さらなる災難
あ、そうだッ! 普段使う機会も無かったけれど、ついにこれが役立つ時が来たんだ!
私のチュニックとズボンには追加ポケットが幾つも付いている。
それは、家族総出で仕事中、用がない私は、果樹園を抜け出して遠征して遊んでいることをお母さんは知ってるから。
『いいこと? 密林まで入ったらダメ! 迷子になって虎の餌になってしまっても知らないからね!』
怒られても私が私の探検をやめるわけない。
『果樹園からは出たら行けないっていつも言ってるでしょ? って言ってもシャイラは聞かないのよね?』
だって、周りの林やジャングルの方が面白いもん。マジ、木の棒そっくりな虫とか見たよ! 虹色に輝くめちゃくちゃ綺麗な虫だっている。何を食べればあんな風に綺麗になるの? くちばしの大きなカラフルな大きな鳥と出会うこともある。私がキーって呼ぶとすごく大っきい声でキーキー返すんだよ。
私の自然への好奇心は止まることはないよ。それにこれも私をウソつき呼ばわりして信じてくれないけれど、すっごくキレイで可愛らしい妖精さんと何度も出会ったこともあるんだ。
蜂や大きなヘビがいたり、時には知らない間に虫に刺されて、とんでもなく足が腫れ上がったり、危ない目に遭うこともある。けど、私が探検がやめられないのは、主に妖精さんに会いたいから。今日行けば会えるかもって思うと、行かずにはいられないよ。
そんな私を心配して、お母さんは私の服の裏に表にポケットをいくつかつけたんだ。朝、果樹園に行く前にあれこれポッケに入れなきゃなんない。それはあれこれお役立ちグッズ。
今、使えそうなのはこれ。小さく折りたたまれた大判の油紙。雨カッパだよ。お尻のポケットからモゾモゾ抜いて、広げて血の気を失い寒さで震えるアルシアを包む。
そんでもって迷子になった時お知らせするとか、動物を追い払うには、服の中の首に下げてる、小さな笛。ちっちゃいのに遠くまで響く音が出るよ。おじいちゃんが作ってくれた。
油紙に包んだマッチも持っている。火事になったら大変だから、基本使ってはいけないことになっているけど、今使うのになら文句はないよね? 煙を出して場所を知らせなきゃ! 焚火のやり方は、おじいちゃんが外で鹿肉を焼く時に手伝ってるから知ってる。
アルシアの傷口からの血はだいぶ止まって来てる。
「アルシア、ちょっと待っていてね。今助けを呼ぶから。大丈夫だよ」
私は物知りで器用なおじいちゃんの孫だもん。きっと何とかなる。
「・・・どうするの?」
「私、火を起こすマッチを持ってるんだ。まず落ち葉と枯れ枝を集めて煙を立てる。でもって私が木のてっぺんまで登ってこの笛をピーピー吹けば、宮殿の誰かしらに届くと思うんだ」
「さすがシャイラだわ。すごい思いつきね。けど、うまく行くかしら?・・・シャイラ、まずは私を置いて1人で戻っていいのよ?」
「そんなのは絶対駄目。その間に動けないアルシアに危険があるかもだし」
「・・・私が思ってた通り、優しいシャイラ・・・」
再び目を潤ませたアルシアだけど、私には大好きなアルシアを一人置いて、ここを遠く離れる勇気がないだけなんだよ。
「けど、アルシアちょっと待っててね。私は燃えそうな物を集めるから。この笛も預けとく。何かあったらこれで私を呼んでね。近くにいるからすぐに戻るよ」
「・・・シャイラ・・・ありがとう。なら用心のためにもなるし、枯れ枝を切るのに私の短剣を持って行くといいわ」
「うん、すぐに戻るからね」
私は、笛と短剣を交換すると薪探しに出た。
包帯に使って少しばかり短くなったチュニックの裾を左手で持って、そこに目についた枯れ枝を右手で拾い集めてく。
アルシアは一人きり。急がなきゃ。
*
これだけあれば、もういいいかな。足りなくなったら周りに落ちてる小さな枯れ枝と枯れ葉を足していけばいい。
裾いっぱいになったところで、近くでボサッと何かが落ちる音がした。何かの生き物がカサコソ蠢く足音がしたような?気がして、見回したけど、姿は無し。
まあ、いいや。アルシアの元へ戻ろう。
腰を上げて右手でトントン叩いた時だった。
───笛の音が鳴り響いた。
アルシアだッ!
私は薪を抱えて走る。
「わわわわッッッ!!」
余りに驚き過ぎて、恐ろしくてチュニックの裾を持っていた手がおろそかになって集めた薪が足元にバラバラと落ちた。
私の目の前に現れた大蛇のしっぽ。その向こうには、祠の裏側ギリギリまで這って下がってるアルシア
これ、どっから湧いてきたの!? 何を食べればこんなに太くて長くなれるのッッ?
見たことのない大蛇がアルシアに迫ってる!
この位置からしてアリシアを抱えて逃げるにはもう間に合わない! アルシアが噛まれてしまう!!
「アルシアッ! 今、助けるからねッッ!」
もう、怖いとか言ってる場合じゃない。アルシアの短剣を腰から外して、のっさりと蛇行しながら前身して行く大蛇の尻尾に斬りつけようとしたら、尻尾の一撃で吹っ飛ばされた。
「ウワッッ・・・!」
クソ痛ったぁい・・地面に無様に転がった私の頭には星がぐるぐる飛んで、視界には黒いモヤがかかった。
フラフラするけどすぐに立ち上がって、その見事な鱗の体を睨みつけた。
しっぽの先が危険ならば、体の真ん中へんなら?
それに私は間違ってた。短剣とは、斬りつけるものではなく突くものだ。
両手で柄を握りしめた。
スタートの為に、かかとに力を溜め込む。手のひらに汗が滲んで、服になすりつけて剣を持ち直した。
行くよ? 3、2、1───