からくり
ここに立つのは2度目だね。
祠の階段を、一段ごと感慨深く踏みしめながら上る。
やっとたどり着いた。
絶体絶命のピンチも越えて、ここまで────
ナチャとの出会い。
湖の真ん中からの脱出。
毒ガエルに飲み込まれ、お腹にも入った。
モグラのトレイルさん経営、地下トンネルの快適なお宿。
夜光キノコ輝くカラスさんの宝の洞窟。ここでは痛い目に遭った。
トンネル出口にいた大蛇ミュリナスのいる難所は、私の子守唄のスキルで乗り越えた。
そして突然のナチャとのお別れ。
巨大モンステラ群の気根迷宮を、無事くぐり抜けた。
そして今────
日がどっぷり沈んだというのに、身一つで一人きり、外にいるのは怖い。
夜に見る木って、どうしてこんなに無気味に変わるんだろ? 大きな怪物みたい。
さざめく葉擦れの音は、私の心細さを掻き立てる。
時折、2つの光が、密林の向こうにチラチラするのは、そろそろ動き出した夜行性の四つ足の動物たち。
月夜に浮かぶ相当の年月を重ねたであろう石造りの祠は、とてもミステリアスで、神秘的だけれど、相当不気味でもあるよ。
上部半分は、完全に樹に飲み込まれてるから、まるで童話の中に出て来るドワーフのお家みたい。暖かいオレンジ色の明かりが漏れるかわいい窓はついてないけどね・・・
分厚そうな細長の2枚の石の扉。どちらにも中心には、8の字っぽい模様が4つ並んで刻まれてる。記憶では、アルシアはこれを再生のシンボルと言ってたと思う。
祠の扉の前で、ゆらゆら石に擦られながら風で揺られている太い気根は、たぶんあの時アルシアが切ったものかもね。
あとは清廉の雫に、お伺いを立てるだけ。早く終わらせてしまいたい。早く帰りたいよ。
閉ざされた扉を開くカギとなるアルシアの短剣はここに。
だから私は今、何者にも邪魔されず中に入れるはずだよ。
───けど待って!
鍵穴はすごく小さいよ? ギザッた細長い形。
てっきり短剣を差し込むとこがあるものと思ってた。私、アルシアの短剣をどうすればいいのさッ?
短剣の刃の先端を入れるとか? 石に突き刺すなんて刃が欠けてしまうよね? それにほぼ入んないし、鍵穴の形に全く合わない。大切な先端部分だし、絶対違うよ。
「・・・・・」
分厚そうな石の扉の前で立ちすくむ。
えっと・・・お尋ねする時はノック? 石の扉を手で叩いても、音はしないよ。
階段を駆け下り、小石を拾って来てコンコンした。
「こんばんはー。私はこの度清廉の雫の巫女候補となりましたシャイラです。アルシアの短剣も持ってます。開けてくださーい!」
ううう (。ŏ﹏ŏ) もしかしてって思って大きな声を張り上げたけど、うんともすんとも言ってくれないよ。
ねえ、アルシアの短剣が祠を開くカギではないの?
月明かりで照らされた、美しい鞘に収まった小さな剣をマジマジと見る。
これがカギ・・・
私は扉を背もたれに、そのままズルズルと背を滑らせ、足を伸ばしてぺったり座り込んだ。
「そういや、短剣がそのまま扉のカギになるわけないよね。カギとは言えない形だよ?」
村長さんちよりもっとお金もちのおうちの壁に飾ってありそうな、綺麗な装飾の短剣だよね。宝石までついてるんだもん。
月明かりに翳したら、柄頭に付けられた美しいうす緑の丸い宝石が、うっとりするくらい美しく映える。
そう言えば、これは魔法の短剣だったよね? カラスのお宝洞窟で、聞いたら鞘は刃の場所を教えてくれたよね?
「ねえ、アルシアの短剣さん。教えて下さい。ゼニスおばあさまはあなたは祠を開くカギだと教えてくれました。けど、どうやったらあなたはカギになるの?」
───ピカンッ・・・
ワワワ! 夜光キノコの傘部分のような、丸いペリドットの柄頭が、一瞬小さく光った。同時に、うす緑輝く1滴の雫が、私のチュニックの裾にポトンッと落ちた。
「アッ・・・!!」
それは、走らすペンのような滑らかな動きで私の裾に、うす緑に光る文字を綴って行くけど、書いた先から消えて行くよ。
─── Turn the screw to the right.
雫は一瞬で消えてしまった・・・
まさかの予想外の示し方。
けど、私、見たよ! d(`・∀・)b
ネジを右に回せって?
この剣で回せそうなとこって、柄頭?
チュニックの裾を挟ませて柄頭を掴んで、フンって力を込めた。アルシアの白くて綺麗な手で外せるのなら当然私にだって外せるよ。木登り得意だし、掴む力はあるもん。
────動いたっ!
グルグル回すと柄頭が外れた。ドキドキしながら引き出すと、その先は金属の棒で、ちゃんとカギの形になってる!
ヤッター! 短剣さん、教えてくれてありがとう! この宝石には、もしかして清廉の雫が入っているのかな? 雫で教えてくれるなんて。
鍵穴に差し込んで回したら、2枚の扉がゆっくりガラガラと内開きに開いた。
わあぁ・・・暗い。奥は真っ暗。
内側から湿っぽい空気がボワっと出て来た。壁の所々から、侵食してる気根のヒゲが飛び出してるのが月明かりに浮かんでる。
外側から見るより全然広いみたい。真っ黒で見えないくらい奥行きがある。どうなってるの?
取り敢えず柄頭のカギを穴から抜き取ると、柄頭のペリドットが急にパアッと輝き出した。
そっか。この明かりで進めってことだね!
────ハッ!?
なにかに見られているような不安に駆られて振り向いたけど、誰もいない・・・
良かった。いたらコワいよ。
────んっ?!
不安なせいか、何かがささっと過ったような気がして、周りをキョロキョロ見回したけど、やっぱなんにもいない。
私、相当ビクついてる・・・
そりゃそうだよ。夜中のおトイレだって、お母さんを起こしてるくらいだもん。ここに今、一人でいるだけでもめちゃくちゃ快挙なんだよ。
柄頭を剣に戻して更に中に一歩踏み込んだら、扉が閉じ始めたから、真っ暗な奥に踏み込むのを躊躇してる時間は無かった。
私は柄頭の明かりを頼りに、恐る恐る奥へと進む。
こんな無気味なとこに踏み込むことを選んだ自分に、ほんの少し後悔しながら─────




