古代清廉の巫女残滓
ゴクリと喉が鳴る。
───これが古代清廉の巫女残滓、清廉の雫・・・?
清廉な心が結晶化したという呪物。
申し訳ないけれど、見た目は不気味だよ。
けど決して恐ろしいものでは無いってゼニスおばあさまは言ってた。
私は清廉の巫女にふさわしいかどうか古代清廉の巫女残滓に問わなければならない。
そのために私はここまで来たんだ。
────けど、どんなふうに問えば?
さっきのオルゴールの問いかけには、正直に心のまま答えたらここに来れた。ならば、私は心のまま問えばいいんだ、きっと。
恐れることはないよね? ゼニスおばあさま。
ヨシ、行くよ? 息をすぅーって吸い込んだ。
「かつての清廉の巫女様たち、私はシャイラです。私は清廉の巫女候補に選ばれ、密林から与えられた試練を越えてここまでやって来ました。どうか、私を新しき清廉の巫女としてお認めください。私、アルシアのお友だちでいたいし、この不思議な世界で大好きなアルシアを側で助けてあげたいよ。それに私はこの不思議な世界を離したくないよ! だって、この世界の存在を知ってしまったんだもん」
私は4つの清廉の雫の前で、膝をつく。
柄頭のペリドット輝くアルシアの短剣を、清廉の雫に捧げて。
────目を閉じてお祈りする。
今はもう、他に何をすればいいのかわからない。
宮殿の庭のこの密林にて、ナチャと一緒に越えてきた冒険の数々が、瞼の裏に次々と浮かんでは消えて行く。アルシアが時折私に見せた不安そうな顔も。事情を言えないまま、私の助けを求めていたんだと思うんだ。
────なんか起きてる・・・
閉じた瞼の裏に感じる、増して行くこの眩さは何?
そおっと薄目を開く。
ワ! 目の前には女の人の脚の幽霊? 夜光キノコ色に光ってる。蜃気楼みたいにユラユラしながら!
「な、な、な、なッッッ・・・!!!!」
びっくりして慌てて、後ろに下がろうとして尻もちをついた。
その姿勢のまま、光る女の人のユラユラのシルエット全体を見上げる。
ウソッ、私を囲むように目の前と左右にも1人づついるっ!
私はと言うと、後ろ手をついたまま腰が抜けて動けそうにない。
次第に揺らぎは収まって、それらは見とれてしまう綺麗なお姉さんたちになった。仄かに全身から発する光を纏った優雅な女の人3人。
「わッ、わッ、わッ! えッ、えッ、えッ???」
私、囲まれてるッッ!! どうしよう・・・
腰が抜けたまま、あたふた部屋出口の後ろを振り向くと。そこには、この薄闇より濃い闇の塊が揺らいでる。
チラ見しただけで、心臓がギュッとする。凄く重たい何かがそこにいる・・・
《シャイラ、ようこそ》
狼狽する私に、こだまする響きの声が頭に直接聞こえる。
私の正面にいる女の人の声だ。なんて姿麗しく、私を惹きつける甘い声なんだろう?
銀色の髪と雪のような白い肌。引き込まれそうなアイスブルーの瞳。キラキラとオーロラに光る布地の軽やかな白銀のドレス。
まるで女神様みたい・・・
この人たちは、壇上にある清廉の雫という名の呪物から出て来たの?
《あら、シャイラ? あなたのその衣装は・・・? どこで手に入れたのかしら? とても素敵だわ》
エッ? このチュニックのこと? お母さんが作ってくれて、カラスにボロボロにされたのをナチャが直してくれた。私の超お気に入り。
お姉さんのドレスも特別な糸で出来ているから、オーロラの艶でキラキラしてるのかも。
《・・・フフッ。シャイラ、そんなに驚くことはないわ。わたくしは、自然界における様々な種の精の融合、純粋なる精を精製、結晶化し、『妖精』の誕生を寿ぐ、『妖精』の巫女残滓なの》
チャーミングな笑みを私に投げた。
《シャイラ。次はわたくしよ?》
今後は左側からの声に横を振り向く。
カラス色の髪と衣装を纏う、美しい女の人。緑色のアーモンド型の目。透けた布地のドレスと白い肌。私と同じストレートの黒髪は艶めいていて、まるでオーロラの輪っかを頭に載せてるみたい・・・
《わたしは、この星に生を受けし命の、眠りと死を見守る『輪廻』の巫女残滓だ。肉体を失いし精を導く。ノクターナルな世界で精を統率する役割》
少し冷たく響く口調は、凛としてる。
《肉体が意識を失っている間の、精の世界を司る。暗黒の果てが知れない世界に於いて》
次は右側の人だ。
大きな丸い目は、なんとなく私に似てるかも。金色の柔らかそうなふわふわな髪には、とりどりの色の小さなお花が飾られていて、まるで春の女神様みたい。シンプルなドレープの若草色のロングドレスを身に纏う人。
《そしてわたくしは───》
最後の1人は、わかるよ・・・
《わたくしはかつての、全ての生きとし生けるものの生命と、その誕生を寿ぐ『芽吹き』の巫女たちの残滓なのです。芽吹きの巫女が微笑めば、命の芽が出るの。精を、実体を伴う誕生へと導くのです》
「芽吹きの巫女・・・」
《ええ、わたくしは芽吹きの清廉の雫。わたくしたち、巫女たちの清廉な心が結晶化し、意思を持ち、このような形態で存在しているのです》
そして残された一つは・・・『滅び』だね。
それは、私のすぐ後ろに────




