雫の意思
《《《 私たちは、生きとし生けるものではありません。かつての巫女の意識の残滓なのです。それは純粋で清廉な部分に精製された心で形成されているのです 》》》
重なった3人の言葉が響く。
巫女残滓。清廉の雫の化身3人。全くズレること無く、同じ仕草で同じことを喋る。まるで作り物みたいに。
雫たちは、役割は別々だけど、意思の同化もするんだね・・・
《《《 シャイラ、あなたの後ろにいるのは、『滅び』の雫です 》》》
大分落ち着きを取り戻した私。尻もち体勢から立ち上がり、後ろを向いた。
闇よりも更に黒い人型が、薄闇にユラユラしてる。
《《《 滅びの巫女の出番はそうそうありませんでした。けれどもそもそも『滅ぼす』というのは究極の選択ですから、当然ですね・・・。アルシアに仕えた滅びの巫女は、かつては2人いました。私たちの中で一番強大な力をアルシアから付与されるのです。けれどもそれは、アルシアの決定により、滅びの魔法を大陸全体にスプレッドし行使する時だけ。普段は残滓とて、アルシアにより完全に封印されているのが『滅び』の力です。残滓と言えど、暴走したら大変な事態になりますもの 》》》
『滅び』は究極の力の行使────
私の頭の中で、ゼニスおばあさまから聞いてるお話とリンクする。
大陸を支配する人々がお金と欲にまみれて腐敗し、支配されるたくさんの人が犠牲となって死んで行って、いつしかそれが常態化した地獄のような大陸があったって。
身分が固定化し、生まれで全てが決まってる。支配者と奴隷。
奴隷の親の子どもは、支配層に全てを捧げるために生まれて来るの。
とても恐ろしい世界。働かされるだけじゃないよ。その体も切り刻まれ全て支配層のものにされる。
お金持ちに長生させるための供物となる。
奴隷は奴隷生産のために、様々な手法で産まされるんだよ。
世代を超えて行くうちに、人々にとってあまりに普通のことになってしまったので、ほとんどの人がその支配を受け入れて、奴隷制度も当たり前の世界になってしまって、人々が魂の異変に気づくことが出来なくなった世界があったこと。
人間だけではなく、自然と共生する、生きとし生ける動物や植物まで傷つけられて、目に見えないくらい微小な生物まで改変され屠られて、命を司る精の流れが狂い出し、その精すら変質し始め、神様の作り上げた浄化システムも間に合わなくなってきたって。
愛のない世界が広がり、人は傲慢にも神が悠久の時をかけて創り出した生物の根本の設計図まで、人間如きの幼稚な思いつきで壊し始めたから。
放っておいてもいずれ全ては滅びてからの再生は分かっていても、これ以上の精の変質を受け入れるわけにはいかなかった。その再生の始まりすら、危険因子が埋もれているのだから。
決心したアルシアが、仕方なく大陸を沈めたってことだね。
それが繰り返されること2回・・・
私が家族と暮らしてる世界がそんなことになるなんて、想像はつかないけど、ずっと先にはもしかして?
ううん、まさかそんなことあるわけない・・・
《《《 人間が創り出す支配の目的は本能的で短絡的ですのに、支配の構図は複雑怪奇なのです。高次元の深遠なる支配とは違って。わたくしたちが、この惑星全ての精の流れ全てを司るのは、自然界への愛と慈悲ゆえ。愛がわたくしたちのエネルギーとなるのです。また、ユートピアの拡大のためでもありますし、さらなる高次の清廉な精を生み出すためなのです 》》》
「高次の清廉な精って・・・?」
《《《 神とて、神に近しい魂を持って生まれ来る者を待っているのです。なぜだかそれは人間からしか生まれないのですもの。神とて、神としての始まりは人間として生まれてからなのです 》》》
「神様の元は人間だったってこと?」
《《《 ええ。けれども生まれし美しき魂も、人間が作り上げた歪な環境に置かれて、やがて穢れて行くものですから、本当の神と成り得る者はもういないのが現実です。かつてのわたくしたちのような、巫女の眷属が稀に生まれるのがせいぜいなのです 》》》
いよいよ核心に迫ってきたよ・・・
「・・・それで、えっと、私は巫女と認めてもらえるのですか? 今は現役の清廉の巫女は誰もいないってゼニスおばあさまが言ってました。アルシアの眷属がいないって」
《《《 アルシアは・・・かつてのわたくしたちの仕えた主人であり、親友でもあります。それも悠久の過去のお話。わたくしたちは清廉の雫をここに残し、新たな輪廻へと精のサイクルに戻ることを望んだのです。巫女で居続けるのは大きな喜びもあれど、大変苦しいことでもあるの・・・ 》》》
せっかく巫女になれても、みんな辞めてしまったんだ・・・
《《《 巫女になれる資質の者は滅多に現れない。アルシアは、自ら発見したシャイラという少女が気に入り、自分の眷属にと望んだ。孤独ゆえに、少々強引にあなたを巫女にしてしまおうと試みました。けれども神はそれを許さずシャイラ、あなたに試練を与えた 》》》
「はい、運良く試練は克服出来てここまで来れました。私、決して私1人の力で乗り越えられたなんて言わないよ。けど・・・どうか私を認めて下さい! 私、清廉の巫女になりたいよ!! アルシアに会えなくなるのはイヤだ!!」
私は再びひざまずき、雫たちの目を順繰りに見ながら訴えた。
必死過ぎて、勝手に涙がボロボロ止まらない。
《 わたしはシャイラ自身の清廉は認めよう。シャイラは巫女となる資格はある。が、済まぬ。シャイラは『輪廻』の巫女には向かぬ。故に『妖精』と『芽吹き』の雫にあたってみよ。・・・さて『滅び』の雫よ、わたしと戻るぞ。では良き娘シャイラよ、また会える日まで─── 》
夜の精霊のような姿をした黒ドレスの『輪廻』の雫の化身と『滅び』の影が、私の目の前からスッと消えた
ウソ・・・巫女としての資質を認められても、それだけじゃダメってこと?
そんなことってあり?
ショックで頭がクラクラだ・・・




