迷宮
「ワ! ワワワワ・・・痛っ!」
足元に罠のように張り出てる根っこに足を取られて転んだ。
大丈夫。手のひらと膝が汚れただけ。
けど、転んだ衝撃は、腕の傷にもビーンビーンって響いてる。自分に言い聞かせてなんとか支えてた気分は急降下。
痛いのはともかく。
私が今転んだことも、一人きりでいたら全てが自己完結となることに気がついて、落ち込んで、そのまま座り込む。
こんな時、ナチャがいたらなんて言うかな?
「大丈夫か? シャイラ」のあとは、こんなんじゃないかな?
「シャイラも蜘蛛だったら転ばなかった」それとも「今のは、生き物の足は本来2本では足りない典型例」
なーんて言いそうだよ。ね? ナチャ・・・・
「・・・・・」
────虚しい。
よいしょっと。がんばって立ち上がるね。私は清廉の巫女になるんだ。
アルシアもナチャもエーゼお姉さんも応援してくれてる・・・・
「・・ううっ・・・クスン・・・」
景色が一部滲んで見えて、唇がワナワナ震えてしまうのは、泣くのをぐっとガマンしてるから。
唇をぎゅっと結んだ。
巨大モンステラ群の林を一人進む。
トゲあるシダ植物に覆われ、気根が交わる隙間を跨ぎ、くぐり、乗り越えて。
私は進むしかないんだ。
薄雲って太陽が見えなくなった────
*
どうなってるの? おかしいよ!
円の中心に向かってるはずなのに。
どうして何回も外側に出てしまうのさッ?!
アルシアと通った時は、道は険しかったけど、すぐに越えられたのに。
*
2回、林の外側に出されて、今は3度めのチャレンジだよ。
今度こそ!
*
同じとこをグルグル回ってる?
はー・・・疲れたよ。日が暮れちゃったらどうしよう。
心細い。お腹空いたな・・・
ナチャは今ごろどこで何してるんだろ・・・
ナチャのお直しチュニックのお陰か、虫に一つも刺されない。
ねえ、ナチャ。たった数日一緒にいただけなのに、なんて大きな痕跡を私に残していったの?
良さげな倒木があったから、腰掛けた。
「私は結局一人では何も出来ないただのお子様だったのかな・・・」
泣き言の独り言。ナチャに貰った水晶のお花を手にとり眺めてたら、景色が滲んで来た。
「・・・ナチャ・・・クスンッ・・・」
ダメだ。ここで泣いたら止まらなくなる。張り詰めて保ってる心が崩れてしまうよ。
────ボトンッ
ヒッ!
((((;゜Д゜))) びっくりしたぁ・・・
上から何か落ちてきたみたい。横っちょの、草と枯れ葉の茂みの中。
木から飛び降りた動物だったりして? またもやベビ?
恐る恐る覗いてみたら───
「・・・これは!」
上を見上げた。
ああ、これはモンステラさんの贈り物だ!
熟れたモンステラの実。
黄色がかった黄緑色の細長い実。私の腕半分くらいの長さ。ハチの巣みたいなハニカム模様の皮に覆われているの。滅多に食べられないごちそうだよ。だって実が熟すまでに季節一巡りかかるんだよ。
「ありがとう。モンステラさん。もしかして私を慰めてくれたの? 私、いただくね」
さっそく皮をむいてとうもろこし食べるみたいにかぶりついた。
ん~~・・・甘くてめちゃくちゃおいしい!! これ一つでバナナとパイナップルとマンゴーを思い起こさせる味。
自然のおいしい食べ物が、私にパワーをくれた。
気力を取り戻した私は、再び立ち上がった。
太陽は雲に隠れてたまま。きっともう半分沈んでる頃。だって、上空では、カラスさんたちが、すみかの森に戻って行く数羽の声が聞こえ始めた。小鳥たちの小さな群れが、ピーピーおしゃべりしながら、次々と同じ方向に向かって飛んで行く。
薄闇が迫るのは、たぶんもうじき。私は、落ち着いて、この林をもう一度よく見なければならないね。
モンステラの幹の目の模様は、葉っぱが落ちた跡。葉っぱが落ちながらどんどん上に背が伸びていくんだよね。
太陽の光を求める植物。
ならば、幹の北向きに生えた葉っぱが落ちて出来た目の跡の方が、南向きに生えた葉っぱの跡よりも、微妙に小さいって法則があるんじゃない? 南向きの葉っぱの方が有利だもん。
ブローシュアの地図から、私は北東に進めばいいことがわかる。
「よーし、3度目、今度こそ行っくよー!!」
───いいぞ! その調子だ、シャイラ!!
サワサワ葉擦れの音さえ、私を応援してくれてるように思えて来た。
日が暮れないうちに、攻略しなきゃね!
*
「あっ、これは・・・」
トレイルさんの地図で見た。
埋もれた昔の道。所々に顔を出してるのは、古の道に敷き詰められていたという美しいモザイクのタイル。
これは祠へと続く道だ────
「わあい!! 開けた道に出られた!!」
私、モンステラ迷宮を抜けたんだ!
タイルを見失わずに辿れば、もう迷うことはないよ!
ふと、雲に隠れていたお月様が出ていて、光る準備をしてることに気がついた。
もうすぐ闇が来る。
私は道を進む。速めた足で、確実に祠へと────
*
腰にはアルシアの聖なる短剣。
纏うは、魔蜘蛛ナチャ特製、オーロラ輝くチュニック。
ここまで進めた誇りを持て!
私は清廉の巫女候補、シャイラ────




