いされたらさ・・・
「んー・・・」
まあいっか。私にはナチャから貰った水晶のキラキラお華もあるしね。アルシアったら、おかしなもの欲しがるよね。
「じゃあ、いいよ。でも捨てないでね。いらなくなったら返してくれる?」
「もちろんよ。私の短剣に誓って。だって、この棒にはシャイラとナチャの冒険が詰まっているんでしょう? ならきっと・・・」
「きっと?」
アルシアは首を傾げ、美しい緑色の瞳を上に向けてる。いたずらっ子みたい。
わかるよ。ちょっとニヤけてるし、何か企んでいるんだ?
「ねえ、きっとなんなのさ?」
アルシアには、ニコリと笑ってごまかされた。
「どこから入り込んで来たやら。、庭園に魔蜘蛛がいて、しかもシャイラが魔蜘蛛と仲良くなるなんて思いもしなかったわ」
「うんっ! ナチャはとっても良い子だよ。ぶっきらぼうだけどね。きっと会ったらアルシアとも仲良しになるよ」
3人で冒険したらめちゃくちゃ楽しそう!
「シャイラは誰とでも仲良くなれるのね」
「うん、けどね・・・えへへ、アルシアは私の中で特別大好きなお友だちなんだ!」
「・・・ありがとう。私もシャイラが大好きよ」
憧れでもあるアルシアに言われると照れてしまう。
───んっ!
いつの間に? 清廉の雫の前に捧げたはずのアルシアの短剣は、いつの間にか私の腰ベルトに戻っている。竜巻の時に?
「はい、これ。カラスさんの宝物になってたアルシアの短剣」
アルシアは受け取ると鞘から抜いて、お帰りなさいと呟き、刃にキスをしてから自分のベルトの腰に戻した。
「シャイラ、取り戻してくれてどうもありがとう。確かに受け取ったわ。・・・シャイラは私の眷属巫女になるのね。覚悟は大丈夫?」
「もちろんだよ。そのためにここまで頑張ったんだもん」
「シャイラ、あなたの存在は私の心の隙間を埋めてくれるの。シャイラの持つ澄んだ魂はとても尊い存在だわ。けれどシャイラは私の眷属となれば、私たち対等では無くなるの。巫女として私を補助し、私の命に従わなくてはならない。それでも側にいてくれるの? ゼニスおばあさまから聞いたでしょう? 私は重要な役割を持って生まれついているの」
「・・・もちろん知ってるよ。私、アルシアをお手伝いすることが出来るなんて、まだ夢みたいだ。お役に立てるかどうかは不安がいっぱいだけど。アルシアが大好きだから、アルシアだからお手伝いしたいと思ったんだよ」
私の返事を聞いた、アルシアの表情がキュッと引き締まったのがわかった。
「・・・さあ、立って。シャイラ」
スッと立ち上がったアルシアは、私の前に立って両手を差し出した。私はその手を握って立ち上がる。
清廉の雫の化身とは違って、温かい手。
そのまま無言で数秒見つめ合った。
私たち、深く結びつく代わりに失うこともあるみたい。
これからもお友だちなのは変わりないけれど、今までとはちょっと違う関係となる。
けど、これで私たちの友情が変わるわけじゃない。
小さく頷いたアルシアが、私の手を放した。
「只今より、シャイラの巫女承認の儀式を行う!」
この広い建物全体に響き渡る、力強く威厳あるアルシアの声。
初めて知る、アルシアの知らない部分。
きっとこれからもっとだね。
あちこちに灯る、燭台の蝋燭の炎が、アルシアの声に呼応するように明るさを増した。
「シャイラ。さあ、祭壇の前へ行きましょう」
*
ドキドキドキドキ・・・
アルシアの眷属巫女となる儀式が始まった。
祭壇の前で、ひざまずく私。
アルシアは短剣と、私のあげた思い出棒を、祭壇に預けた。
そして神に向かって宣言した。
「天成の神格の主アルシア、この娘シャイラを、我が眷属『芽吹き』の巫女とすることを今、主に報告せん!」
────これは幻?
白く硬い石の床から、メラメラと芽吹く緑に覆われた。
心地良いそよ風が吹き、可愛らしい野の花が咲き、蝶が舞い、天井では小鳥が歌う。背伸びの野ウサギ、跳ねるキツネ。川のせせらぎ。木々のざわめき。ワワ、小枝には妖精まで!
ほんの一瞬の出来事。
アルシアが私に振り返った時には、元に戻っていた。
この世の特別な存在・・・
どうしてこんな子と私がお友だちになったのか不思議。
「無事、承認されたわ。シャイラは今から巫女見習いよ。さあ、今夜はお家に帰ってゆっくりお休みなさい。シャイラも家族に会いたいでしょう? シャイラの身代わりをしていた影も、ベッドの中であなたの帰りを待ちわびているわ」
*
明るい光と小鳥の声で気がついたら、自分のお部屋のベッドの中。
「シャイラ! もう起きる時間よ」
部屋のドアを開けるお母さんの声!
「お母さん! ただいま!」
私は飛び起きて、お母さんに駆け寄る。
「まあ、この子ったら寝ぼけて。『おはよう』でしょ?」
「『ただいま』でいいの!」
お母さんのお腹に顔を埋めた。




